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年中休業うつらうつら日記(2024年7月13日~7月19日)

24年7月13日

せいうちくんは午前中に「メモリークリニック」に年に1度の検査に行った。
彼の父方の家系はお父さんのきょうだい3人が全員90越えの勢いで、ここ5年ぐらいでお父さん自身以外は亡くなってしまったが、長寿と引き換えなのか、皆、激しく認知症の症状が出ていた。
アメリカにいる伯母さんは息子がホームステイしている間中、毎朝、「あなたは誰?どこの大学を出てるの?」と尋ね、当初は正確な大学名を答えていた彼だが、「ふーん、まあまあね。私の兄は東大を出ているの」と(同じく東大卒だが忘れられている末の弟のお父さん…)判で押したように言われるものだから、飽きてきてしまって適当な大学の名前を言ったり、しまいに「宇宙大学です」と答えて、「まあ、宇宙飛行士になるの?」「いえ、海賊の方です」と勝手に遊んでいたらしい。

娘であるせいうちくんの従妹が、「彼は何回も何回も同じことを聞かれても(少なくとも50回は聞かれてると思う)、いつもそれがあたかも初めての質問であるように丁寧に優しく返事をしてくれていた。いい息子さんだ」とLINEを寄こしたぐらい。
あと、電話で話した時にせいうちくんと実の弟(せいうち父)を完全に混同していた。
長兄はそれでも90歳になる前に亡くなってきょうだいでは一番の早死にだが、やはり認知症の症状が出ていたらしい。

せいうちくん自身のお父さんも4年ぐらい前から認知症で等級が上がり、要介護4になったので特養に入所した。
人間、本当に記憶がなくなるんだなぁと思ったのは、せいうちくんに「で、おたくはお見合い結婚なの?」と聞いてきた時。
あれだけもめて、せいうちくんが家出した先の私のアパートまで夫婦で押しかけて来たのに、あの激しい結婚事情をすっかり忘れているなんて!
「恋愛結婚だよ」とせいうちくんが答えると、「うん、やっぱり恋愛結婚がいいよね」と言っていた。
お義父さん、それを35年前に言ってくれていたらもっとよかったんですけど。

というわけで体質が非常にせいうち家的なせいうちくんは、いずれ来る認知症に怯えている。
死の恐怖はあまりないが、認知症は絶対に避けられないと思ってるらしい。
そこで、「健康なうちから検査を受けてデータを取っておいた方がいい。薬なんかも今はだんだん進歩しているから、なんとかなる!」と去年から近所のメモリークリニックで定期検査を受けるように勧めたのだ。
今年もテストは受けたけど、結果が出るのはしばらく先。
症状が進んでないといいんだけどね。
本人はしきりに「人の名前が思い出せない」「物事の流れが記憶できない」と不安がっているよ。
それはそれで、怖いだろうね。
私は早死にの家系なので死ぬ心配はしても認知症になった親戚を見たことがないので、さほどそっち方面は怖くない。

さて、朝の通院を済ませたところで、ついでに買い物に行ってくれたせいうちくんが「ちらし寿司の素」とかいろいろ買ってきてくれた。
明日の朝7時半新宿発のバスで、息子妻Mちゃんは前にも1か月働いた尾瀬の山小屋に、今度は3か月の出稼ぎに行くことがぱたぱたと決まったのだ。
今や住処をたたんで登山用のリュックをそれぞれ1個持って暮らしている2人なので、こないだうちに泊まりに来てくれてからは、それぞれの実家に身を寄せている。
明日出発ということで、うちでお祝いがてら泊まって行ってもらうことにした。
息子がMちゃんほどさくさくと職を得られないのが気になるところだが、彼は「インプロコント」もやりたい、とイベントスペース兼レストランなどにアプライしているので、なかなか決まらない。


