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知識を吸収するだけでは足りない理由 学び方#3

我々は、日々、多くのことを学んでいるが、学び方は大きく二つに分類される。

ひとつは、知識を学ぶことである。書籍や論稿、雑誌、インターネットの記事、あるいは、セミナー、ウェビナー、eラーニングなど様々な媒体を通じて、情報をインプットすることである。
「知識からの学び」は、対象が媒体を通じて伝達可能であることが前提となる。自明のことであるが、伝達可能なことしか学ぶことができない。
この学びは、客観的な学びということもできるだろう。というもの、その対象は、あなただけでなく、私も同じように目にして学ぶことができるからである。

もうひとつは、経験することである。インプットした知識を前提に、あるいは、知識のインプットを同時並行で行いながら、目の前の問題に取り組むことである。
「経験からの学び」は、「知識からの学び」を前提にするものの、経験それ自体は、他者から学ぶことができない。他者の経験を知識として学び、他者の経験を疑似体験したとしても、それは私にとっての経験ではない。

経営学に多大な影響を与えたエディス・ペンローズの『企業成長の理論【第3版】』(ダイヤモンド社、2010)では、以下のように表現されている。

「経験それ自体は決して伝達できない。経験は、個々人に変化―しばしばある微妙な変化―をもたらすものであり、彼らから切り離すことができない。」

『企業成長の理論【第3版】』88頁

経験の前提として知識を学び、「経験からの学び」を積み重ねていくことでしか、人は成長できないし、また、その経験は何よりの財産となる。なぜなら、「経験それ自体は決して伝達でき」ず、経験はあなただけの財産となるからだ。

ベストセラー『イノベーションのジレンマ』の著者であるクレイトン・M・クリステンセンが筆者に名を連ねる『イノベーション・オブ・ライフ』(翔泳社、2012)では、以下のように語られている。

「能力は、人生のさまざまな経験をとおして開発され、形成されていく。困難な仕事、指揮したプロジェクトの失敗、新規分野での任務―こうしたことのすべてが、経験の学校の『講座』になる。」

『イノベーション・オブ・ライフ』164頁

昨今、「リスキリング」という言葉がもてはやされているが、多くの文脈において、「知識からの学び」が念頭に置かれているように思う。
「知識からの学び」のない「経験からの学び」はあり得ないが、「知識からの学び」にフォーカスしすぎると、日々の業務に追われているビジネスパーソンにeラーニングを目をこすりながら見ることを強要することになりかねない。
学びとは、「知識」と「経験」からバランスよく得るものだということを、改めて認識する必要がある。

「知識からの学び」の最中も、それをどう「経験からの学び」にいかすかを、常に意識することが有用である。その知識をどう使うかを意識することで、使う準備と使う予行演習になるからだ。
そして、その知識を使う「経験」を経たら、経験と知識を紐づけることで、知識が消化吸収され、自らの血肉になっていく。

また、「知識」をすぐに「経験」の場で用いることができるとは限らないが、「知識」を自らのそれまでの「経験」と結びつけることはできる。一回読んだだけでは理解できなかった実務書でも、時間を空けて読んでみると、自らの「経験」とリンクして、多くの気付きを得ることがある。これはまさに、目の前の「知識」と自らの「経験」が結びついたがゆえの体験といえる。

「知識」に偏るでもなく、「経験」に偏るでもなく、知識と経験からバランスよく吸収することが、学びを豊かにする。

【参考文献】
エディス・ペンローズ『企業成長の理論【第3版】』(ダイヤモンド社、2010)

クレイトン・M・クリステンセンほか著『イノベーション・オブ・ライフ』(翔泳社、2012)


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