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毎日休業うつらうつら日記(2023年7月1日~7月7日

23年7月1日

昨日の定例ZOOM飲み会、せいうちくんは「疲れて眠い」と最初から参加しないで寝てしまった。
同じサラリーマンのSくんUくんHくんはいつも2時ごろまで頑張っているのにだらしない。
と言いつつ、私も眠くなってしまって12時には落ちた。

しかしそのあと2時間ぐらい寝たら目が覚めてしまって、息子の結婚式について皆の意見を聞くのを忘れていたのもあり、復帰。
沖縄でのリゾート婚に親きょうだいだけならともかく友人も呼んで20人ほどの規模でやるなら、当然「足代」は出すべきだろう、とケチで非社会人のGくんでさえ言う。
息子はそのへん全然考えてないようだ。心配。
「そういうあたりはあなた方が出すんだよ」とSくん、
「息子は当たり前のように甘える、って決めてるよ」って。
きっとそうなんだろうなぁ。
妻のMちゃんにも、「お客さんの交通費や宿泊費で困るようなら援助するから」って言っちゃったもんなぁ。

しかしこんなに親が両手を揉み絞って心配してるのに、「結婚式なんてエンタメだ。面白ければいい!」と長老が笑い飛ばすので少々頭にきた。
自分は妻亡きあと育て上げた2人の娘さんにきちんとした結婚式を上げさせているくせに!
図らずも娘さんの1人の結婚式にはせいうちくんの会社の知人も出席していたので、
「ヒゲで長髪白髪のヘンなおじいさん、いませんでした?花嫁の父なんですけど」と聞いてみたところ、
「ヘンじゃなかったよ。陽気な、いい人だったよ」という答えだったそうだ。
長老は猫かぶるのうまいからなぁ。

せいうちくんからすらも「もう息子の結婚式のことは心配するのやめなよ。彼らの式なんだから。あんまり口を出すと、うちの親がやったみたいなことになるよ」と釘を刺されている。
家出して勝手に開いた結婚式だけどやはり親も招待するんだろうと考えて来てもらったんだが、式場を知ったとたん(ホテルウェディングでも結婚式場でもなく、国民年金会館。だって自分たちでお金出すんだもん)、式場を見に行き、お料理のランクまで聞き出して「お料理が貧相。差額は出すから一番いいランクのコースにしなさい」とお義母さんが言ってきた。
「全額出すからホテルでやれ」の方がいくらかマシな気がする。差額だって!

もちろんせいうちくんがはねつけてくれたが、結婚式当日の流れに「ご親族ご一同様の集合写真」を入れてなかったので、伯父さんが「こういう時に写真を撮らずにどうする!」と号令をかけ、全員で写真室に押しかけたらしい。
進行真っ最中のせいうちくんが、「ご新郎様、ご親戚様たちが…」と急遽呼ばれて、
「写真撮影はやりません」と説明し、なおも怒られていたようだ。
だって予算もないし、別に親族写真ほしくないんだもん。

もっとも、親たちの出番がほぼなく、せいうちくんの〆のスピーチの間神妙に金屏風の前に立っていてくれた件について、すべてが終わってから私の父に意見された。
「あなたたちのやりたい結婚式の形があれなら、両親を金屏風の前に立たせるべきではなかった。あくまでゲストの1人として着席していてもらう方が良かっただろう」
さすが大事な時に大事なことを言う以外はモノを言わない男。
神妙に反省した。

こういう経験から、息子たちの結婚式にも口は出したくない。出すとしたらお金だけなのが望ましいだろう。
ただ、従来の「普通の式」からはかなり離れたものになりそうなので、どういうコンセプトなのかもうちょっとよく聞いてみることにしよう。
Mちゃんによればその後も現地のお店とZOOMで打ち合わせを2回ほどしているようで、話は進んでるらしい。
さて、息子は白タキシードを着るか?!