夕食はちらし寿司(鯛を小さく切ったのとカイワレ大根のっけた)とMちゃんが気に入ってくれてる「鶏もも肉の香草焼き」とサラダ。
1年間のカナダでのワーホリから1週間で帰って来てしまったものの、お金があって帰れるうちに帰る決断をし、そしてまだすぐに仕事を見つけて出稼ぎに行くMちゃんは大したものだ。
息子も早く職が決まるといいのだが。

簡単な「お帰り、そしてまた歓送会」を兼ねた食事を終えて、スイカを食べて、2人には早く寝てもらわなくっちゃ。朝早いんだから。

24年7月14日

22時頃には寝て、朝は5時半起き。
息子はMちゃんのためにお弁当のおにぎりを作ってあげていた。
新宿まで送る、という息子とごつい登山靴をはいたMちゃんを見送って、割れあれは二度寝。
Mちゃんの勤め先の山小屋は、何らかの交通機関に出るのに3時間歩くそうだ。(もちろん電波も悪い)
あのきゃしゃな身体のどこにそれほどのバイタリティーを秘めているのだろか。
次に会うのは早くても3か月後。
結婚2年半の2人は大丈夫だろうか。
元気に楽しくやってほしい。

息子だけ残ってうちに居候を始めた。
まずはラストライブに来てくれて、総額35万円ものカンパを出してくれた人々にお礼とお詫びをしなければ、と1日中ノートPCにかじりついている。
実家に来た最初はしおらしいんだが、だんだん地が出て図々しくなるんだよな。

Gくんおススメの「水曜どうでしょう」を今、月から木の22時から毎日やっている。
金曜日は同じ時間に「戦国鍋」を放映している。
そんなのをぽつぽつ観ながら、親子3人の日々が過ぎていく。

24年7月15日

せいうちくんの三連休が終わる。
その前にも長い休暇を取って17泊18日の北海道車中泊の旅に出ていたので、「まともに仕事ができるだろうか」と本人はなはだ心もとない様子。

私が勧めた田村由美の「7SEEDS」全35巻を読み始めてくれたのは嬉しい。
絵の好みがどちらかというと古臭く、しかも少女マンガはあまり得意でない彼だが、「うさこの勧めでいろいろ読んでいるうちにずいぶん読めるマンガが広がった。これもすごいね」と嬉しそう。
人間、いいマンガを読むのは本当に精神衛生にいいんだ。
精進してくれ。

24年7月16日

今日はせいうちくん出社。
息子と残されるとなんか気を張ってしまってとても疲れる。
「好きにやるよ」と言って実際好きにやっている息子だが、「これからの生活をどう考えているのか」「仕事の当てはあるのか」などと余計なことを考えてしまう。
今日、沖縄・名護の結婚式を挙げたお店からは断りの返事が来たそうだ。
負けずにどんどん申し込んでくれ。
そして一刻も早く家を出て自立してもらいたい。

寝ている時に頭を抱え込んで「可愛い可愛いと思ってきたけど、もう30男だもんね。あんまり可愛くないや」と言ったら、憮然とした表情で「可愛いわけ、ないだろ」と言っていた。
Mちゃんも30歳だが可愛く見えるのは男女差によるものか、それとも自分で育てたコドモがあんまり大きくなると可愛くなくなるものか。

車中泊での緊張した暮らし、あっという間に帰って来てしまった息子夫婦、ずるずると家にいる息子など様々な要因で、心に堅くフタをしていたのが外れかけてしまった。
「あなたはいろんなことが気にならないタイプだけど、私はもうダメ」と夜中に大爆発して泣き出してしまった。
せいうちくんは「疲れてるんだよ。とにかく薬をのんで休みなさい。明日、心療内科に行くんだよね。僕も午後に時間を作って一緒に行くから」となだめてくれた。
さすがに普段の5倍量ぐらいの薬はよく効いて。コトンと寝てしまった。
しかしどんなにのんでも4時間で目が覚めてしまうこともわかったよ。

