単独行
山にはいつも一人で登ってきた。
一般的に一人の方が事故に遭いにくいと言われている。同行者に合わせず自分のペースで登れるからだ。しかし、事故にあった場合に助かる確率は低くなる。骨でも折ればアウトだし、装備をなくしても借りることができない。
だから単独者は事故を避けるために様々な努力をする。必要な知識を身につけ、自分の力量にあった山を見極め、少しずつ高度の高い山に挑戦する。天候が崩れそうならはるばるやってきても登山を諦める。「多分なんとかなる」とは考えないのだ。
そうして万全の準備を整えてもやはりリスクは残る。突然の天候の変化や体調の問題、予想外の障壁が現れることもある。ゼロリスクはありえない。その最後に残ったリスクをとることが登山なのだ。
なぜ山に登るのか何度も考えたが未だに答えはでない。例えば自分の力でリスクを乗り越えることに魅せられているのかもしれない。山の静けさと厳しさを愛しているのかもしれない。いずれも平地で暮らしていれば遭遇しない困難になぜ進んで直面しようとするのかという問いに対する答えには足りない気がする。
おれは平地の生活に登山の考えを持ち込むのは好まない。人間の輪の中で生き延びるためのスキルは山とはまったく別のものだからだ。毎日の暮らしは準備万端で臨めることは少なく、生を出来るだけ延長することがその基本だ。山は準備を整え、危険から生還するものであり、長生きしたいならやる必要のないことなのだ。しかし、生活は避けられない。
おれは無職という単独行を選んだように見える。一見、山登りに似ているが、その真の姿は真逆なのだ。人の繋がりや偶然に助けられながら、自分の力で生き続ける方法を探す。そう、ここは平地だ。
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