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ショートショート「人間味ある」

 とっても腹ペコの宇宙人がこの惑星を訪ねてきた。


「ワガハイはとても腹が減っている。とにかく食べ物を持ってこい。さもなければお前らを食べてしまうぞ。」


 とんでもないことになった。もはや人間同士で争っている場合ではない。全人類を総動員して、とにかく食材を集め、一流のシェフからファミレスの店員、主婦(または主夫)を呼び料理を大量につくってもらった。これを宇宙人に渡したところ、


「こんなもんじゃ全然足りない。他の宇宙人いわく、どうやら人間は美味しいらしいじゃないか。お前らを食ってしまおう」


 人間たちは非常に困ったが、ある方法をA国の大統領が思い付いた。人間に似たアンドロイドを大量に作り、それを食べてもらおう。画期的である。金属なんて食べれたもんじゃないし、人間の味にがっかりして星へかえってもらえるかもしれない。思い立った人間たちは、すぐに行動を開始した。今度は全世界の科学者を集め、大量のアンドロイドをこしらえた。すぐに宇宙人に食べてもらった。


「歯応えはあるが、味がなくあんまり美味しくないな。聞いていた話とは違う。おっ、今食べたやつは甘くて美味しい。」


 そうしてたくさんのアンドロイドを食べてお腹がいっぱいになった宇宙人は星へ帰っていった。地球の技術力の勝利である。

ー夜ー

 寝る前に1人の科学者はふと思った。人間に限りなく近いモノを宇宙人に渡したのは正解だったのだろうか。そもそも僕らも人間による人工物とも言えるし、もはや人間と大して変わらないんじゃないかと思うと、心が痛い。たまたま目があったアンドロイドは涙を浮かべこっちを見ていたような気もする。憂鬱である。ほろ苦い気持ちではあるが、人類の勝利を祝って今日はウィスキーでも飲んでぐっすりと眠ろう。

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