24年7月17日

せいうちくんの仕事が一段落するのを待って、心療内科に行く。
息子夫婦が帰って来てしまったこと、息子は居候を続けていること、夫もイライラしていてけっこう私に当たり散らすことなどを訴えたら、ドクターは困った面持ちで「何もかも予定外だったんだね。これは緊急事態だ。あなたが緊急事態なら、私も一緒に臨戦態勢に入りますよ」と頼もしく言ってくれた

「息子は、我々の生活を乱すけど悪気はないのはわかってるし、こういう困ってる時に助けるのが実家ってものでしょう?私も夫も、娘が障害児として生まれてきた時に両方の母親からあからさまに拒絶されました。息子にそんな思いはさせたくないし、自分自身、そういう親にはなりたくないと思っています。家族だから修復が効く、という家族神話を私は信じられないんです。だから、息子の仕事が見つかるまではしんどくても我慢しなきゃいけないんだと決めています。口先だけで『応援するよ』『頑張ってね』と言いながら自分の生活は乱されたくない、なんて言えません。この先、息子の世話になることもあるでしょうから、持ちつ持たれつです。それに、息子が居候できる神経なのは家族や実家に対する素朴な信頼があるからだと思うと、自分が持ちえなかったその気持ちを育ててやれたことだけでもよかった、と思うんです」

と立て板に水と話しているうちに涙があふれてきた。
「でも、どうしていいかわかりません。相変わらず反抗期の息子の怖さが身に染みていて、今はもう優しく気を使ってくれる息子だってことが実感できないんです。もう、自分が消えてなくなること以外考えられなくなってきてます」と訴えると、ドクターは「こーりゃ困ったねー。いろいろ順調に行ってるかと思ってたら、目の前に課題がたくさん降ってきちゃったんだ。そういう時はね、僕も頑張ってお薬出しますから、薬に頼っていいです」
「死にたくなったらどうしましょう?」
「なんとか1日待って、翌日僕のところに来てください」

せっかく減薬を始めていたのに、振出しに戻った。
「健保にバレたら怒られるうえ罰金取られるのを覚悟で、ドクターは倍量の薬を出してくれた。
ここまでほとんど何も言わないで後ろに控えていたせいうちくんを振り返り、「あなたは何か聞いておくことはないの?」と尋ねたが、「いや、大丈夫です。ありがとうございました」と話は終了。
それでも30分はかかったので、待合室は満員になっていた。すみません。

病院を出てから、私は急にこみあげてきた怒りに身を任せてしまった。
「あなたは、どうして『僕にできることは何でしょうか。彼女にどう接すればいいんでしょうか』って聞かなかったの?」と詰問しちゃった。
「あ、そういえば、何も聞かなかったなぁ」とのんきに言われて、私の中で何かがブチっと切れた。
「今すぐ戻ってドクターに会い、『僕は何をしたらいいでしょうか』って聞いてきて。ブックオフの4階で待ってる!」と言い残してすたすた歩き去ってしまった。

せいうちくんは律儀に再び待合室に戻り、幸い5人ほどいた患者さんが次々とはけて行ったので、すぐにドクターに会えたと言う。
「でも、キミの主治医だから、僕にはあんまり親切じゃなかったよ。『あんた、何やってんの?』って感じだった。それでも、『あなたたち夫婦はよそと違って相当いつも一緒にいるけど、さらに絶対に奥さんから離れないでください。話を聞いて、肯定してあげてください。どうしても具合の悪い状態になったら、残ってる薬を全部のませて、翌日僕のところに来てください』って言ってたよ」

これで相当溜飲が下がったのと、ブックオフで目当ての本を数冊見つけた喜びで、ずいぶん機嫌がよくなってしまった。
せいうちくんもなぁ、穏やかな人なんだけど、何かが引っ掛かるとものすごく頑固で頑なになって無理やり自分の意見を通そうとするんだよな。
たいてい私が必死で説得したあと、憑き物が落ちたように「最初からキミの言うとおりだった。ちょっとムッとすると、止まらないんだ。あきらめずに説得してくれてありがとう」となるんだけどね。

