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推論とりで 2

 家とバイト先の往復にも輩が出没するようになり、店の中でも、平気でわたしの作業を妨害してくるので、我慢ができなくなりました。

 わたしは、店長に、警察を呼ぶようにお願いしましたが拒否されました。それどころか、お客様への態度が悪い、といって指導されました。

 黒塗りの輩たちは、店長を取り囲み、わたしに関する悪口を言っています。

「この店は、あんな無礼なやつを働かせているのか」

「言いがかりをつけられた」

「客に対する教育がなってない」

 店長はわたしを呼びつけ、頭を下げるよう指示しました。

 なぜ、一方的に尾行・追跡され、嫌がらせを受けているのに、その犯人たちに謝らなければならないのか。わたしは、こちらの言い分を全く聞こうとしない店長に腹が立ちました。

 そして、カッとなって店長を両手で突き飛ばし、そのまま店から逃げ出しました。


 まだ昼前なのに家に帰ってきてふとんに横たわると、冷静になり、まずいことになったと思いました。粘菌店をクビになるだけでなく、もしかしたら、警察に捕まるかもしれないと心配になりました。

 店長を突き飛ばしたのが暴力であるとなったら、わたしは逮捕されるかもしれない。

 すぐに店長から電話がきて、もう明日から来なくていいと言われました。わたしは、はい、と返事をしました。


 以上が、わたしがバイトをクビになった経緯です。

 それ以来、一日中部屋にこもっていましたが、問題の輩はいまもわたしの部屋を出入りしています。かれらは、いまはグループで嫌がらせするのをやめたらしく、一人ずつ交代で、わたしの家の周囲をうろついて監視し、さらに部屋に土足で入ってきます。

 黒い服に黒塗りの肌、黄色く血走った眼が目につきます。

 かぎを閉めても、なぜか効果がないのが不思議です。かれらは気が付くと音もなく家の廊下や、部屋のなかにおり、わたしを見てにやけています。

 そして、わたしに対する悪口を言います。

「なんと、みじめなのか」

「家族親戚だけでなく、あなたの同級生たちもみな、あなたがどれだけ情けないか認識していますよ」

「どうするんですか、これから」

 夜になるととくに騒がしく、寝ているわたしの周りを歩き回り、

「トレビゾンド!」

 等、脈絡のないことばを叫びます。


 こうした嫌がらせが1週間以上続いていましたが、ある朝起きると、気配がなくなっていました。

 代わりに、種田という中年の男がきました。この男は、黒塗り輩たちとは違い、家のインターホンを押してわたしに声をかけました。

 恐る恐るドアを開けると、スーツを着た中年男が立っています。

「はい」

「わたしは種田と申します。顔を黒く塗った男たちの件で、話があります」

「なぜ知ってるんですか」

「あの男たちについては、われわれが処分しました」

「どういうことですか」

「あなたは狙われています。詳しい話をするので、中に入れてもらえませんか」

「いや、それはちょっと……」

「もしわたしが信用できないのであれば構いません。この書類を受け取っていただきたいとおもいます」

 種田という男は、紫色の書類封筒を渡しました。中には紙が入っているようでした。

「これは、手続き書類一式です」

「なんのですか」

「われわれの組織に加入するための書類です。結論から言いますが、われわれは軍事的な組織です。あなたをぜひ採用しなければならない状況です。しかし、そのことに勘づいたわれわれの敵が、先回りしてあなたを攻撃してきたのです」

「軍事的な……」

「自衛隊とは別です。表の軍隊とは別に、裏側に潜む敵を突き止め制圧するために、われわれの組織があります」

「公務員ですか?」

「いいえ、正確には、法的には存在していないものです。いまここで話すのは内容上問題があります。きょうはこれで失礼しますので、書類を読んでください。連絡先があるので、メールでも、電話でもいいですからわたしに送ってください」

「とりあえず読んでみます」

「黒塗りの男たちは、敵の斥候です。これまでは監視や嫌がらせだけでしたが、次くるときは、あなたを捕まえて、拷問をしようとするに違いありません」

「本当ですか」

「敵の作戦はすべてマニュアルと計画に基づいています。早くしないと、拷問を受けます」

「わかりました」

 種田はあいさつをして駅の方向に歩いていきました。

 わたしは、あまり状況が理解できなていませんでしたが、とりあえずもらった書類に目を通すことにしました。

 あの男も不審人物ですが、輩のことを知っていたという点で、何か情報を持っているに違いないと思いました。

 

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