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学部首席を取るまでのはなし#3

#3「高校生(受験生活)編」

 無事にA高校への合格を決め、新たな環境にドキドキしながら、通学が始まった。自主性を重んじる高校のあらゆる中学校から集まった自律した生徒たち。年度初め恒例の委員決めは、全て立候補で決まった。長引くホームルームの中、「委員が決まるまで今日は帰れないぞ~」と担任に言われながらも、たいてい立候補者がいなくて、推薦やじゃんけんなどの流れになるものだと思っていたのに、こんなにあっさり決まるなんて驚きだ。中学までとはうって変わって、目立つことのないひっそりとした高校生活の始まりだった。
 進学する生徒が多い高校だったため、自分も周りの同級生同様、大学進学を視野に入れていた。学習塾に通いながら、高校2年の終わりには、志望校が固まってきた。高校生活は、通学、授業、部活動、学習塾のサイクルをこなすのに精一杯で、いつも身体が疲れていた。完璧主義な性格があだとなり、力を抜く場所が分からなかったのだ。受験は試験日というゴールがあるから、この日常が永遠に続く訳ではないのが救いだったが、全国から集まる受験生の中で、果たして自分がどの位置付けなのかが皆目検討も付かず、不安のなか手探りで目の前のタスクをこなしていった。
 ところが、いよいよ最後の追い込みの時期である高校3年生の秋に事件が起こった。一緒の学習塾に通っていた友人が、先に推薦で進学を決めたのだ。今まで、ライバルと言えば自分自身で、自分軸を保って生きてきたつもりだったが、初めて自分の軸が揺らいだ出来事だった。「長い人生の中で、この数か月なんて大した時間じゃない。自分はあと数か月間、もうひと踏ん張りするだけだ」と前向きに自分に言い聞かせようとするも、自分より先にこの受験地獄を抜け出した友人が羨ましくて仕方がなかった。自分の本番はまだこれからなのに、あたかも受験が終わったかのように、力が抜けてしまった。頭の片隅で「膝から崩れ落ちるとはこのことか」とどこか冷静な自分がひとりごちた。
 それから、受験勉強をするものの、全く身に入らない。それどころか、現実逃避のために全十数巻の長編小説を読みだしてしまう体たらくぶりだ。自分の自暴自棄ぶりに、さすがに家族も心配しだしたが、心配されているという事実がまた辛かった。結局鬱鬱とした心境のまま、受験日を迎え、自分の受験生活は終わりを迎えた。
 

→#4「高校生(受験その後)編」へ続く


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