今日は息子は「人と会う」と言って出かけて行き、コントグループのメンバーと今後の打ち合わせをしてきたらしい。
とりあえず日本全国を回って、働きながらインプロコントの種をあちこちに蒔いて歩きたいそうだ。
Mちゃんといつ同居できるか心配だけど、それもいいかもね。

24年7月18日

今日はせいうちくんいないし、息子も特に用事はないそうなので、一緒にテレビを見て過ごした。
いつのまにか寝ちゃって、テレビ権は彼に移り、何か好きなアニメらしきものをずっと観ていた。

前に息子が会社を辞めて精神状態もブラックだった頃、生田斗真と安田顕が出ているテレビドラマ「俺の話は長い」が我々にはたいそう面白かったんだが、職を失ったばかりの息子には盛んに発せられる「ニート」「親のすねをかじってふらふらしてる」といった、主にお姉さんからの攻撃に耐えられなくなったらしく、ぷいと部屋を出て行ってしまった。

しかし、やはり面白いドラマ(脚本)なので、Gくんとの「大泉 vs. 安田顕」論争が後を引いているせいうちくんは、ぜひこれを観よう、と言う。
息子がどうなるかな?とチラチラ見てたら、意外にも楽しんでいる様子。
「この2人はいいねー。日本俳優界の宝だねー」と言いながらじっくり観ていた。
無謀に見えても「インプロコントを日本中に広めたい。あちこちの土地を回って、働きながらいろんな人に出会いたい」と現在の目標をしっかり定めた彼はもはや、「ニート」も「すねかじり」も関係ない世界に行っちゃってるんだろう。

夕食は息子が作ってくれた。
ナスが余ってるから、たくさんの油で炒めて麺つゆの素で味付けし、豆板醤とごま油でちょっと風味をつけたそうな。
鮮やかなピーマンの彩りが綺麗。
あと、ぶりの照り焼き。
一緒に煮たショウガ片を上に飾って、私よりよほど凝ってるぞ。
実際美味しかった。
いつの間にかこんなに使えるやつになっていたんだなぁ。

夜中にタバコを吸いながら少し話したところでは、長野を始め3か所ぐらい山小屋の仕事を申し込んでいるそうだ。
いっそMちゃんと同じとこで働けばいいのに、と思うが、秋には終わってしまう山小屋のシーズンだし、人件費が嵩むから余分な人を置いてくれる余地はないだろう。

「昔の人って、すごく旅をしたじゃない。あれ、どうやったのかなぁって思う」と言うので、
「サーカス団なんかはその土地で稼いで、次の町へ行くよね。奥の細道を行った松尾芭蕉は何しろ有名な俳人だから、宿のふすまにさらさらっとなんか即興で書いて宿賃の代わりにしたんじゃないの?いずれにしても、知名度がないうちは一夜の宿を貸してもらうためにお寺の本堂の掃除をして、片隅に寝かせてもらうとかね。あんまり路銀を十分持って旅してたってイメージはないね。掏られたら詰むもんね」
「うん、僕も、そういうイメージで旅をしたいなぁ」

中身がお子ちゃまなのは仕方ない。
今の30代は我々が二十歳ぐらいの時と同じメンタリティだと思うよ。
そんな中でもやりたいことがブレない息子を、私はけっこう気に入っている。
朝、もうちょっとシャキッと起きられないと何もできないんじゃないかとは思うんだが。

24年7月19日

今日は住民票を移しに出かけた息子。
なんとMちゃんは実家の方に、息子も我々と同じ住居に住民票を移すので、形としては夫婦別居になってしまう。
「2人はそれで心細くないの?」と聞いても、愛の武装で意気揚々の息子は「大丈夫!そんなの、形だけのことだから」と全然気にしてない様子。
まあ、しょうがないよね、当面ホームレスな2人なんだから。

明日は週末。
お休みはいいな。
せいうちくんとのんびりしよう。
どうせ息子は昼間は出かけちゃうことが多いし。
引きこもりになってなくて、夢がある、ってところを一応大きくポイント加算してあげたい。
私自身の精神安定のためにも。

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