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妻(夫)は自分の身体の延長という

ある患者さんと話していた話。

その男性は十数年妻の介護をしていた。

もうすぐ80歳を迎えるにもかかわらず、仕事を続け、家事全般をやり、妻の身の回りの世話をし、さらには趣味も楽しんでいるという驚くべきパワフルな人だった。

身体に痛みがあってリハビリに通っていたのだが、症状が緩和するにつれて色々なことを話してくれた。

日常のこと、趣味のこと、妻のこと、昔のバブル期のときどんなことをして遊んだか…。

時には早朝から深夜まで続く妻の介護について愚痴を漏らすこともあった。
もしかしたら他に愚痴を漏らせるような場所もなかったのかもしれない。

「まったく私にやらせといて文句は一人前なんだからなあ…」と、愚痴と言っても愛情も垣間見えるような、そんな口ぶりで。

「高齢の方だと自分のことでも精一杯な方が多いのに、奥さんのことまでしっかりされていてすごいですよね。」と私が言うと、その人はこう言った。

「もうここまで長く連れ添うとね、妻は私の身体の延長なんですよ。自分の身体を拭いたり何かしたりするのと大して変わらないんです。
一心同体って言うと大げさだけどね、そんなようなもんですよ。」

本当に、本当に私にとって衝撃的な言葉だった。
そういう感覚になるのか…。
なんて素敵な感覚なんだ…!

恥ずかしながら私は夫に対してそんなふうに思ったことはなくて、いつだって私とあなたなのだけれど、いつかそう思うことができるのかな…。

でもきっと、そのご夫婦の50年以上の日常があって、時にはいい日も時には悪い日もあって、ふたりで暮らしてきたそんな日々の積み重ねなんだと思う。

まだ私の中にはない感覚が知れたこと、本当に嬉しかったな。

最近特に思うけれど、日常は、生活は全然綺麗事じゃない。

けれども相手を自分のように、自分を相手のように気遣いたいとつくづく思う…。
これが来年の抱負かな。

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