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断片2014-2016

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むかし書いたものの端々。
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2022年5月の記事一覧

(7)血潮

 小便器にあたった小便の水音がやんだ瞬間だけが心音だった。それ以外の用途に用いられること…

春
2年前
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(6)形代

 この病院には不思議な兄弟の話がある。弟のほうは小さいときから相当病弱で、中学の卒業式を…

春
2年前
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(5)天使

 会議室の扉が開いてまず教頭が顔を見せて、そのあとから黒い学生服の山田が入ってきた。午後…

春
2年前
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(4)芝生

 日が暮れはじめて、あたりがぼやけたオレンジになってくると、駅のほうから帰宅する人たちの…

春
2年前

(3)三単現

 塾が終わって友達の家の前までつくころには夜十時だった。人通りのない住宅街を街灯がこころ…

春
2年前
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(2)胎児

 赤黒い胎児、夕日の差し込むうさぎ小屋のすみ。自分が生んだ子供のことなど忘れて走り回って…

春
2年前
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(1)魚人の家

 川が氾濫したのなんて何年ぶりだろう。何十年ぶりかもしれない。実家の近くの川はむかしはよく氾濫していたって聞いたことがある。  仕事帰りの真っ暗な道の真ん中、街灯の光に照らされて、全裸の男が寝ているのが見えた。水溜りの上で寝ているので、そのままではよくはないとおもわれたが、その日はそんなに寒い日じゃなかったので、関わりたくないということもあって、通り過ぎることに決めていた、数歩前から。見てはいけないとおもいつつ好奇心から横目で追うと、ただの人間ではなくて半魚人だった。目が合っ