2020年8月の記事一覧
友達の暗い過去を知る
八月十九日(金)砂原
野田君が全く屋上に姿を見せなくなった。不思議に思い昼間病室を訪ねてみると、具合が悪い訳ではなさそうだった。しかし僕が何を言っても「ちょっとね」と言ったきり、夢遊病者のような目でテレビを眺めている。事情を聞こうと屋上に連れ出し、野田君を問い正した。
いつものベンチに座ってもしばらく心ここにあらず、という感じでぼんやりしていた野田君は、やがて決意したように一度大きく息を
(親不孝)娘が見舞いに来る
八月二十二日(月)福留
娘が突然見舞いに来た。
入院以来だったので思わず「何の用だ」と言ってしまった。
「何の用だって、ただのお見舞いよ」
「そうか。見舞いの品は」
「お父さん糖尿でしょ、甘いものダメだからお煎餅」
「煎餅は食わん」
「年なんだから歯は使った方がいいわよ。ボケ防止にも噛むのがいいんだって」
「わしはまだボケとらん、下らんことを言いに来たなら帰れ」
友達の復讐に付き添う
八月二十三日(火)砂原
昼食後の薬を飲み、Tシャツとジーンズに着替えると野田君のベッドへ向かった。本来なら服用後二時間は安静にしていなければいけないが、昼寝している間に彼がひとりで出かけてしまったらまずいと思った。
向かいの二一一号室へ入り、カーテンの上から覗くと、野田君はヘッドフォンをして雑誌を読んでいた。「砂原だけど」と顔を出すと、野田君は露骨に嫌な顔をした。
「今日、ライブの
外出許可を取って酒を飲む
八月二十五日(木)大沢
入院中に無事退職届が受理されたので、日曜、月曜と一泊二日の外泊許可を取り身辺整理に時間を費やした。ついでに、妻に会って食事した。見ない間にまた髪型が変わっていた。
病院には夜九時までに帰ることになっていた。これから仕事だという妻と別れたあと、一ヶ月前まで同じ病室に入院していた、森尾泉と待ち合わせして飲んだ。
適度にほろ酔いになった帰り道、なぜか隣のベッドの砂
犯罪者に気づかずスルーする
八月二十九日(月)大沢
以前この病室に入院していたという男が検査のついでに病室に顔を見せた。砂原少年や福留さんとひとしきり話したあと、自分がいたベッドを今現在使っている俺の顔をちらりと見て、「これから仕事なんだ」と背中を向けた。男の視線に妙な感覚を覚え、彼の後を追った。
男の視線は僕ではなく、その向こう、自分がいた空間自体を見ているようだった。そして何かを思い出しているようだった。ただ単
キツイ映画を紹介しあう
八月三十日(火) 野田
砂原君と人間のエゴについて描いた映画の話で盛り上がった。僕は「ドッグヴィル」と「セブン」を、砂原君は「es」という映画をそれぞれ挙げて議論に望んだ。「セブン」は二人とも見ていたが、「ドッグヴィル」と「es」についてお互い見たことがなかったので、ストーリーを説明しながら感想を交互に述べた。話し終わると砂原君は「きついね」と言った。僕も同感だった。