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ホップ農家が伝える遠野産ホップの魅力

今回の記事では、2021年に東京から移住してホップ栽培に取り組む生産者が、遠野のホップ産業の魅力についてご紹介します。現在、募集をおこなっている【地域おこし協力隊】をはじめ、ホップ農家に興味を持ってくださる皆さんの参考となれば嬉しいです。



・はじめに

岩手県遠野市は、令和5年度の「地域おこし協力隊」として、ホップ農家、わさび農家を募集しています。

遠野市では総務省の「地域おこし協力隊制度」を活用し、地元企業や生産者と連携しながら、ホップやどぶろく、文化など、遠野の人々が育んできた豊かな地域資源を活用した地域おこしに取り組んでいます。

【地域おこし協力隊の募集要項】はこちらよりご確認ください。

1.自己紹介

【記事を書いた人】
ホップ栽培コーディネーター/醸造するホップ農家
神山 拓郎(こうやま たくろう)

1990年生まれ、東京都出身。大学卒業後、都内の団体職員として7年間務めたのち、2020年2月より(株)遠野醸造で研修生として活動を開始。2021年6月より遠野市地域おこし協力隊として着任。同年、遠野アグリサポートを立ち上げ、代表を務める。​​​

日々の活動については各種SNSで情報発信中
Facebook X (旧twitter)

【主な活動実績】
1.ホップ農家 
33aのホップ栽培に取り組む。遠野産オリジナル新品種ホップの栽培を担当する。
2.栽培農家の支援
遠野アグリサポートを立ち上げ、ホップカレッジを開校。ホップ栽培の課題解決に取り組む。
3.ビールの里プロジェクト PRイベント
ビール醸造、遠野産ホップ、遠野野菜のPRイベントを主催。
その他、現地視察や体験会のコーディネートを担当する。


・遠野市とホップ

1.ホップとは

遠野産オリジナル新品種ホップ ミックスフルーツ(仮)

ホップはハーブの一種で、アサ科の多年生植物です。
主にビールの原材料として使用され、苦味や香りをつける役割を担っています。ホップの品種は300種類以上あり、それぞれ香りが異なるのが特徴です。最近では、バスソルト、ハンドクリームといった商品にも活用されています。

2.遠野市のホップ栽培について


遠野ホップ栽培60周年 記念ポスター第一弾

岩手県遠野市は1963年にホップの生産を開始しました。
遠野市はもともと冷害が多い地域で、露地野菜が育たないという課題を解決するために、導入されたのがきっかけです。
最盛期には200名を超える農家が栽培に取り組み、市の中心産業として発展してきました。2023年には栽培60周年を迎え、現在も地域を代表する農作物として栽培が続けられています。


・新規就農とホップ栽培

こちらでは、遠野のホップ産業の特徴についてご紹介していきます。

1.契約栽培

遠野市のホップ栽培はキリンビール社との契約栽培でおこなわれています。収穫したホップは品質ごとに等級分けして、全量買い取りとなります。

ホップの売買価格は数十年に渡り、安定した高価格での取り引きが続いています。

一般的に、就農初期は販路開拓や事務作業などに時間を取られ、肝心の栽培が疎かになり失敗するケースも耳にしますが、ホップは販路や価格変動に頭を悩ませる心配がないので、栽培に集中することができます。

2.ホップ農家による充実した栽培指導

遠野市では20代~80代の農家20名がホップ栽培に取り組んでいます。就農希望者に対しては、研修を担当する先輩農家を中心に、生産組合全体で指導をおこないます。

若手ホップ農家(20代~50代)7名のうち、6名は他地域からの移住者です。いずれも非農家出身で、遠野ではじめて本格的な農業を学びました。

私も2021年に遠野市へ移住し、ホップ栽培を通してはじめて鎌を握り農業に関わった人間です。2023年春からは、研修を受けつつ自身も農家として独立した栽培にも取り組んでいます。

【ホップ栽培を学んだことある人間なんて早々いないだろうから、できなくて当たり前】

農家の皆さんは、研修生に対して知らないことを前提に一から丁寧に指導してくださいます。

農業初心者でも安心して基礎から学ぶことができる環境が、新規就農者の定着につながっています。

そして、研修中に印象的だったのが【まず やってみろ】という言葉でした。

研修では、師匠の下で基礎と実践を繰り返しながら、60年間受け継がれてきた技術を自分の中に落とし込んでいきます。

時には、他の農家を手伝いながら、色々なやり方を学んで、自分に合ったオリジナルな栽培スタイルを確立していける土壌があります。

先輩農家による研修会の様子

遠野のホップ栽培には、風通しの良い現場で多様なバックボーンを持つ生産者が活躍できる環境があります。

ホップ農家は毎年試行錯誤を繰り返しながら、より良い栽培方法を模索しつづけています。技術も情報も包み隠さずに、お互いに共有して生産に活かしていくという考え方で、栽培歴が長いベテラン農家たちも積極的に情報を吸収し、良いものは取り入れていく柔軟な姿勢で栽培に取り組んでいます。 

栽培歴30年を誇る農家も【まだ30回しかやっていないし、その年ごとに気温も天候も変わるから、僕らも毎年ホップ栽培1年生だよ】といいながら、今年はこの部分を工夫してみてるんだと語る姿が印象に残っています。

