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絵の具を重ねる

祖父は多趣味だ。
その一つが油絵。
ずっと昔から祖父母の家には、祖父が書いた油絵が飾られている。
静物より風景を描くことが多く、年を重ねるごとにキャンパスのサイズは大きくなっていっている。

今は引っ越したのだけれど、昔の家の玄関にバラの絵があった。
赤とかピンクの派手なバラで、これまた派手な彫刻っぽい飾りがついた、金色の額縁に収まっていた。
玄関のたたきは一面に、艶のある丸い黒い石が埋め込まれていた。
日本的な構造の玄関だったのに、赤と黒のポップな、どこか異国風な玄関のイメージが残っている。


小さい頃、たまに祖父が絵を描いているところを見ていた。
人が絵を描いているのを見るのは、楽しい。

柔和な祖父が、眉をひそめたり、口をへの字にしたりして、絵を描く。
目を見ても、何を考えているのか分からなかった。
油絵の絵具が滲むことなく、どんどんキャンパスに重ねられる。


わたしが結婚する時、祖父が絵を一枚持って行って欲しいというので、山の絵を選んだ。

初夏の山を描いた絵。
昔から、この山の緑が瑞々しくて、爽快で好きだった。
毎年夏には、この絵を飾って、秋になる頃にしまう。

筆の跡や絵の具が盛られたところを見ると、祖父を思い出してすこし心が和む。


祖父は今も健在だけれど、絵は体力がいると言って、あまり描かなくなった。
車もやめてしまったので、心を動かされる風景を見に行けなくなったとも言っていた。
涼しくなってきたし、会いに行ってドライブにどこか連れだしてあげようかなあ。

山の絵も、しまわなければ。

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