23年7月2日

今日も昼過ぎまで2人とも爆睡。
起きてからせいうちくんは図書館に行き、ついでに駅向こうでモスバーガー買ってきてくれた。
2つずつ食べたら双方おなか一杯になってしまったので、夜は軽くそうめんで。
あとはまた昼寝して本読んでお風呂入って大河ドラマ「どうする家康」を観る。
瀬名と息子が自決しちゃったよ。
これまでの歴史小説で知っていた話とはずいぶん違う気がする。
せいうちくんが言うには、昔のことだから資料とか限られたものしか残ってなくて、我々が刷り込まれているのは大方「司馬遼史観」だから、いくらでも異説があっていいそうな。
大河ドラマも毎度同じ史観で描いてても仕方ないからか、今回はものすごく冒険してきてると思った。

平和に寝て、寝つかれない私は夜中にキッチンでタバコ吸ってて、IHヒーターの上に派手にアイスティーをぶちまけてしまった。
鎮痛ジェルを塗っていたため、手がぬるぬるでグラスを持ったら滑ってしまったのだ。
あわてて拭いたが、奥の通気口にけっこう入ってしまったような気がする。
腐っても調理器具だから、水をぶちまけられるぐらいは想定内だとは思うが、なにしろ電気で加熱する代物なのでこの先異常が出たらどうしよう。
とりあえず寝てるせいうちくんには明日報告して謝ろう。


鳥飼茜の「サターンリターン」を10巻通して読んで、今まで全然わけがわからなかった話がやっと理解できた。
最後の9巻10巻は同時発売だったこともあり、読み取り切れていなかったのだ。
こんな話を仮にも結婚経験のある2児の母が描くってことに畏れを抱いたが、浅野いにおとの2回目の結婚も破綻していたようで、やはり彼女は結婚には向かないのかもしれない。
(いや、それを言ったら浅野いにおも向いてるとは到底思い難いが)
彼女の「女性性」への怒りは常に伝わってきて、そのへんは渡辺ペコあたりの中途半端な怒りとは違って腹の底から怒ってるように思える。
私がせいうちくんと結婚する前に、持っていた怒りだ。

今でもその怒りの片鱗を感じることは多いが、何しろ社会的に無生産者なので、あまり大きなことも言えない。
他人からのセクハラにもDVにもあったことなく、痴漢は腹立つけどどうしようもなくて、今、オバさんを通り越しておばあさんになってやっと安心して生活できる。
「若さ」と「女性性」を両方持っていると生きにくい局面があるんだろう。
今の女性がより解放され、産む性としての特性はどうしようもないとして、それ以外の場面では昔より幸福になっていることを願う。

23年7月3日

せいうちくんが出社なのでヒマ。
もちろんテレワークの日でも基本仕事をしているわけだからこっちはヒマなんだが、家に誰もいないとヒマ感倍増。
ごろごろとマンガを読んでいたが、2週間に1回整形外科でシップと鎮痛ジェルをもらう日だと気がついて、夕方から出かけてみた。

そこそこ混んでいたが図書館で借りた本を読んでるうちに順番が来た。
両手の腱鞘炎が治らないのでよく診てもらったが、注射1本打てばいいという程度にひどい炎症でもないので、引き続き鎮痛ジェルを塗って様子をみてくれと言われた。
膝に関してはもう、黙ってシップをくれるのみ。
痛みは何とか抑えられているのでそれで良しとして帰る。
前より大判の湿布をもらっているため、半分に切って使うと2週間たっぷりもつのだ。
1度、「いつものサイズがないから」と大判をもらって初めてその良さに気づいた。
以来、毎回大きい方をもらっている。

寝る前にシップを貼ってそれ以外の足の部分に鎮痛ジェルを塗ってくれるのはせいうちくんの仕事。
手だけは自分で塗る。
ついでに睡眠薬や安定剤ものませてもらって、寝る前の作業が格段に楽になった。

