空を目指して | 東方流星譚プロジェクトの備忘録
Twitter等で私のことを知っている方はこんにちは。そうでない方ははじめまして。この記事に興味を持っていただきありがとうございます。
さて、私が率いるサークル「星屑ラボラトリー」は、先日ついに最初の作品である「東方流星譚」をSteamにリリースできました。これもひとえに私についてきてくれたサークルの方々、ゲームをプレイしてくださった方々、感想・意見をくださった方々など、周りの皆さんの力あってのものです。本当にありがとうございます。
さて、本記事では2年以上にわたる「東方流星譚」のプロジェクトの変遷を綴ろうと思って投稿しました。
ひとえにゲームのプロジェクトを立ち上げ、それを完成させるというプロセスにおいては、製作する側としては外から見えない様々な出来事がありました。そのこと様々な出来事を残しておきたいと思い、この記事を投稿しました。
ただ、この記事は何らかの教育的、あるいは指南的な側面を持つものではありません。結果的にプロジェクトが成功したとはいえ、この通りにたどればうまく行くわけでもありませんし、この記事のプロジェクト進行手順が正しいものであるとも思いません。
それでもよければこの記事に目を通していただければと思います。
半分は私自身の備忘録みたいなものですが、よろしければ最後までお付き合いいただけると幸いです。
Steamのストアページには以下からいけます。
〇東方流星譚についてー空と弾幕の世界
少女を追い、空を飛び、雲を抜ける。
奴はこちらに向けて光の粒を放つ。それらは刹那に展開し、空に広がり、弾幕として空をたちまち覆いつくす。
私はその光の隙間を縫い、針の穴に糸を通すように光の隙間に身を滑らせ、魔法を放つ。
ーーこれはそんな日々を送る普通の魔法使い、「霧雨魔理沙」のとある一幕を描いた作品である。
〇原案
2018年・春
さて、この東方流星譚ですが、このプロジェクトが始まる前、一度ゲームとしての体をなしているか怪しいプロトタイプ版がありました。
こちらは東方の世界を自分で飛んでみたいと考え、UnityとMMDモデルを用いて自分用に組み立てたものです。正式な許可を取っていないモデルやデータを使っているので、もちろん公開なんてできません。ただ、自分で幻想郷の空を飛んでみたいと思ったため、3次元の弾幕の中に身を投じたいと考えたため製作しました。
これは一般に公開せず、ほとんど身内だけに公開していたものですが、私はこの作品を自分で遊び、確かな手応えを感じました。
〇Dive into Phantasm-VRプロトタイプ編
2018年・夏~秋
コンピュータ系のサークルの友人(黄金林檎氏)にこう声をかけられました
「部費が余ってたからVRヘッドセットとそれを動かすコンピュータ一式を買った。けどVRゲーム組める人いないからVRゲームを組んでくれ」
早速VRを動かす技術を試しました。UnityとSteamVRを用いることにしました。
いくつかの簡単なゲームと呼べるか分からない動くもの(たしかVR空間上で銃を持ってひたすら湧いてくるキューブを撃って壊していく内容でした)を製作したのち、前から構想があった「VRで3D弾幕」を製作していくことになりました。
これは10月の文化祭と12月?の理系サークル合同の展示会で展示を行い、どちらでも好評をいただくことができました。懸念していたVR酔いとかは体験時間が短いことがあってか起こりませんでした。
そこからVRだけだと遊べるユーザー数が少ないためデスクトップでも遊べるようにしよう……とデスクトップでも動くように開発し、そこから現在のデスクトップ向けゲームにシフトしていきました。
そういうわけで本作品は一般的なデスクトップ向けゲームとして完成しましたが、開発当初はVRゲームとして開発されていたものです。
(その名残で、東方流星譚はVRでも遊ぶことができます。オプションにVRデバイス選択というものがあり、選択した状態だとタイトル画面に「VRで始める」という項目が出現し、そこから始められます)
〇サークル結成!星屑ラボラトリー
2019・夏
キャラクターモデルやイラスト系は黄金林檎が担当してくれることになりましたが、BGMを製作できる人がいなかったため、知り合いのつてで東方のBGMを製作している人を迎え入れることにしました。(桜内まつり氏とぬくれあ氏)。
