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アディクション治療の専門化・商業化と回復との乖離


――薬物からの解放を求めて――
2017年9月 日本犯罪社会学会報告加筆

                                                

1 はじめに
 薬物依存が、「病」であるとか、「罪」であるとかいったことは私たちは関心がなく、私たちを結びつけているものは「薬物からの解放」である。私たちの回復は精神科医療における寛解や刑事司法における更生といった狭いものではない。ダルクのような当事者主体の活動はまだ数少ない。社会の中に回復しやすい環境を作るために、私たちは新しい回復擁護運動を始めた。これは私たちの責任でもあり、私たちの事は私たちで伝え作るしかない。

2 ダルクと精神保健
1)精神保健及び精神障害者福祉
 1999年に、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律(平成11年法律第65号)により、覚せい剤慢性中毒者に関する準用規定(44条)が廃止されるとともに、アルコール依存症、薬物依存症が精神障害に含まれることが明確化された。よって、これまで精神医療・福祉行政の対応で中途半端であった薬物依存症を医療・福祉の援助対象として明確に位置付けた。薬物依存症が精神障害と定義づけられ18年が経ち、薬物依存者を取り巻く環境も大きく変わり出してる。『精神保健及び精神障害者福祉に関する法律』が改正されるまで一部のダルクが精神障害者グループホームや精神障害者小規模作業所として自治体からの認可を受けるダルクもあったがレアなケースであった。2000年当時、賛同者と共に活動していたダルクは全国に19ヶ所だったが、法改正により障害福祉サービス事業として認可を受け易くなり、運営資金の目処がつき、全国でダルク設立が加速された。障害者自立支援法の施行の2006年までに新たに17ヶ所のダルクが設置された。

2)障害者自立支援法 
 自治体から認可を受けて報酬を受け取っていた障害福祉サービス事業所としてのダルクは2006年4月施行の障害者自立支援法に引っ張られ余儀なく法人化を進めることとなる。45のダルクのうち、約半数24のダルクがNPO法人となる。これは当事者主体で運営をしていたダルクには大きな負担となった。引き続き障害福祉サービス事業として報酬を受け取るためには、制度上の制約である、支援状況の報告や収支報告に伴う事務作業が増えることとなった。一方で国の事業となった障害者自立支援法の下、NPO法人や一般社団法人を設立し、障害福祉サービス事業所としてダルクの設置が増える事となった。この一連の流れは、薬物依存者の回復支援が障害福祉サービス事業として成立し、かつて地域でインフォーマルな形での賛同者や支援者と共に創意工夫を駆使し運営してきたダルクと一線を画する事となった。薬物依存者の主体的、運動的運営は、法人の支配的、経営的運営となり、いわゆる一般専門職(精神保健福祉士、看護師)がダルク内で各種プログラムを提供するようにもなってきており、このことは薬物依存回復者でなくとも障害福祉サービス事業所として成立するようにもなった。ダルクが運営する日中支援制度に自立訓練(生活訓練)など規模が大きくなってくると一つ一つの事を利用者同士で決める事も出来なくなり規則が増えてしまう。かつて、近藤は、「規則があるから破られたときに腹が立ち、腹が立ち、一日三回のミーティングに参加するだけでいい。それ以外の規則は撤廃!」と決めたと言っている。また、本来の薬物依存者だけではなく、主たる問題が精神障害者や発達障害者の受け入れも行われるようになり、本来の役割以上に役割を担うようになってきている。社会にとって障害者のための居場所や施設が必要であることは必要であり理解できるが、社会運動的なダルクのフィロソフィー、依存者回復支援や回復擁護運動的側面が失われ、病気として依存や嗜癖の問題となると個人の問題として取り扱われ、社会の問題と取り扱われないことを危惧する。

3 病としての依存症治療
1)SMARPPの台頭
 Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program:せりがや覚せい剤依存再発防止プログラムが2006年に、松本氏が中心となり開発された。アメリカの西海岸で実施されているマトリックス研究所のマトリックス・モデルという治療プログラムを参考にし、認知行動療法や動機付け面接の手法を取り入れアレンジされた再乱用防止プログラムである。現在では、刑務所、保護観察所、精神保健センター、精神科医療機関、ダルクなどでセッションの回数や内容に若干の変更を加えたプログラムが提供されている。このことは薬物依存者に関わる専門職にも薬物依存者の回復について理解を深めることになり広がった。2015年には全国69ヵ所の精神保健センターにてプログラムの提供を行うことが決定された。2016年には、同プログラムが依存症集団療法として診療報酬加算が認められる事となった。これにより、現在88ヵ所の行政機関や医療機関で提供されている。しかし、薬物依存症者のために作られたプログラムであるにもかかわらず、診療報酬加算が認められたことでアルコール依存症者のみにプログラムが提供されている機関が12機関ある。このことは、まさしく専門化により商業化されたことを物語っている。エビデンスも無視した利益郵政ではないだろうか。

