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お金の「使い方」を学ぶプロセス

今私は国際バカロレアの認定校であるサニーサイドインターナショナルスクールで小学5/6年生の担任をしており、概念型探究をどのように実践しているのかをまとめていけたらと思います。まだまだIB教員2年目の実践ログなので、どのような場面に難しさを感じながら概念型探究の授業にトライしているのかについてまとめていけたらと思います。今回のnoteのテーマは「金融リテラシー」です。経済のユニットを通して、金融リテラシーを高められるようなワークを理論と実践を繰り返しながら行っています。

「金融リテラシーとは?」

「金融リテラシー」とは、経済的に自立し、より良い生活を送るために必要なお金に関する知識や判断力のことです。

お金の関する知識や判断力について、学校でどのように育んでいくことができるのか、試行錯誤しながらの実践をまとめてみたいと思います。

◎これまでの探究の流れ
・WEEK1-3「身近なところから経済循環の仕組みを探る」▶︎リンク
・WEEK4「経済の循環をシュミレーションで体感」▶︎リンク
・WEEK5「政府による経済活動への介入を探る」▶︎リンク
・WEEK5「未完成の遊びから培われるもの」▶︎リンク

また、「金融リテラシー」につながる内容としては、家庭科(5/6年)の学習指導要領には以下のように書かれています。

⑴ 物や金銭の使い方と買物
ア 次のような知識及び技能を身に付けること。
(ア) 買物の仕組みや消費者の役割が分かり,物や金銭の大切さと計画的 な使い方について理解すること。
(イ) 身近な物の選び方,買い方を理解し,購入するために必要な情報の 収集・整理が適切にできること。
イ 購入に必要な情報を活用し,身近な物の選び方,買い方を考え,工夫すること。

また、授業の設計としては以下のように設計をしています。左側の「知識の構造」では取り扱う事実を概念を通じて探究することで、複数の事実から繋がりやパターンを見つけて理解をつくりあげていきます。例えば、「政府は経済活動に介入する」という情報だけではなく、「なぜ」や「どのように」という問いを通して、複数の概念間の繋がりを言語化することで、ユニットが終わった後にもアイデアが活かせるような理解を作り上げていくことを大切にしています。また、「プロセスの構造」では「学習者ができるようになる」プロセスを通じて、プロセスの中で別の場面でも応用できる理解をつくりあげていきます。例えば、今回のユニットでは「お金を適切に使うプロセス」を通して、「情報を収集、整理することで適切な意思決定ができる」という、お金を扱うことに限らず別の場面でも応用できる理解をつくりあげていきます。

このユニットでは、政治、経済、算数、家庭科の教科を横断しながら、私たち国民一人一人が経済主体であり、さらに経済によって社会が形作られていくことを学んでいきます。今回のnoteでは、「どのようにしたら国民一人一人の金融リテラシーを高めることができるのか?」について考えるきっかけになればと思います。

ワーク①身近な架空のテーマで家計を学ぶ

マクロ経済の導入前に、ミクロ経済の基本知識を理解する必要があるので、ミクロ経済の「家計」につなげるワークを行いました。このワークでは、5日間で3万円を予算に生活をする具体的な資金計画をエクセルを用いて、立ててもらいました。この辺りは高学年の家庭科の単元と融合した内容になります。

実際に予算を考えて、予算の中で具体的に何にお金を使うのかをインターネットで情報を収集し、エクセル内で整理することで、何にいくらのお金を使うのかを計画していきました。この資金計画したものを保護者にフィードバックをもらう課題を出したところ、「実際にやってみたらいいじゃん!」ということで、架空の世界ではなく、実際に学校で2泊3日の宿泊キャンプを企画することになり、動き出しました。この学校全体のフットワークの軽さが、子どもたちの「やってみたい」を後押しし、学校で知識を学ぶことに加えて、学んだ知識やスキルを活かした実践の機会をつくることにつながっています。