農家の仕事は農作業、機械メンテナンス、農業機械の運転、経営など多岐に渡ります。就農希望者の方が、これまで身につけてきたスキルや知見を活かして活躍できるフィールドがあります。

遠野のホップ栽培を支える生産者

就農した後も、先輩農家は心強い存在です。就農初期は作業が思うように進まなかったり、農業機械や生育に関するトラブルで頭を悩ませる機会も増えます。

そんな場面でも、先輩農家は良き相談役であり、時には自分の作業を置いても助けに来てくれる頼りになる存在です。

そして、作業終わりによく耳にするのが【今日の作業分は俺に返さなくていいから、次に新しい農家が就農した時に助けてあげてね】という言葉です。自分たちも先輩からそう言われてきたからと。

この言葉には、遠野のホップ農家が60年間受け継いできた想いが凝縮されているように思います。私も遠野産ホップを支える一員として、先輩たちのDNAを受け継いで、次の世代に繋げていきたいと思っています。

遠野のホップ栽培を支える関係者

移住者が直面する課題のひとつに、地域に上手く馴染めるかという問題があります。

そんな場面でも、先輩農家たちの存在は大きいです。

先輩農家を介して地元のコミュニティに溶け込みながら、地域に馴染んでいく。最初の1歩を後押ししてくれる存在でもあります。

最後に研修を受けるにあたり、大切にしていることをお伝えします。

  1. マナー(礼儀やあいさつ)

  2. 謙虚さ、積極性

  3. 作業に取り組む姿勢

ホップ栽培は、チームワークを大切に、皆で助け合いながら栽培に取り組める方に向いている作物だと思います。

農家は日々沢山の人に支えられて活動しています。時には、自分のことと同じくらい、誰かのために手を動かすことも大切です。

また、移住して農家になるためには、新しい環境で既存農家と関係性を築きながら、地域に根差していくことが求められます。

その中で、就農希望者が独立に向けて準備を進めていく過程では、多くの関係者のサポートを受けることになります。

地域の関係者との信頼関係は、日々の作業を通して少しづつ構築されていきます。

サポートしてくださる皆さんに敬意を払い、熱意を持って取り組む方には、一緒に未来を築いていく仲間として、しっかり向き合ってくれる環境があります。

農繁期や収穫期はチームで動くこともあり、契約栽培という性質上、自然農法や販路開拓など、独自色を出した農業をされたい方は他の作物をおすすめします。

3.官民一体のサポート体制

【TONO Japan Hop Country】 ロゴマーク


遠野市では、持続可能なホップ栽培によって地域を活性化し、ホップ、ビールを活用しながら、官民一体となって地域おこしに挑戦する「ビールの里プロジェクト」が進行しています。

農家だけでは解決が難しい課題に対して、それぞれの事業者が自分達の強みを活かして、解決に向けて一緒に伴走する体制が整っています。

遠野市のホップ栽培に関わる組織

・農家
・農業関連組織(JA、普及センター、農業共済など)
・民間企業(キリンビール社・JR東日本社)
・遠野市役所
・市内事業者(プロデュース会社、醸造所、地域商社、地域旅行会社など)
・一般サポーター

主な課題と解決について

1.農繁期の人手不足・担い手不足
栽培支援イベントの企画、地域おこし協力隊制度を活用した担い手の確保

2.乾燥施設の老朽化
大規模修繕工事の計画と資金調達

3.高騰する資材費への対応
高騰する糸代金の一部補助制度の運用

プロジェクトの大きな成果として【ふるさと納税】の仕組みを活用して集めた財源約2400万円を基に、2023年冬から乾燥施設の大規模修繕工事第1期目が開始されます。

ホップで街が活気づくことが、農業だけでなく、地域の支えになる。ホップを守ることが地域を守ることに繋がる。そんな風土が根付き始めています。

4.最高の想い出をつくる農業

ビアツーリズム イメージ写真

ホップは高さ5.5mの棚に蔓を伸ばして栽培していきます。
収穫期の8月には壮大なグリーンカーテンを目指して、日本全国から沢山の方がホップ畑を訪れます。果樹や露地野菜のようにその場でホップ自体を味わうことはできませんが、遠野産ホップを使用したビールを片手に、圧倒的な空間で唯一無二の特別な体験を提供することができます。

ビールの里プロジェクトでは、ホップとビールを軸にした遠野らしいビアツーリズムを広めていくことを目的として「TONO Japan Hop Country」というブランドを立ち上げました。

今後ツーリズムとの掛け合わせで、景観を資源としたビジネスの広がりも期待されています。


・おわりに

今回の記事では、新規就農者から見た遠野のホップ産業についてご紹介しました。私たちはプロジェクトの関係者全員で、ホップ産業を守りながら、ビール、ホップで地域を活性化していきたいと考えています。

ぜひ、私たちと一緒にビールの里のメンバーとして、ホップ栽培にチャレンジする皆さんからの応募をお待ちしております。

最後までご覧いただきありがとうございました!
記事を読んでくださった皆さんと、いつか遠野のホップ畑でお会いできること楽しみにしております。

次世代ホップ農家の第三次募集についての詳細はこちらからご確認ください

就農に関する情報は【ホップ農家就農ガイド】からもご確認ください