2)条件反射制御法
 条件反射制御法はパヴロフ学説が示すヒトの行動原理に基づく技法として、不適切な行動の根源となる欲求、好まない感情や感覚、パターン化された業務における不注意等を制御あるいは予防するプログラムとして、2006年に平井氏により開発されたプログラムである。このプログラムでの疑似接種や疑似行為についてアディクションに関わる医療関係者や支援者などから倫理上問題があると指摘を受けていることもあり、SMARPPのような広がりは見せていないが、司法関係者においては一部注目されている。
私たちにとっては、治療拒否が一般的である中で薬物依存問題に関わってくれる医師がいるだけでもありがたい事である。

4 再犯リスクとしての依存
1)刑務所で類型化される依存
 2006年の刑事収容施設法が施行され、薬物依存離脱指導も行われるようになった。指導にあたってはそのすべてでダルク職員が指導に協力することになったが、近年SMARPPが台頭したことにより指導内容も変更され心理職の採用も増え、ダルク職員の協力機会も減少している。また、依存度別にグループが作られるようにもなり、ダルクなどで行われる多様な段階の仲間が参加し相互に体験から得た経験をシェアするものではなくなった。このことは回復モデルや希望と出会う機会を失う事となった。受刑期間が1年から3年程度の間に提供される薬物離脱指導教育時間が1単元60分、10単元から12単元で行い総指導時間が20時間も無いのは残念である。薬物事犯の裁判において、長期の矯正教育を必要とするなど検察から論告されるが、実際は懲役刑であり、教育時間など微々たる時間となっている。今後、懲役刑を廃止し、強制的作業を伴わない自由刑が導入されるのであれば任意での教育の時間が増やせるのではと期待している。

2)保護観察で類型化される依存
 刑事司法や更生保護においても、福祉化が進み、ダルクが自立準備ホームの登録を行い、出所後に行き場のない者の支援を行う事でここでも薬物依存者以外の受け入れも行われるようになっていきている。更生保護施設の設置が進まない中、当事者による主体的ボランタリーな活動でもあったダルクを一時的に安価な下請け施設のように利用する事になっていることは否めない。ここでも商業化が行われている。いわゆる貧困ビジネスのモデルとなり、ホームレスや居場所のないものを囲い生活保護費を搾取するという輩も多くなった。ダルクにおいても、誠実な当事者主体の回復プログラムがなければ貧困ビジネスになりかねない危険性をはらんでいる。

3)再犯予防刑の一部執行猶予
 刑の一部執行猶予に関する法律の条文に「依存の改善」とあるように薬物使用が単なる犯罪行為ではなく、病気と捉えたとこは前進であり、一方で保護観察期間が長期になり、薬物検査において陽性反応時に再収監となれば、長期の受刑者を生む可能性も否定できない。結果的に刑の長期化、厳罰化になる可能性もある。実際、この間の判決を見ていると、猶予期間が3ヶ月から8ヶ月と短いわりに2年から4年といった長期の保護観察期間があり、積極的な社会内処遇ではない。猶予期間を延ばし積極的な社会内処遇を設定していく事こそがこの法律の趣旨ではないか。
 
5 むすび
 制度は利用するものであって制度に利用されるものになってはいけない。このような一連の薬物依存者への治療、福祉の専門化、商業化は当事者活動の搾取であり支援とは言い難い。これはアディクション問題を個人の問題に押し込め社会的問題としての解決を遅らせる事となる。アディクションの連鎖を断ち切り、傷ついた本人、家族、周囲の人たちが癒される場所やつながりを増やして行く必要がある。ダルクは、地域で薬物を使わない暮らしを支えるインフォーマルな支援を育て広げてきた。このような役割を専門的、商業的、支配的なものにしてしまうのは最悪のシナリオである。アディクトにとって、強制的な回復は回復ではない。それは管理と支配でしかない。主体的回復こそが真の回復であり、単に薬が止まっているという状態ではなく、その人らしい生き方に役割や出番を見出す。その時アディクトは回復していく。

文献
平井秀幸・高橋幸司・梅野充ほか,2009,『薬物依存症  者が社会復帰するための回復支援に関する調査』 NPO法人東京DARC.
近藤あゆみ他,2016,『刑の一部執行猶予制度の施行 に向けた民間薬物依存症回復支援施設の実態把握 と課題の解明に関する研究』
近藤恒夫,2009,『拘置所のタンポポ』双葉社
松本俊彦,2016,『よくわかるSMARPP-あなたにもで きる薬物依存者支援』金剛出版.
平井慎二・長谷川直美,2015,『条件反射制御法入門』 星和書店.

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