男の子でアナ雪が好きだっていいじゃん!
ある日の夜のこと。何にも問題ない様子で楽しそうに夕ご飯を食べていたけれど、食後に突然、息子はぽつりと言った。
「今日、みんなにアナ雪のキーホルダーバカにされた。男なのにおかしいって」
息子は小さい頃からアナ雪が好きで、たまたま一度祖母に買ってもらったアナ雪の入浴剤に付いていたささやかなキーホルダーを保育園用のリュックにつけている。どのくらい好きかというと、未満児の頃、ディズニーランドのアナ雪のパレードを見て号泣したくらいだ。その他にも、大好きな仮面ライダーのキーホルダーなども付いているのだが、たまたまこの日、アナ雪のキーホルダーがお友達らの目に留まったようだ。
「えー!なんで。男とか女とか関係ないじゃん。いいじゃん、好きなんだから」
「でもおかしいって、なんでって」
「好きだからつけてるんだよ。なんか文句ある?っていってやればいいじゃん」
「そんなこと、言えないもん」
そこで息子はシクシクと泣き始めた。ああ、そうだよな、お母さんだって、おんなじようなことがあったら強く言い返せないかもしれない。…いや、お母さんも、言い返せなかった。あなたと同じように、言い返せないでいたんだ、それも、ずっと。
「じゃあ、〇〇は何て言ったの?」
「…お母さんが勝手に付けたって言った」
そこで泣き声が、わっと大きくなった。
「そっかあ。。。お母さんはいいけどさ……〇〇がアナ雪を好きって気持ちが、悲しくないかい?男も女も関係ないんだよ。好きなものは好きでいいんだよ。アナ雪が好きって思うその気持ちを、自分が一番大事にしてやってね。誰にも踏みにじらせちゃいけないよ。〇〇も、お友だちの好きなものを笑ったりしないで、大事にしてあげてね。」
うん、うん、と言いながら、シクシクと泣き続ける息子。
よしよしと、背中をさすりながら、ああ、と思った。お母さんも、同じようなことがあったよ。そして、周りの人に否定されそうかもと察したら、隠したり、そっとしまうようになったよ。ああ、そして、今自分が子どもに言った言葉は、私が子どもの頃、言われたかった言葉かもしれない。自分の好きを、自分が一番大事にしてあげて。誰にも踏みにじらせないで。
ちょっと、6歳には難しい言い方をしてしまったかもしれないけれど…どうか、自分の大事な領域に、他人に土足で踏み込ませない強さを持って。そう願って、背中をさすり続けた。
そのうち落ち着いてきて、ズッ、ズッと洟をすするので、鼻をかんでおいでと促した。泣いて熱くなった子どもの背中から、感情が蒸気になって立ち上っていくようだ。みんなに笑われて、かなしかった。自分の好きを、自分でバカにしちゃったのが、かなしかったって気がついた。お母さんのせいにしちゃったのが、いけない気がしてモヤモヤしてた。それから…
息子が目も鼻も赤くして、頬に白い涙跡をつけて戻ってきた。
「男も女も関係ないなら、なんで笑われるの?」
「それは、笑った子たちが、男も女も関係ないってことをまだ知らないのかもね」
「ふーん」
後ろ向きになって私の膝の上に、ストンと腰かけてきた。
「アナ雪のキーホルダー、外して行くかい?このままつけておくかい?どっちを選んでもいいんだよ。」
「……」
「笑われるのが嫌だったら、おうちに大事にしまっておいてもいいんだよ。」
「…このまま付けてく。」
「そうか。じゃあ、リュックしまってお風呂に行こうか!」
「うん!」
息子はけろりとした顔で、リュックをいつも通り乱雑にしまうと、いつも通りふざけてお風呂にむかった。
キーホルダー、私だったら、外したかもしれない。〇〇、すごいな。と思った。
もう6歳。大人になった自分でも、この頃の記憶はいくらか残っている。今日アナ雪のキーホルダーをバカにされたことは、息子の記憶に残るのかな、それとも忘れるのかな。私は、息子の気持ちに寄り添ってやれたかな。
自分だってできなかったことを息子に言ってしまったり、偉そうなことを言ったり。息子と自分は違う人間なのに、自分の後悔を、つい息子にして欲しくないと思ってかけてしまう言葉もある。
自分の好きを自分が一番大事にして、かあ。息子に向き合うようで、自分と向き合うようだなあと、私は頭を掻いた。
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