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[小説]深夜の妄想局 ep1

夜中に思い立ってメッセージを送る。
要件は仕事の話。
思いがけない長文。
返ってくるはずがない返信。

「こんな時間にこんな内容の長文送ってくるなんてあなたらしいですね」

思いがけない返事に返事を重ねる。

「そんな長文に返信してくるあなたも大概ですね」

「海外ですか?」
「日本です。深夜に長文を書いて送りつけています」
「変態ですね」
「あなたも」

「毎日こんなに遅いんですか?」
「いえ、今夜は特別です」
「あなたも?」
「締め切り前で、今夜は特別です」
「運命ですね」
「大げさ」
「その方が楽しいですからね」

「あの映画観ましたか?」
「チケットを買ったのに行けませんでした。観た方がいいやつですか?」
「観てから喰らってます。絶対観た方がいいやつです」
「ガツンと喰らいたい。観たら語らいたいですね」
「いいですね」
「想像したら楽しみになってきました」

「仕事の件、承知しました。映画は観たら語らいましょう。」

「絶対ですよ」

なんでもない、なんでもない。
深夜のテンションがそうさせた。
6年前のアルバムが突如喋り出す。
懐かしいリズムが心地よい。

妄想は自由だ。
幸せを奪わない。

ただ私の夜を少しだけ潤わせただけ。
あなたのは知らないけど。
私の明日が少しだけ待ち遠しくなっただけ。
あなたのは知らないけど。

懐かしい6年前をやり直したいと思っただけ。
やり直せると錯覚しただけ。
やり直すほどなんの歴史もない2人だから、またこうして話せただけ。

深夜3時を過ぎた頃。
夫のベッドに潜り込んだ。



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