23年7月4日

息子の結婚式で中島みゆきの「糸」を歌おうと思う。
超定番だ。
ずっと前に、せいうちくんが将棋で息子に勝った時、賞品として私が彼らの結婚式で歌う権利を得た。

30年さわってなかった50年物のフォークギターを出してきて、少し弾いてみたが、当たり前にまるっきり指が動かくなってる。
おまけに指が太くなっていて、コードを押さえた左手の指が他の弦を邪魔して、ちゃんとした音が出ない。
「超不安!気持ち悪くなってきた。吐きそう!」とせいうちくんに弱音を吐くと、あっけらかんとした顔で、
「何言ってるの。しばらくさわってなかったんだからそれが普通だよ。まだ何カ月もあるんだから、練習する時間はいくらでもあるよ」とのんきなもの。


ギターでイントロから弾くのは無理があると思ったので、せいうちくんにも前奏、間奏、後奏をフルートでお願いした。
この人はなぜかフルートを持っていて、結婚した頃にはヤマハのフルート教室に通っていたこともあるのだ。
「いいよー」と引き受けてくれたが、彼によればその後、フルートがしまってあるクロゼットの方を見るだけで気持ちが重くなるようになったそうだ。

「キミの気持ちがわかった。ものすごく重たい!」と叫ぶのを今度はこっちがにまにましながら、
「まだまだ何カ月もあるのだから」と返す。
いい気分だ。
この重苦しい気持ちはね、実際にフルートを出してきて思うように吹けないことを実感してからが本番だよ。

2人とも譜面は読めないが、まあ参考までにあった方がいいだろう、と「糸」のギター譜をAmazonで500円で買う。
届いたけど、今んとこ2人とも開く勇気がない。
Mちゃんにも許可を取ったら、「お父さんとお母さんの演奏、お母さんの歌、きっととっても素敵です!楽しみにしています」と快く許してくれた。
結婚式まであと4カ月半。
我々はどれぐらい真面目に取り組めるだろうか。
本気で4カ月もやったら1曲ぐらいまともに弾けるようになる気がするんだが、毎日ギターのあるあたりを迂回して暮らしている毎日だ。

そう考えると、お客さんからお題をもらって一発で即興コントを舞台上からお届けしている息子は大した度胸だ。
「失敗なんてあり得ないよ。やること自体が、もう成功なんだよ」といつも楽しそうに言っているが、マイクを前にギターの運指を間違えたら、それはもう大失敗だろう。
そんな小さな見栄っ張りな人間が2人で今、途方に暮れている。
いいお祝いにはなると思うんだが、そこを考えるとなおさら緊張してくる。
練習、練習、練習あるのみ!

23年7月5日

心療内科の通院日。
いい感じに曇っていて涼しかったので自転車で往復した。
駐輪場激戦区ではあるものの、中心から少し離れたクリニックには専用の駐輪場があるのだ。
他に買い物等でうろつく予定がない日は自転車が便利。

今後5年間ぐらいの見通しが立った気がする、せいうちくんが少しヒマになりそうだ、とドクターに言ったら、「それはよかった」と喜んでくれた。
しかし、そのためにせいうちくんのキャリアを終わりにし、今後稼げたかもしれない給料と退職金をふいにした、と重苦しく思っている、と告げると、笑い飛ばされた。
「ご主人はあなたと過ごしたいんでしょ。老後のお金のことは誰でも心配するもの。ある程度の貯えがあるなら、今度はそれでどうやって楽しく過ごすかを考えるべき。今まであなたはどうやって生きて行ったらいいかを模索してきたけど、今度はひたすらどうやって老後を幸せに生きるかを考える時期だってことですよ」ってさ。
もっともなので傾聴しておく。

