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019 書く① シンプルに

文章の書き方を説明する書籍もブログも既にたくさんあります。さらに文章を使わなければ文章の書き方を説明できない、というジレンマもあります。しかし、まとめる効果、整理しておく効果もあると信じて、無謀にも(?) 今回から3回にわたって文章の書き方をご紹介します。

何を書くか?

そもそも「何を書くか?」ですが、端的にいうと「論点を書く」という一言に尽きます。ただここで注意が必要なのが、論点とは自分が「論じたい点」ではないということです。そうではなく「論じて欲しいと相手が考えている点」だということです。

第12回「問う③ 質問の禁じ手」で「『自分が知りたいこと』よりも『相手が話したがっていること』を優先して質問する」という考え方をご紹介しましたが、今回もそれと同じで、文章を書く際には「自分が伝えたいことよりも、相手が知りたがっていることを優先する」ことを心掛けてください。それが「論点を書く」ということだからです。

そのためには「相手が知りたがっていること」を先にこちらが知る必要があり、それには先にこちらが「相手を知る」ことが前提となります。相手をより広く、より深く知り、相手が知りたがっていることを察して、その内容を書くのが「何を書くか?」の答えとなります。

どう書くか?

次に重要なのは、その内容を「どう書くか?」です。こちらも先に結論を言うと「シンプルに書く」だけ … とシンプルに表現できます。ただし「簡素・単純」という意味を持つ「シンプル」という語は、同時に「馬鹿」のニュアンスをもつので用心が欠かせません。

たとえばシンプルな調理だけで食べられる「日清チキンラーメン」を考えてみてください。私たちからすると、袋を開け、麺をどんぶりに入れ、お湯を掛けて待つだけ…と、とてもシンプルな調理で済むのですが、日清さんからするとどうでしょう? 日清さんからすれば、麺を打ち、蒸し、出汁をからめ、乾燥させて袋詰めする…という複雑な作業が必要な、とても面倒な代物に見えているかもしれません。

これと同じ話で、私たちが相手に話をシンプルに伝えたい場合、その内容について広く、深く考え、その考えを構成する無数の単語からそれぞれ最適な一語を選び、その単語の順列組み合わせの中から最適な配列を選び、さらにそれを要約した上、推敲・校正して … という複雑な処理が必要となります。つまり、自分の考えをそのままシンプルに(単純に)伝えればよい、という訳ではないのです。

相手に「シンプルで分かりやすい」と感じてもらうには、複雑で面倒な手間をこちらで引き受ける覚悟が必要です。それを省いてこちらの手間をシンプルにすると、理解に必要な苦労・面倒を相手に押し付ける格好となり、「分からない」という印象を残す羽目になりかねません。ご注意ください。

どうやって書くか?

さて、具体的にはどのように書き進めていけばよいでしょうか?

もちろん「一般的な書き方」がその人にとって「最適な書き方」とは限りませんので、書き方は千差万別、十人十色でよく、「好きに書いてください」と言ってしまえばそれまでです。… が、念には念を入れて、ここではその基本について簡単にご紹介しておきましょう。

ポイントは以下の三つです。

・メモを書く(闇雲に書き始めない)
・書き終わっても安心しない(推敲・校正する)
・テクニックを馬鹿にしない(技術を学ぶ)

まず最初の「メモ」ですが、少なくとも何のメモもなしに、いきなり書き始めるのはお薦めできません。これは文章の最初と最後で「言ってることが変わってしまった」という失敗を避けるためでもありますが、それ以前に「事前準備をした方が効率的だから」です(事前のメモが一定の内容、つまり効果を保証してくれます)。

ふたつめの「推敲・校正」に異論を持つ人は少ないでしょう。ごく希に「書き殴りの勢いを残したい」という芸術的目的からそれをしないという特殊なケースもあるかもしれませんが、それ以外は丁寧に「推敲・校正」することをお薦めします。

そして最後の「テクニック」ですが、これは簡単にいうと「先人を真似る」ということです。日頃から分かりやすい表現や心に刺さる表現を収集し、自分だけの在庫として持っておく。そして文章を書く際には、それを参考にして相手の知りたいことをシンプルに表現する。もし前述の(複雑で面倒な手間をこちらで引き受ける)覚悟さえあれば、この「在庫収集」という手間はむしろメリットにしか見えないことでしょう。

世の中には、迂回に見えてもそれが近道ということもあります。効果なき効率は無意味ですので、まずは迂回覚悟で複雑な準備を受け入れ、相手に論点をシンプルに伝えられるよう日々努力していただけると嬉しいです。

 ── 以上、自戒を込めて。

[参考]これまで&これからの記事

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