この夜の悲しみをこねて、ひとつの塔にしたら
あの月に手が届くのでしょうか。
君の夢も希望も、輝く分だけ伸びていく塔。
私はどうか振り向かないで、と嘘でも願う。
変身した昨日が、何食わぬ顔して裏切っていく、何も変わってなどいないと。
頬に添えた手だけが本物だ。しわくちゃの、たくさんの悲しみを拭った手だけが。

愛していた、あの塔すらも。

鏡はどこにもなかったのに、沢山の私が、私をなぐさめる。
その高くそびえ立つ頑丈な姿に、勝てやしない富士山よりも、もっと無機質で哀れで、目を背けたくなるほどの……
雲の先に消えてしまった塔の先。
月になんて届くはずがない、塔に手を伸ばして呟くあなた。私はその手を愛している。

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