「クルーズに行きたいのと、友達とお金出し合ってハイエース買って、車中泊の旅を1カ月とかしたいんですよね。主人は『古墳』を探す旅に出たいそうです」
あまり驚かないドクターの口があんぐり開いた。
「こふん?」
「お墓の古墳です。地方に行くとけっこう名もない古墳があるみたいですよ。それを誰のお墓か調べたいとか言ってました」
「あなたのご主人は…変わった人だと思ってはいたけど、本当に変わった人だね…」
いやいや先生、古墳ハンティングぐらいそれほど奇矯な趣味じゃないですよ。





「まだ薬はしばらく減らせないかぁ…」と残念そうなドクターからもらった処方箋をアプリ送信しておいて、家の近所の薬局で受け取る。
先月せいうちくんと2人で受診した皮膚科から、アレルギーの薬と私のケロイド痕治療用のカプセルのリフィル分ももらってきた。
リフィルとは、病院は最大2カ月分の薬しか出してくれないが、同じ処方箋をリフィルにしてもらうとひと月ごとに1回、3カ月分までもらえるシステムだ。
次の時期が来ると薬局がアプリと電話でお知らせしてきてくれる。
実に助かる。

家に帰って夜になり、老後の生活を考えていたらむしょうに不安になってきて、「大丈夫だよ。ちゃんと暮らせるよ」と言ってくれるせいうちくんが寝たあと、どうにもこうにも耐えられなくなってしまった。
明日は出社のせいうちくんを起こすわけにもいかず、夜中の1時半に息子に「起きてる?」とメッセージで聞いてみた。
すぐに「起きてるよ」と返事が来たので、電話してもらう。

妻のMちゃんは寝てるそうで、
「あなたは何をしていたの?」と聞いたら「クッキング・パパ読んでた」。
「そうか、母さんは北斗の拳読んでた」と言うと笑って、「同じぐらいの時代だね」って。
親子して夜中にマンガ読むしか能がないのか。

ひとしきり不安を訴えたら、「大丈夫だよ」とせいうちくんみたいに言ってくれた。
「母さんにどうしててほしい?」と聞くと、
「元気でいてくれればいいよ」。
「母さんが、重くない?重量的にはともかく、精神的にさ」
「(笑)まだまだ大丈夫だよ。全然平気」
心弱い私にこんなに優しい息子が育ってくれてよかった。
言葉はひどいが、「使いでがある」。

しかし、彼もいずれは(すでに、か?)自分の家族のことを一番に考え、幸せに暮らしていくべきなので、今のうち、この程度にしておかなきゃな。
「今、清々しく幸せな気分で暮らしてる?」と聞くと、力強く「うん」。
いろいろ恵まれて安定している私がこんなに心乱れていてはいけないね。
息子に心配かけないようしっかり暮らそう。
こっちが何も言わないのに心配してくれるほど献身的ではないと思うので、勝手に元気に暮らしていさえすればいいんだから。

「北斗の拳ではトキが一番カッコいい」と言うと、
「彼は人気あったね。ケンシロウは別としても、2番目ぐらいに人気あったと思う」。
そうだろうそうだろう。慈愛の南斗聖拳だからね。
今夜は全27巻を読むまで起きていたいな。
息子はクッキング・パパを何巻読んだら寝るんだろう?

明け方の4時ごろ読み終わって、「ラオウが死んだ後の話は余分だったと思うんだけど」とメッセージを打ったら、今朝返事が来ていて、「修羅の国編は不評だね。誰に聞いても」という答えだった。
「連気闘座までが本当に面白いよね」って。
どこからどこまでが「連気闘座」までなのかよくわからないが、ラオウが「我が人生に一片の悔いなし」と死んで、ケンシロウとユリアが彼女の残り少ない人生を共にするため去っていくところまでが本当に面白かったよ。

