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四国のひとに聞いてみる! Vol.10〈大木茂実 氏〉 -芸術に今、これから出来ること-

大木茂実(おおきしげみ)氏(todokeru,/劇団orangecycle主宰/元徳島演劇ネットワーク主宰兼代表世話人/日本演出者協会会員)

〈プロフィール〉
1978年生まれ、沖縄県出身。
1997年に徳島県の四国大学に入学。同演劇クラブに入部したことをきっかけに演劇にのめり込む。主に既成の戯曲作品を使用した公演を行ってきた。
2003年「劇団orangecycle」を立ち上げ、2016年「劇団まんまる」にも加入(2019年11月退団)。
また、2012年の国民文化祭をきっかけに設立した演劇団体「徳島演劇ネットワーク」にも加入し、毎年行われていた合同公演の全てに参加。積極的に公演主宰や演出などで携わり、団体の中心として活動していた。
本年2月には新しい劇団の「todokeru,」を立ち上げる。


今回は徳島で演劇作品を創作するとともに、そのコミュニティ作りにも熱心に取り組まれている大木さんにお話を伺いました!


-これまでと現在の活動、徳島での活動についてお聞かせください-


演出がしたい人間なので、徳島では既成の台本を使用して公演をすることが多かったですね。
大学の演劇クラブに入った時に先輩の影響で西田シャトナーさんや野田秀樹さん、成井豊さんの本を使わせていただくことが特に多かったです。舞台やVHS(当時はまだDVDが無い(笑))を観まくっていました。上演したことは無いですが鴻上尚史さんの影響も大きいと思います。

それ以外にもバイト代を貯めては大阪や神戸に足しげく通って本当に色々なお芝居を観て回っていました。それらが僕のお芝居の下地になっております。

最近では県外で合同公演やコンクールなどを行う機会なども多くありまして、そこでは全て自作で本を書いたお芝居作りをしています。20分位の短編作品やそれらをまとめたオムニバス作品とかですね。自身、江戸川乱歩作の小説を戯曲化した公演も行いました。

それとは別に徳島でずっと続けているのが、既成台本を使用した公演です。
そこでは演劇関係者が集まって年一回長編のお芝居を作っており、そこで主宰や演出をさせていただく機会が多くありまして、取りまとめおじさんとも呼ばれています(笑)
合同団体は今年の2月に惜しくも解散してしまいましたが、またやりたいという声も多くいただいているので必ずまた行いたいと思っております。

大木さん舞台写真

※徳島演劇ネットワーク合同公演 集合写真より


-昨今の新型コロナウイルスの影響をどう捉えられていますか-


思っていることは収まりきらないほどあるのですが、一言で言うと「想像力が試されている」んじゃないかと思いますね。
例えば健康と経済、そのどちらの面においても様々な立場の方がいらっしゃいますよね。
まさに新型コロナウイルスに罹患された方。最前線で戦っている医療従事者の皆さん。やむを得ずお店を閉める選択を取った店主。倒産の憂き目にあった会社、その社長、社員の一人ひとり。
いずれも生活・生命が脅かされる状況において、少なくともその立場に至っていない人間は、片方だけを見て言葉を発するべきではないと思っております。

最たる例は「自粛警察」です。あれは想像力の欠如故の産物だと思っています。僕は。
偏った想像力からそういうものは生まれるのかな、と思うんですね。
危険を伴う医療従事者や保育士など、沢山の患者や子供と接する業務に携われている方々に対して、
「コロナに罹っているかもしれない」という想像だけでその家と距離を取る。その子供をいじめる。営業しているお店に脅迫まがいの張り紙をする。他県ナンバーの車にコロナを持ってくるなと石を投げる・・・
貧困な想像力によって恐怖心が生まれ悲しい行動を取ってしまうのだと思っています。

ゴミ収集をされている業者の方や宅配業者の方に「コロナで大変な中ありがとう」というような温かい言葉を書いた張り紙をしている方がいらっしゃるという記事を見ました。(ゴミの種類によっては業者さんが困ってしまったという話もありますが)
そういった「豊かな想像力」を持っていくことが、今一番問われているのかもしれないと、僕はそう捉えています。


-ご自身の活動の中で実際に影響を受けていることはありますか?-


実はこの春に「todokeru,」という劇団を立ち上げまして、よし頑張るぞ!といった矢先の話ですからね。初夏くらいに旗揚げ公演も考えてましたが、旗はまだ上げられてません(笑)

とはいえ先を見ていかなくてはならないですからね。たぶん、どこよりも真っ先にオンライン稽古を取り入れて週2でずっと稽古をしておりました。
でも、公演を行うことは出来ないので下手に公演台本を使用して変な癖をつけさせてもしょうがないので、オンライン稽古用専用の台本を毎回書いておりました。そういう意味では作家という面で特訓が出来た気もします。
稽古に参加をしている団員も、自身の表情に着目するなど普段見られない箇所をチェック出来たりするなど、オンラインならではのメリットを探っていました。

