もやっちのばくはつ!
しがつになった。
しがつになったってことは、ひとつおにいさんになったってことだ。
おかあさんとおとうさんが、
「おめでとう!ねんちょうさんになったね!いちばんおにいさんになったね。」
っていってくれた。
オレもうれしい。ほいくえんのなかで「いちばんおおきいくみさん」だもの。やっぱり、えっへん、っていうきぶんになる。
でもさ、おかあさんとおとうさんはおめでとうだけじゃなくてさ、
「ねんちょうさんだから、おてつだいいっこふやそうか。」
とかさ、
「もうねんちょうさんだから、このくらいじぶんでやろうね。」
とかいうんだ。
なんだかちょっぴりめんどうくさいけど・・・まあ、いちばんおおきいくみさんだからね。そのくらいは、あさめしまえだぜ。
オレは、あたらしく、げんかんそうじをにんめいされて、おふろでひとりでからだをあらえるようになった。レベルアップだぜ。
いよいよ、ほいくえんがはじまった。ともだちはかわらないけど、あたらしいおへやに、あたらしいせんせい。あたらしいおもちゃ。イエーイ!
だけど、なんだかオレのおなかのあたりが、へんなかんじがした。なんだか、もやってかんじだ。ちいさくて、はいいろのくもがおなかのなかにうかんでるみたい。
それから、きょうはみーくんが、
「あっちゃんのことおいかけようぜ」
っていったから、あっちゃんをおいかけたんだけど、
あっちゃんは、
「おいかけてこないで」
っておこるし、
いっくんは、
「オレとたたかいごっこしようぜ」
っていったから、いっしょにたたかってたら、みーくんとあっちゃんはつまんないっていうし。
「じゃあ、ラーメンやさんごっこしようよ」
ってオレがいったら、みんな「いやだ」っていうし。
もやっ、もやっ、もやっ。
はいいろくもが、どんどんできていく。
もう、みんなすきかってなこというからこまっちゃう。みんながたのしいあそびってなに?
もやぁ〜。
きょうはなんだかおなかがへんなかんじ。もやっ、もやっ、もや〜ってすることばっかりだ。
もやっ、もやっ、が続いていたら、どんどんがったいして、いえにかえったころには、おなかのなかにまるでなにかがいるみたいなきぶんになった。オレのおなかのなかで、もやもやしたやつがグルグルうごいている。
なんだかからだがげんきにうごかない・・・。
オレは、ねっころがって、ミニカーをのろのろうごかしていた。
ずーっとそうしていたら、おかあさんが、
「はやくおかたづけして、おふろにはいりなさい!」
とおおきいこえをだしたんだ。そのとき・・・
ドッカーン!
「わかってるよ!うるさーーーーーい!」
オレのおなかのなかの、もやもやしたやつがあばれてばくはつした!
それから、なみだとはなみずもでてきた。
ボロボロー!ズルズルー!
「うわーん!」
おかあさんは、びっくりしてオレをみて、すっとんできた。
「どうした、どうした。いつもこれくらいのことでなかないじゃない。」
おかあさんはオレをだっこしようとした。
だけど、オレはなきながら「いらない」っておかあさんをおしのけた。
「ふーむ・・・。ちょっとおまちくださいね」
おかあさんは、ちょっとかんがえると、オレのおもちゃばこから、おもちゃのちょうしんきをもってきた。
「はい、おおきくすってー、はいてー。」
おかあさんが、とつぜんおいしゃさんのまねをはじめた。
オレはいやだったのに、つい、つられてしんこきゅうしてしまった。
「ねつは、ありませんね。どこか、いたいところはありませんか。」
「・・・おなかがぜんぜんいたくないけど、なんかへん。このへんが、へんなかんじがする。」
オレは、おなかのうえのほうをさわった。
「ふーむ、へんなかんじとは、どんなかんじでしょう?キリキリ?チクチク?ズーン?それとも、もやもや?」
おかあさんが、いろんなおとをいってきた。
「もやもや。」
オレがこたえると、おかあさんがこういった。
「ふむ、それは、ひょっとすると・・・、もやっちのしわざかもしれませんね。」
「もやっち?」
いつもは、かぜですね、とか、たべすぎです、とかいうのに、もやっちってなんだ?はじめてきいたぞ。
「もやっち、ってなに?」
「うーむ、きょうは、ひょっとすると、とくべつたいへんなきもちだったんじゃないかい?」
おかあさんは、まだおいしゃさんのふりをしている。
オレがうなずくと、
「じつはねえ、つかれたきもちやことばにできなかったきもち、かなしいきもちなんかがたまると、おなかに、もやっちがうまれるんだよ。もやっちがちいさいうちに、やっつけられないと、どんどんおおきくなって、さっきみたいにばくはつしてしまうんだ。」
おかあさんは、ちょうしんきをとると、ゆっくりオレをだっこした。
「どうすれば、やっつけられるの?」
「うーん、そうだね、たのしいことをしたらやっつけられることもあるし、ねたらやっつけられることもある。うんどうしたり、おいしいものをたべたり、のんびりしたり、おしゃべりしたり。こうやってだっこしたらちいさくなったりもするよ。」
うそっこのおいしゃさんは、かんぜんにオレのおかあさんにもどった。
「おかあさんにも、おとなにも、もやっちいるの?」
「ざんねんながら、いるんだよね。もやっちとは、ながいつきあいよ。おかあさんやおとうさんだって、ばくはつしちゃうことあるでしょ?」
そういえば、そうだ。ふたりともときどきばくはつしてる。
「きょう、オレのからだにもやっちがうまれちゃって、これからずーっといるってこと?」
オレはちょっぴりこわいきもちになった。
「いえいえ、もっとまえのあかちゃんのころから、もやっちはうまれたり、おおきくなったり、ばくはつしたり、きえたりしていたんだよ。だけど、きょう、それにきづいたってだけよ。きづいたってことは、おにいさんになったしょうこだ。」
「ふうん。」
「もやっちのこと、ちょっとこわい?」
「ちょっとだけね。」
「じゃあ、こういうのはどう?」
おかあさんは、オレをだっこしたまま、よっこらしょ、とえんぴつとかみをとりにいって、こんなえをかいた。もこもこで、はいいろで、でもちょっとにくめないヤツ。
「ほら、こわくないでしょ?たのしいことして、ちいさくしてあげればいいだけ。」
きづいたら、オレのもやっちはちいさくなっていた。
「おかあさん、さっきはごめんね。」
「そんなひもあるさ。さ、いっしょにおふろはいろう!」
そのとき、
「おとうさんも、いっしょにはいろうかなあー。」
と、おとうさんがおふろにはいるじゅんびばんたんでちかづいてきた。
「いいよ!さんにんではいろう!」
もやっちは、オレのおなかのなかからすっかりいなくなっていた。
ひさしぶりにさんにんではいったおふろは、めちゃくちゃせまくて、ぎゅうづめだった。あったまって、げんきがでて、もやっちのかげもかたちもなくなって、よかったけど、もうちょっとおおきくなったら、ひとりではいりたいなっておもったのは、ここだけのひみつだ。
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