23年7月6日

Mちゃんに「お母様含め、そちらの皆さんの都合のいい日をアレンジしてくれますか?」とLINEで頼んだら、その日のうちに返事が来た。
「母と息子くんに聞いてみました。7月17日(祝休)でいかがでしょう?大宮のビアホールで、お昼からでどうですか」と言ってきたので、一も二もなく賛成したら、「いつも大宮にご足労願っているので、もっと東京寄りでもいいですよ。ただ、お店を全然知らないのですが」。
何言ってるの、Mちゃんの方がよっぽどこっちにわざわざ来てくれてるじゃないの、の意を伝えて、「大宮、大変けっこう。2人の住む街を訪ねるのも楽しみです」と返したら、「では前に行くつもりだったところにしましょう。時間が決まったらまたご連絡します」。
Mちゃん相手だと話が早いなぁ。

今日はせいうちくん出社日だったけど、昼頃返ってきた。
それからはテレワーク。
私も横でPCを打つ。
こういう平和な時間はいいね。

昼の光の中にいると、昨夜の灼けつくような不安と孤独はすっかり消え去っていた。
やっぱり夜中の案じ事は良くない。
朝起きて夜寝るスタイルのせいうちくんの生活リズムにもっと合わせた方がいいみたい。

23年7月7日

心臓の検診日。
江口のりこ似の不愛想がチャーミングな女医さんは案外うっかり者で、
「今日は血液検査しますから、採血しますね」
「そうすると、ワーファリン値は今日はわからないわけですね?」
「(小指の先からぽちっと採って)器具で調べます?」
「はい、お願いします。でも、私、先月採血してる気がするんですよねー」(血液検査は3カ月に1回)
「えっ、ええっ(電子カルテ見て)、ああ~もうやってましたね~。間違えました。すみません!」
このツンデレなところがとってもキュート♡

で、採血はなしになってワーファリン用の血を1滴だけ採る。
値は「2.0」。実にちょうどいい。
「ここんとこ安定してますね」と江口のりこ似も大喜び。
あとは行政から来た帯状疱疹のワクチン補助券が使えるかどうかを確認する。
できるそうだが、生ワクチン1回と不活化ワクチン2回があって、やはり2回の方が効きが良くておススメだそうだ。
2カ月空けての2回接種になるし、補助が半額出てもかなり高額だが、うちはせいうちくんがはっきりとしたヘルペス持ちだから、私も打っておいた方がいい。
実際、唇とかに軽く疱疹が出ることがあり、江口のりこ似曰く、
「すでに出ていても効きますよ」とのことなので、打っておこう。

次回の検診日にワクチンの予約をして、さて、役所から問診票を取り寄せなきゃ。
せいうちくんも同じクリニックで打つと言ってるので、ついでに手続きしてもらおう。

近頃マンガがたくさん読めていて嬉しい。
たいていのマンガは人の苦悩や孤独を描いていると思う。
中にはそこから脱出する解決策を秘めているものもあり、そういうのは大傑作だ。
こうしている今も、私はたくさんのマンガを読み、登場人物たちの苦しみや寂しさに共感し、時には何かのヒントをもらう。
だが、何のヒントもなく、「人生は苦しいものだ。そして自分1人のモノだ」という話に一番圧倒される気がする。

最近では西荻弓絵×幾田羊「相続探偵」全8巻、武論尊×原哲夫「北斗の拳」全27巻、江戸川エドガワ「人間消失」4巻まで、間瀬元朗「イキガミ」全10巻を読んだ。
どれもことの大小はともかく危機に陥った時の人間の心理をよく表現している。
せっかくこれだけ読んで人間心理を勉強してるんだから、何があっても落ち着いて最善手を探したいものだ。

一番軽いのは「相続探偵」だったが、それでも「相続は『争族』と呼ばれるぐらい、身内同士でもめるものです。だからこそ自分が死ぬ前にきちんとした遺言状を作っておくべきなんです」というくだりはじーんと身に沁みた。
母は遺言状を書いたが、走り書きのようなものでそれについて私と話し合うことなく、姉を通じて「検認済みだ」といきなり提示されたので、禍根が残った。
「遺言状は家族にあてた最後の手紙」「問題はお金じゃなくて愛なんですよね」と言われるとうなずくほかない。

