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積もる世界

「潰れるよ」「潰れるよ」

美術館に降っているものは、鳥。
私のいる階段の踊り場に落ちてきたのはヒクイドリ。

「そんな鳥のところに行っても意味がない。あっちのペリカンの上が沢山積もっていて死ねる。」

そう言って同僚の彼はペリカンの上に積もりに行った。
ペリカンの上には彼の他に様々な色と形をしたものが乗っている。中でも目を引いたのは赤や蛍光グリーンをした、タコのようなもの。

あの中に混じるのか?私はそう望んでいない。それに気づいてからその場から離れようとした。

逃げ回る。昔行った美術館や働いたコンビニ、通った図書館、大学、しかしどこも同じようなものだ。詰まって潰れて、でも横にずれれば少し空間があるのに、皆そうせず、逃げずに積もっている。

ある積もった山の裏に引き戸があった。横にスライドして開けてみた。
「こちらから逃げられますよ。そうしないんですか。」
そこにいたウサギのようなものは答える。
「どうしてそれに気づかせるんだ」
私は黙って戸を閉めた。

声が聞こえた。私と同じように逃げ回るものの声だ。その生き物は弱々しく、なんの動物にも似ておらず、淡いクリーム色をして、小さい。
「たすけてください」

淡い生き物を抱えて周りを見渡すと、棺桶が3段ベッドのように重なった乗り物がやってきた。
運転している者の顔は見えない。黒と深緑色の布をまとって、骨の出た傘のような帽子を被っている。

あれに潜り込めば逃げられる。私はそう思って、自分は真ん中の段に転がり込み、小さい生き物は上の段に放り込んだ。

棺桶の車は進む。蓋を少しずらして、仰向けになって外を見る。もう世界は鳥を台座に上に積もり積もってほとんど隙間がない。その間を器用に縫って運転手は黙々とペダルを漕いでいた。空が明るく白く光っているのが見えた。

車が止まった。墓のような広場だ。
棺桶の運転手とは別の男がやって来た。大きな刃物を持っている。運転手は刃物の男に会釈し、私たちの乗っている棺桶を引き渡す素振りをする。

上の段から小さい生き物の声がした。
「あぶない。あいつは液を吐きます。かけられたら、洗脳にかかったふりをしてください。それでやり過ごしましょう。」
どういうことだ、と問い返す暇もなく、私の棺桶の蓋があけられる。刃物を持った髪の毛のない男がそこにいる。その刃物は何に使うんだよ。そう思っていると、男が吐きかけてくる液体で、視界は蛍光ピンクに染まった。

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