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【翻訳のヒント】日本人脳に注意~よく考えると「海外」って

こんにちは。レビューアーの佐藤です。今回はちょっと短めに、私が以前、無意識に犯していた間違いを告白して反省したいと思います。たぶん、多くの翻訳者がやってしまっている間違いだと思います。

別に問題ないように見えるけど……

いろいろ言う前に、まずは例を見てみましょう。あるメーカーのデジタル戦略の実績を紹介する資料からの抜粋です。

【原文】
5 international sites launched between 2017-2018

【訳例1】
2017~2018年の間に5つの海外サイトを立ち上げ

ぱっと見た感じ、特に問題はありません。10人の翻訳者がいたら、9人ぐらいは似たような訳を提出してくるのではないかと思います。ただ、「立ち上げ」の主語である「メーカー」が、たとえばドイツの企業だと考えたらどうでしょうか。少し引っかかる点はないでしょうか?

日本に生まれ、日本で育ったがゆえの罠

ここで問題になるのは"international"です。"international"を「海外」と訳すのは、日本人にとってごく自然な振る舞いです。日本という島国で生まれ育った人にとって、「外国」は常に海の外にあるものだからです。ですが、陸続きの国境を持つ国では、この常識は当てはまりません。たとえば、ドイツに生まれ育った人が、フランスのことを「海外」と表現することはありえないはずです。

ですから、上に示した原文が、もしもドイツのメーカーに関する説明であるならば、「5つの海外サイトを立ち上げ」という訳し方には違和感が出てきます。実際に、日本、イギリス、アイスランド……といった「海の外」の国でサイトを立ち上げた可能性もゼロではありませんが、そこまで裏付けをとる手間を考えたら、「海外」ではない、もっと無難な表現を使った方が早いでしょう。

その考えにもとづいて修正したのが、以下の訳です。

【訳例2】
2017~2018年の間に5つの各国向けサイトを立ち上げ

【訳例3】
2017~2018年の間に5言語に対応したサイトを立ち上げ

【訳例2】はシンプルな言い換えにとどめたバージョン、【訳例3】は”international”の意味を踏み込んで解釈したバージョンです。厳密に言えば、どちらの修正例もツッコミどころはあるのですが、「ドイツの『海外』ってどこ?」という違和感に比べたらマシかと思われます。

無意識の怖さ

最初に書いたとおり、"international"を「海外」と訳すのは、私もずっと無意識にやってきたことです。ですが、レビューの仕事を主にするようになってから、あるとき突然、「海外って変だよね?」と気づいて身震いがしました。これは決して誇張ではありません。"international"=「国際」=「国外」=「海外」という図式が脳内に無意識にできあがっていたことは、私にとって軽いショックでした。何しろ無意識のことなので、今までも同じような言葉選びのミスをしてきたのではないかと不安になったのです。

日本人が和訳を担当すると、身についた知識で自然な日本語表現を書ける一方で、こういう日本人脳によるバイアスもありうるのだな、と気づいた一種の恐怖体験でした。皆さんも同じ罠にはまらないよう、日本人ならではの思い込みをしていないか?その表現は本当に原文の文脈において正しいのか?ということを常に見直す意識を持つようにしましょう。

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