ところで最近、長年すっぴんに水洗いだけで済ませてきた自分の顔に対して、基礎化粧品を買うようになった。
わりと張りのあるお肌はできるだけ保ちたい数少ない自分の財産なので。
大型スーパーに入っている化粧品店のブースを回ったり、心療内科の薬局(同じビルに整形外科が入っているのが美容整形外科寄りなのか、化粧品をたくさん扱っている)で相談した結果、いきなり大量の基礎化粧品を買い込む羽目になった。
せいうちくんは、
「キミがお肌を大事にするゆとりが出てきてよかったと思うよ」と浪費をとがめない。

OLの頃にはせいうちくんとのデートで百貨店に行き、CLINIQの基礎化粧品や石鹼を一気に数万円買ったりしたものだから、「OLのおねーさんってスゴイ。こんなにいっぱいある化粧品屋さんで行きつけがあって、万単位であれこれ買うんだ!」とちょっと脅かしたりしたものだが、メイクをしていたバブルの頃を抜けると元々面倒くさかったのもあり、いきなりすっぴんになった。
そもそも私のメイクアップ術は拙く、いかにも「化粧してます!」って無駄に力の入ったものだった。
S社の同期会で女友達から、
「この人はね、目の上を紫に塗ってた人なのよ!」と笑われたぐらいだ。
つけまつげを使ったことがないぐらいしか言い訳はできない。

「お肌の手入れは大事だよね」と喜んでいるせいうちくんに、
「あなたのお母さんが『全然かまってなかったんだけど、美白セットを使ったら昔の『色白娘3人娘』の1人に戻って同窓会でほめられたわ!』と喜んでいたのと同じぐらいの年頃だからだと思うよ」と告げたら謎の落ち込み方をしていた。
還暦過ぎた女性がお肌を何とかしたいと思うのはお金とヒマの問題も絡んで当然の流れだと思うんだけど。
妻には綺麗になってほしいけど、母の綺麗は持て余す?
男心の、不可思議なところである。



それにしても化粧品の箱から容れ物から推し量るには、ほとんどサギと言っていいほど内容量が少ない。
特にビン底の厚み、あれはもう、マジックだ。
あと、種類があり過ぎてどの順番でつけるのかが何度聞いても覚えられない。
お肌を整える基礎化粧品だけですでにこうだ。
本格的なメイクアップはもう私には無理だろう。

スイカスムージーは「体内の水の流れを良くする」そうなので、ついでに買った。

驚いたのは、富士フィルムが化粧品ブランドを立ち上げていたこと。
「Astalift」というそのブランドは、独自のフィルム技術を駆使して肌の深層までカバーするUVケアクリーム(要するに日焼け止め)を出しているそうだ。
カメラのフィルム売り上げが激減しても、基本の技術は何にでも使えるものなんだなぁ。
基礎化粧品全般に「鮭の赤身」を利用した成分が入っているとかで、サンプルをつけた手の甲を下にして膝に置いていたら、白いボトムスに紅いシミがついてしまった。
美容部員のおねーさんはたいそう焦って、
「お肌がしっかり吸収したあとはこんなことはありません!」と謝りながらふき取ってくれて、洗濯したらきれいに取れたので問題ないのだろうが、なんとなく気になるのでやめておいた。
そしてサンプルだけもらい、素知らぬ顔で隣の資生堂へ行った。
化粧品を買うというのはなかなか気疲れするものだ。

今日あたりからかなり暑くなっており、日差しがヤバい。
そんな中でもエアコンをつけるとはんてんを着てしまい、そのまま洗濯物を取りに日がカンカン照りのベランダに出て行く男の雄姿。
見てるだけで暑苦しいぞ。

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