とはいえ、絶対にみんな集まってやりたいんです。こんなに表現媒体が溢れている令和の世に大声出して身体使ってアナログな事を好き好んでやってる連中です。当たり前です。

今では非常事態宣言も解除され、継続してマスク着用・手洗い消毒の励行・ソーシャルディスタンシングを守りながら何とか顔を合わせて稽古が出来るようにはなりました。

ですが、状況は常に予断を許しません。いつまたオンライン稽古に戻ってしまうかという事は常に頭の隅に入れております。

今後の公演などを考えてもそうで、本番直前で上演中止を選択した劇団をいくつも見てきております。明日は我が身かもしれません。こういった考えが頭をよぎっては消え消えてはまたよぎってきます。いつになったら雲は晴れるのかと陰鬱としてしまいますが、ひたすらに思考は止めずにいくのみです。思考は止めません。

大木さん演出席

※演出席で指示を出す大木さん


-この状況下に置かれた芸術(舞台芸術)がなせることは何だと思いますか?-


ここで言う芸術は舞台といったものに限定させていただくとすればですが、これは個人的な意見ですが、僕は基本「無い」と思ってます。・・・怒られるかな?(笑)怒らんといてほしいのですが。
僕はこういった状況下になる以前、またその後こそが芸術の出番だ!という考えでして。

理由は大きく二つあるのですが、一つは例えばお能などの神様に献上するというコンセプトの物を除いてですが、基本的に芸術って人に見てもらって、はたまた聴いてもらって、感じてもらってナンボだと思うんです。
その、劇場に来ていただくべきお客様は、お客様ご自身の都合が合わないと劇場にいくことが出来ないじゃないですか。シンプルにそういう意味合いで今のような時期はタイミングが合わないって事はわかりますよね。

もう一つは、生きるための活力を与えてくれるものだったり、作品内容によってはこういう状況が生まれるであろうことへの警鐘を与えたり出来得ると思うからです。作品でいえばゾンビ映画とかもそうですかね。「感染」を意識したとき、それよりも人間の方が怖かったりするなんてことは既視感があったようにも思いますし。

活力の観点で言えば、作っている側はそういうコンセプトでやっている方もいらっしゃるでしょうが、大体やりたいことやってるだけです(笑)
ただ、そのやりたいことやってる物の、その熱量こそが観客に活きる力を与え得るのだと思っています。与えられてるかどうかは疑問ですが(笑)
少なくとも僕自身は与えられて来ています。これは僕個人の事なので事実だと言い切れます。

「今芸術がなせることは」ではなく「なすべきことは」と言い換えれば、「灯をともし続けること」だと言えます。これは力強く、そう言えます。
観念的な言い方になってしましますがただ細々と燃やすのではなく、青い炎のように静かに熱く燃え続けることが大事だと、今は雌伏の時だとそう思っております。
絶対に灯は消さない。その一心です。
そういう考えの舞台人は多いんじゃないかな、とも。

また、残念ながら新型コロナウイルスが完全に無くなることは無いとおもっております。
ワクチンが開発されればインフルエンザなどと同じく対処の仕方も変わっていくはずですが、我々はコロナ禍を経験してしまっている以上、払拭されることはなまなかなことでは有り得ないと思っています。
肝要なのは「コロナと上手く付き合っていく」ことじゃないかと、そう思っています。


-徳島・四国での今後の活動予定を教えてください-

大木さん顔写真2


とりあえず劇団を立ち上げた以上、第一に地元で旗揚げ公演をすることですね。とはいえ県外の方にも来ていただきたいので、そこも含めて状況はより良くなっていくことを願っています。県外にもまた出て行きたいとも思っていますし、何なら機会があればよその県の皆さんとお芝居作りがしたいとも思っております。まあ機会が無かったら作れば良いですし(笑)

また、前述した徳島での演劇関係者による合同公演は必ず復活させます。必ずです。
徳島県は四国の他の県と比べて演劇がそこまで盛んでないのが現状ですが、「毎年合同公演を行っている県は類を見ない」「毎年楽しみにしている」とおっしゃる声が多数ありまして、その期待に応えたい、徳島の演劇を盛り上げていきたいという強い思いで満ち溢れております。

演劇は楽しいと思っている方が、やる側にも観ていただく側にもいることを僕は知っています。
演劇は一人では作れない。だからみんなで力を合わせて、苦境を乗り越え、これからもやり続けていきます。


大木さんありがとうございました!

インタビュアー:田中直樹(東温市地域おこし協力隊)

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