純に触れると素直になれる
初雪が降った。
北海道3年目を迎えて、こちらでの生活も慣れてきた頃。
いつしか目の前の風景も目新しさはなくなり、当たり前の日常へと変わっていた。
移住したての頃は刺激的な毎日で、ジェットコースターのように感情が動いていたけれど、今は心が穏やかで安定しているのが自分でもよくわかる。
多少の嫌なことや不安があっても、一歩外に出れば雄大な自然が僕を慰めてくれる。
あぁ、これでいいんだよなといつも思う。
僕は都会に住んでいた頃から、頭と心のバランスが取れなくなると自然に出向いていった。
何をするわけでもない、観光スポットを巡るというよりはローカルな場所のお店や場所を好んだ。
天気が悪くても、ただ自然の中へ出向くというだけで自分の心の整合性をいつもとっていたように思う。
理由など何もわからず当時は過ごしていたけれど、アラスカへ旅したことで僕はなぜ自然に惹かれるのか、その意味がはっきりとわかった。
自分の心を素直に感じたいからだった。
人は純粋なものに触れると素直になることができる。
これは完全に僕の持論なのだけれど、僕はそう思っている。
自然というとても純粋な存在、その存在に触れることで自分の中にある余計なもの(社会的な地位や欲望など)を排除し、本当に自分がしたいこと、本当に自分が欲しいものを素直に見ることができる。
アラスカで初めて雄大なオーロラを見た。
周りは僕たち数人以外、誰一人いない。観光地ではなく本当の自然の中だった。
瞬くオーロラを見ながら野生のオオカミの遠吠えも初めて聞いた。
気づいたら涙が溢れていた。
当時の僕は進路に悩み、ドッグトレーナーを辞めるかどうかで迷っていた。
そんな中で出会った星野道夫さんの写真に導かれるようにアラスカへと渡ったのだった。
オーロラを眺めながら自分の心に聞いてみた。
「トレーナーを辞めよう。そしてもっと自分が好きなことをして生きていこう」
答えはシンプルだった。
本当は心の奥底では自分の声はわかっていたはずだった。
だけれど、日常生活を送る中で親からの期待、社会からの圧、将来への不安から僕の心は色んなものが覆いかぶさっていて何も見えなかった。
オーロラという純粋に、ただそこにある自然に触れて、自分の本当の心が顔を出した気がした。
本当の声がわかった時は、不安よりもワクワクが勝っていて何も不安は感じなかった。
それどころか、自然に後押しされたような感覚すら覚えた。
その時から僕は純粋なものに触れると人は素直になれるのだと確信した。
話は少し逸れるが、僕は漫画のワンピースが大好きでコミックも買って読んでいる。
主人公のルフィはどこまでも純粋で真っ直ぐに自分の信じた道を進んでいく。
このルフィの純粋さに皆ルフィの前だけでは本音を話す。
ゾロ・ナミ・ウソップ・サンジ‥その他の仲間たちも例外なくルフィの前では素直に、時に泣きながら心の声を叫ぶ。
それを見て、自然と全く同じだと思った。
自然と同じで、人間も純粋な人を前にすると人は素直になってしまう。
そんな自然のような人になりたいと思った。
生きていれば皆、何かしらの不安や不満は必ずある。
それでも純粋なものに触れ、自分の素直な心をちゃんと知ること。
自分の心の声を無視しないこと、些細なことほどそのままにしないこと。
僕はそんなことをいつも自然から教えてもらっている気がする。
もちろん犬達からも。
彼らの純粋さは自然そのもので、彼らを通じて自分の不純な心も見えてくる。
散歩が面倒だと思う時もあるし、つい彼らの前でダラけたり、弱い自分を見せてしまったりもする。
でもその度に、彼らは鏡となって教えてくれる。
時に言うことを聞かなくなったり、必要以上にスキンシップを求めてきたり、萎縮してみたり。
そうやって自分の弱い心を映し出してくれる。
その度に自分を律していくしかない。
弱い自分は何度でも顔を出す。3食しっかり食えて暖かく眠れる場所があればそれだけで幸せなのに、つい卑しい自分が顔を出す。
その度に、自然に生きる動物たちや犬たち、自然そのものが本当の心を思い出させてくれる。
そうだ。これで、このままで良かったんだ。
自分のやりたいことは、これなんだ。
何度でも何度でも。
きっと僕は生涯、自然から問われ続け、そして答えようとし続けるのだと思う。
皆さんも自然に行くと素直になれる、そんな経験はないですか。
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