8月の下旬にマクドナルドで「星屑ラボラトリー」というサークル名を決め、サークルのメールアドレス、Twitter等を作り正式に「星屑ラボラトリー」が結成されました
〇仕事の分担
ディレクター/プログラマー:Tomy_Y
デザイナー:黄金林檎
BGM:桜内まつり/ぬくれあ
となりました。(まあ持っている能力で仕事を割り振っているので必然ですが)
ちなみに誰の担当にもできない仕事は基本的にリーダー(Tomy_Y)の仕事になります。偉くなれば仕事が減るわけではありませんね。むしろ増えます。
ゲーム会社のインターンに参加させていただいて、リードエンジニアの方に話を聞いたら「意外と雑用が多い」と語ってくれました。仕事と趣味でやっている以上責任感とかは大きく異なるのでしょうが、すごく共感できました。
ちなみにデバッグは基本的に黄金林檎氏と2人で行い、たまにぬくれあ氏も一緒に行うといった感じでした。新しい敵や要素を実装した後のデバッグはとにかくテンション上がりますね。
〇博麗電脳試遊会!
2019・10・6
まず最初に、博電会のみなさまありがとうございます!
博麗電脳試遊会という博麗神社例大祭の中で東方の二次創作ゲームがあり、そこで「東方流星譚」のデモバージョンを展示させていただきました。
このイベントが「東方流星譚」を公に公開した初の舞台でもあります。
このデモバージョンは完成版とは結構仕様が異なっていて、東方流星譚からRPG要素やハクスラ要素を取り除き戦闘シーンのみを抜き出したものになります。
「EASY:ルーミア戦」「NORMAL:チルノ戦」「HARD:咲夜戦」みたいなステージ選択制で、ステージごとに適切な装備が最初から与えられているというものになります。また、現在のバージョンでは実装されていない幻の「EXチルノ戦」が収録されていました。(もしかしたらアプデで出すかもしれません。)
これを展示したところクオリティやゲーム性を非常に高く評価していただけました。もともと3Dゲームを製作しているところが少なく、そういう面からも高く評価していただけたみたいです。完成版が出たらフルプライスの7000円でも買うって言ってもらえたのが特に嬉しく、印象に残っています。
遊んでいただいた方、評価をしていただいた方。本当にありがとうございます。リリースまで頑張れたのは、それがあったからからに違いありません。
〇ふぁいならいず!
2020・1
いよいよゲームの中身が一通り実装され、リリース前のテストプレイなどのチェック作業に入ります。要するに最終チェックとデバッグです。これがまた面倒でした。何度も同じステージをプレイしたりとか。また実行結果がセーブデータ依存とかとなるとどのセーブデータでデバッグするかとかセーブデータを消したり貼ったりととにかくめんどくさい。「世の中の大事なことは大抵面倒くさい」とかいう言葉がありますが、その通りです。いくら自分で作ったとはいえさすがに飽きてきます。
〇パッケージング
2020・1
東方流星譚のパッケージが完成しました。黄金林檎氏が製作してくれました。クオリティが高く、普通に商用で売ってそうなゲーム並みのクオリティで驚くと同時に、ついにここまで来たんだなという感慨深さを感じたのを覚えています。
立川のサイゼで黄金林檎氏が完成したパッケージのサンプルを持ってきてくれ、サークルのみんなでそれをみて、本当に売っているゲームのようでテンションが上がったのを覚えています。
ちなみにゲームをリリースする場合はどのパッケージを使うかや、ダウンロードサービスを使う場合はどのサービスのどのプランを使うのか。今後ゲームの容量が増えることも考慮して余裕のあるプランで申し込むべきなのか。といった様々なことを決めなくてはいけません。プロジェクトをこなすうえで決めることは多いです。
〇初頒布!紅のひろば
2020・2・2
これが初めての東方流星譚を頒布、すなわち製品の対価としてお金を取る機会になりました。
ゲームの内容を見ていただければ必ず興味を持ってもらえるという確信?自信?があったため、プレイ映像のキャプチャをPCで流し続けていました。
一部2500円という高価格にも関わらず20部以上を売り上げることができました。Twitter等の事前情報でわざわざ買いに来ていただいた方も、当日みて買っていただいた方もいました。(遠方からわざわざ来てくださった方もいました。ありがとうございます!)
