なぜ、「多様性」を確保したのに組織がうまく回らないのか 醸造#1

【本稿の要旨】
多様性には大きく2種類ある。
多様性により組織を変革するには、形式的多様性に満足せずに、実質的多様性の確保を意識すべきである。

1 多様性の分類

組織における多様性が叫ばれて久しいが、ここでの「多様性」の意味には注意を要する。

多様性は、大きく2種類に分類することができる。

生物学上の性別、年齢、人種など外形的に容易に認識可能な多様性(形式的多様性)と、個々人の考え方、価値観、職歴、スキルなど外形的には認識困難な専ら当該者の内面的な多様性(実質的多様性)である。
前者は表層の多様性、後者は深層の多様性と呼ばれることがある。

これまでの研究により、組織の能力にポジティブに寄与するとされているのは、主に、実質的多様性であり、形式的多様性が組織にいかなる影響を与えるかについては、論者によって見解が分かれるところであり、通説的な見解は今後の研究を待つほかない。

(上記の状況を指摘することは、昨今特に叫ばれている、女性の経営陣への登用の促進などに反対意見を表明するものではないことを、念の為、付言しておく。2で述べることを踏まえれば、形式的多様性すら確保できないようでは、不確実性の極めて高い環境下で当該組織が生き抜くのは困難であると思われる。)

2 形式的多様性と実質的多様性の関係・実質的多様性の困難さ

形式的多様性と実質的多様性は独立に存在しているわけではなく、形式的多様性は実質的多様性を支える側面がある。
生物学上の性別の差は、社会経験に差を生むし、また、年齢の差も、職歴・スキル等に差を生むことからすれば、このことは明らかである。

形式的多様性を備えることは、実質的多様性を備えることの前提となる(それゆえ、形式的多様性を備えること自体は推進すべきであり、女性の経営陣への登用推進に異論はない。)が、単に、形式的多様性を備えただけで一安心、というわけにはいかないということである。

これは、容易に想像がつくところで、例えば意思決定機関の男女比・年齢構成を偏りのないものにしたとしても、同一の組織に長く所属し、同一の組織文化を共有している者のみで当該意思決定機関が構成されていたとしたら、実質的多様性を確保することは困難である。

実質的多様性を備えることの困難さを、組織と個人のダイナミズムという観点から整理すると、組織文化と多様性のパラドックス、という文脈でも整理ができる。
すなわち、多数派の構成員と異なる属性を持つ構成員(ここでは「新規構成員」とする。)に対して、組織が期待するのは、新規構成員による多様性の醸成である。
ところが、新規構成員が組織の一員足り得るためには、当該組織のミッション・価値観・組織文化をある程度受け入れる必要がある。
ここにパラドックスが生じる。
すなわち、新規構成員が、当該組織にある程度「染まる」ことによって、新規構成員による多様性の醸成が限定的になりかねないということである。
完全に「染まる」場合には、もはや、新規構成員による多様性の醸成は期待できないかもしれない。

3 まとめ

多様性について語り、多様性により組織を変革するのであれば、上記の点を踏まえて、実質的多様性をいかに確保するかに尽力する必要がある。
(「多様性」に限らず、言葉が独り歩きするは危険である、ということでもある。)

#多様性を考える

【参考文献】

鈴木竜太ほか著『組織行動』(有斐閣、2019)

高尾義明『はじめの経営組織論』(有斐閣、2019)

スティーブン P.ロビンス『【新版】組織行動のマネジメント』(ダイアモンド社、2009)


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