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お相撲と国技館

大相撲が好きだった。

子供の頃、家ではずっとNHKラジオ第一がかかっていたので、場所中は幕内の取り組みをずっと「聞いて」いた。逆鉾とか寺尾とか、両親が応援している力士が勝つと、一緒に喜んでいた記憶がある。とはいえ、そんなに熱心だったわけじゃない。

大人になって、友達に連れられて国技館に行ったのが、きっかけだろうか。
友達の職場には年1度「ご進物」として、初場所の枡席をプレゼントしてくれるお客様がいらしたらしい。枡席は4人定員、職場は上司と友人の2人なので、よかったら来ない?と、わたしを呼んでくれたのでした。

初めて行った国技館は、圧倒的に「ハレ」の空間で、それにまず魅せられたと思う。
チケットのもぎり、ラジオの貸し出し、インフォメーションに、この間まで活躍していた力士が、親方として座っている。直にお話ができる。
枡席の人は両側にお茶屋さんが並んだ「相撲案内所」に行くが、そこは提灯や造花で飾られた、舞台装置の中のような非日常空間で、そこから席に案内してもらう。
案内をしてくれるのは、立っつけ袴を履いて、すいすい軽やかに歩く、粋という言葉を体現するみたいな男性たち。
案内された枡席は、想像より狭くて(4人座るとギッチギチ)ちょっとびっくりするけれども、体を押し込めて土俵に目を向けると、すぐ近くの、溢れるような光の中でお相撲さんたちが戦っている。艶やかな肌が眩しい。

「ハレ」です。
そしてとても自由だった。

本場所は朝からやっている。
朝から行っても、夕方から行っても、構わない。
周りに迷惑をかけなければ、トイレに立つのも、ソフトクリームを買いに行くのも、飲み食いに注力するのでも構わない。
応援する力士がいたら、タイミングを見計らって、大きな声で四股名を叫ぶ。単独・自己責任で。

一斉にウェーブしたり、声をそろえて掛け声かけたり、応援歌歌ったり・・・みたいなことがあまり得意ではないので、自由だなぁというのがとても気に入った。
ハレで、自由で、飲み食いできる。スポーツ観戦というよりはお花見に近いと感じた。

その後も、枡席は無理だけれども、国技館で本場所があるときは場所中に1回くらいは椅子席を買って観に行くようになり、(持ち込み飲食にしのごの言われないので)デパ地下で美味しそうなお弁当や惣菜を買い揃えて行って、楽しい時間を何度過ごしたかな。
行かない日も、休日は中継見ながら家で焼き鳥を食べたり(国技館の焼き鳥はとても美味しいので、オマージュとして)、平日は夜にダイジェスト見たり。

・・・

地方に引っ越して、なかなか国技館に足を運べなくなり、それでも場所中は中継を見るぞ・・・という生活に別れを告げざるを得なくなったのは、子供が1歳をすぎた頃。
夕方のEテレのゴールデンタイムと、大相撲中継が丸かぶりになって、家庭平和のため全く相撲が見られなくなり、夜はダイジェストを見るほどの体力が残っておらず、翌朝のスポーツニュースで結果を聞くくらいはしていたのですが、それもだんだん・・・。

知っている力士が一人また一人と引退し、幕内に知らない力士が増え、追い切れなくなってきたなと思う間に、推し力士の鶴竜や隠岐の海が引退し、逆鉾や寺尾が亡くなり・・・と、いつの間にか追いかけるモチベーションが無くなってしまった。

つい数年前までは「いつか子供と4人で枡席で初場所!」とか言っていたのに、今はもう、すっかり野球ファンに育った子供と、つられて野球ファンになった配偶者と、以前国技館に行っていた頃よりも高い頻度で、野球場に足を運ぶようになってしまった。
野球も悪くない。
私の苦手なウエーブや応援歌も、コロナ禍を経て強要されなくなった気がする。

でも、一度、子供連れて国技館、行きたいですね。
あのワクワクして自由な感じ、お相撲を知らなくても十分に楽しい感じ、行ったら、絶対に楽しいと思うのよね。

両国の駅を降りたら、聞こえてくる木やりの声、漂ってくる鬢づけ油の香り、風呂敷を持って歩いているお相撲さんが普通に歩いている、非日常感。
取り組みの済んだお相撲さんたちは、国技館の中に歩いていて、ニコニコしながら売店のアイスを食べていたりする。
美味しい焼き鳥を売るベテランの優しい店員さん。
結びの一番の後、あっという間に全観客を外に誘導する、見事なオペレーション。

全部ひっくるめて、本当に懐かしい。

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