ここでこのプロジェクトは1つの完成点を迎えることになります。
〇ストアページ開設
2020・4?
そろそろ当初から見据えていたSteamでのリリースを行おうと、Steamのストアページの設定を行いました。
Steamでの販売を行う際はパブリッシャーを通す方法が一般的なのですが、個人で出すことにしました。理由としてはいち早くリリースしたかったことと、グラフィック周りのクオリティにそこまでの自信がなかったからです。
パブリッシャーは売上やマーケティングが絡むので、ゲームの中身と同等以上にグラフィックなどの見てくれを重視されるみたいです
必要な情報を入力したり、ストアページに貼るSSを取ったり、PVを製作したり、、、と思ったより仕事がありました。
〇ろーからいず!
2020・5
Steamでは中国からの売上が多いということで、流星譚も中国語(簡体)へのローカライズを行うことにしました。
翻訳は中国からの留学生の友人に頼みました。引き受けてくれてありがとうございます。
そして翻訳そのものも大変であったと思いますが、こっちはこっちで思ったより苦労しました。
最初は翻訳を行うシステムの実装。具体的にはオプションで選ばれた言語に応じたテキストを表示するというものです。最初からきちんと設計していればすんなり行けたのでしょうが、日本語でしか動かさない前提でシステムを作っていたため、面倒な後付けシステムになりました。
次にゲーム内でのテキストファイルの抽出。ローカライズなんて考えもしないで実装したシステムなので、いろいろな部分にUIの文章や単語が散在しており、それを集める必要がありました。
最後に受け取った中国語のテキストをゲーム内に張り付ける作業です。これも後付けシステムだから苦労したって感じです。
〇リリース!
2020・6・15
ついにSteamでリリースしました。
売れるか不安でしたが、初動は思ったよりも売れました。
イベントとかで頒布すると自分の作品を目にしてくれる人は本のわずかですが、Steamで出すと世界中がターゲットになります。
逆に、世界中のゲームと競う合う必要も出てきます。
つまり、同価格帯の他のゲーム、特に2000円台の3Dインディーゲームだと「Risk Of Rain」みたいな圧倒的なクオリティを持つようなものとも競合する可能性がありますが、その中でも流星譚に魅力を感じて購入してくださった方がいました。本当にありがとうございます。
〇販売・プレイデータ分析
2020・6~7
Steamのページを見ると、売り上げはもちろん、どの地域からの購入が多いのか、プレイ時間の分布、その他さまざまな統計情報を見ることができます。
売上に関しては一般的に言われているように、初動で大きく売れ、あとはどんどん落ちてくる三角定規みたいな感じでした。
特に面白いと思ったのは、実績による進行度のボトルネックの分析です。
実績はプレイヤーの立場からすると解除して集めることだけが目的になりますが、製作者の立場からするとプレイヤーの進行度の指標として非常に有意義な数値になります。(頑張ってSteam実績組み込んでよかった)
特にこのゲームは今までアリス道中が最初の難関であると考えられていて、リリース前に一度難易度を下げる調整をしました。
実績を見ると、アリスで極端に進行が止まっているわけではなく、ステージごとに綺麗なクリア度の分布でしたのでバランス調整はおおむねうまく行ったと感じています。
ちなみにストーリを最後までクリアする人が2割、通常クエストを上級まですべてクリアする人が1割でした。
売上見るのが楽しくて、ついつい毎日見てしまいます。
〇現在
2020・8
ここまででこの記事を執筆している今時点になります。ここまでのプロジェクトの変遷にお付き合いいただきありがとうございます。今後もアップデート等を予定しており、まだまだプロジェクトは稼働中です。
最後に、コンピューターゲーム制作のプロジェクトを立ち上げ、実際に進捗を出しながら製作を行い、最終的に完成された形にするのは想像以上に大変ですし、普通の人間はまずやらないことだと思います。自分たちがそれをできたのは、コンピューターゲームを製作するのが好きだったのと、自分が持っていない特別な能力を持ったメンバーがいたからだと思います。
自分はプログラムやゲームロジックに全力を出しましたし、グラフィック担当の黄金林檎氏は立ち絵や3Dモデル、UIデザインなどに非常にこだわりを持って作ってくれました。BGM担当の桜内まつり氏とぬくれあ氏も、個人製作とは思えないようなクオリティの楽曲を作ってくれました。この作品は、ある種、各々の分野の特別な能力を持った人材を集めた「総力戦」のようなものだったのかもしれません。
〇追記:3Dゲームと技術と最適化
個人製作はツクール製のRPGや2Dゲームはよく見ますが、3Dゲームはほとんど見ませんよね。(最近は増えてきた気がしますが)
その理由としては、2Dゲームは「ゲーム内容」だけを考えれば割と製作できるため、ゲームを作りたいと思う人はそれなりにできるのに対し、3Dゲームはレンダリングや処理速度などの計算機科学の知識が求められる点だと思います。(モデリングなどの手間などももちろんありますが、今回はプログラマーの立場に絞って書きます。)
特に3Dにおいて避けて通れないのは「最適化」であり、これは計算機に対するある程度の理解が求められます。(最も私もまだまだで、何とか形になるレベルで最適化したというレベルですが……)
とはいえ最近はUnityも大分普及しており、ゲーム制作の記事や動画も多く、アセットストアも充実していて3Dゲーム制作へのハードルは確実に下がっているので、3Dゲームがどんどん増えてくるとよいですね。(もっともこれは逆にとらえれば競争の激化が起こるとも言えますが。)
ここで、流星譚の最適化の手法のいくつかをここで紹介したいと思います。
基本的なものだと、例えば弾がステージや敵に当たって消滅する際に弾のオブジェクトを削除するのではなく非表示にし、再度弾が発射されたときに再び表示するといった方法をとりました。計算機に詳しい方ならわかると思いますが、オブジェクトの 生成/削除 には多くの計算リソースが割かれるため、それを行わないためにうまく 表示/非表示 を切り替えることにより、内部的な処理を軽くしながら弾の 出現/消滅 を実現しています。
ほかに、様々なスペックのPCでプレイすることが想定されますので、画質設定の幅を大きく持たせました。最低設定ではゲームロジックに必要な部分以外の描画処理をほとんど行わないようにし、逆に設定を高くすれば綺麗な画質で遊べるようにしました。これによって、ものにもよりますがCPU内蔵グラフィックしか入っていないノートPCでもゲームを動かせるようになりました。
また、ロード画面にヒントが出ますが、それもある種の最適化の方法の一つだと考えています。「人間の里」のロード時間が長いことが開発陣で問題視されており、システム上の最適化もある程度行いましたがこれ以上は難しいと感じ、逆に「ロード画面を意味のあるものにする」ことによって疑似的にロード時間でプレイヤーの快適度を削がないようにしました。
〇ホームページ
これがホームページになります。(アクセスしてくれる人いるのかな……)
せっかくだしホームページを作ろうということになって、無料で使えるWIXを使って製作しました。
キャラの立ち絵やゲーム内音楽が聴けるので、是非覗いてみてください。
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