ワーク② 市場経済ゲームで「お金の使い方」を学ぶ

市場経済ゲームとは、これまでに子どもたちが経済活動の循環について学んできたことを実際にシュミレーションするゲームです。このシュミレーションゲームを通して、子どもたちは仮想世界の中で、ものの生産、商品の売買、経営者は労働者と雇用契約を結ぶ、給与額の設定、スーパーは仕入れ値から物の値段を決める、全ての家計は儲けたお金に対して経費を除いた課税所得に対して税金を計算(所得に応じて変動)して税金を税務署に支払う、事業をする上でお金が必要になったら銀行で融資をお願いする(もちろん銀行もビジネスなので利息で儲けを出します)、需要を増やすために外国に輸出する企業を立ち上げ為替を見ながら取引する等と現実社会に近いカタチで実際に経験を通して学んでいきます。この仮想な世界の中でも、3人ずつの6つの家計が存在し、それぞれの家計は協力してお金を生み出し、生活費や税金を支払いながら生活を行います。以下の図はある家計の課税所得(利益)の推移になります。

▼ ある子どもの振り返り

「最初は従業員をたくさん雇った方がたくさん稼げると思っていたけど、従業員を雇いすぎるとお給料をたくさん支払わないといけないから、今は従業員を減らすことにした。」
「最初は定額で給与として渡していたけど、定額で渡すと全然仕事をしない人もいるので、生産した金額に応じてお給料を支払うシステムにした。」

子どもたちは、トライアンドエラーを繰り返しながら、経営のあり方を調整して、売上を徐々に伸ばすことができている家計も出てきました。(もちろん全ての家計がうまくいっているわけではありません笑)

DAY1は課税所得は-65$でしたが徐々に経営を見直したチーム

さらには、今回のユニットで子どもたちにできるようになってほしい「情報を収集、整理することで適切な意思決定ができる力」についても、既にスキルとストラテジーを使って実践しているチームもあります。このチームでは、全ての経済主体の動きを整理するために情報を収集、整理をしてゲームに望んでいました。以下のリフレクションはその気づきになります。「決断をしやすくするために情報をまとめる。ユニットだけでなく、社会で何かをする時にも活かしたい。」と書いていました。この振り返りを見た時に、これからの教育で大切になってくるのは「結果」よりも「プロセス」にあることを強く感じました。子どもたちが学習するプロセスでどんな力を育むことができているのかを、予め設計する重要性を最近感じるようになりました。

ワーク③ 学校キャンプの企画で「お金の使い方」を学ぶ

さて、いよいよユニットの学びも最終章に入ってきましたが、「子どもたちが金融リテラシーを高める実践」として、学校でキャンプをすることになりました。この企画では「お金を適切に使えるようになる。」ことを目的にしているので、お金のかからない企画ではなく、お金のかかる企画を6つのチームに分かれて考えてもらいました。子どもたちから、キャンプをするときに「せっかくだからみんなで何かをしたい!」という声から、つながったアイデアでもあります。まずは、最初にどんなことをみんなでしたいのかをブレストし、その中で6人以上が興味のある企画を中心に立ち上がっていきました。
最初は子どもたちから、「やってもいないのに計画なんて立てられないよ。」という声が上がりました。しかし、世の中ではお金を使う前に、予算を決めることがほとんどであることを説明し、プロジェクトが始まりました。国の予算、助成金の申請、家計の予算、銀行の借り入れ等お金を正しく使うためにも事前にしっかり計画を立てる力が大事になってきます。

本日立ち上がった企画は、「みんなでどこかに出かける」「みんなで晩御飯をつくる×2日分」「肝試しをする」「ゲーム大会をする」「お菓子パーティーをする」の6つでした。以下の予算計画書の順序で進めていきます。6人以上興味がある人が集まると企画を発足でき、企画化したものに関しては娯楽品も家庭から持ってくることができる仕組みをつくりました。教育活動でもあるので、全てが自由ではなくある制限を儲けることで学びが触発される仕掛けは入れてあります。

そして、この企画の予算は参加する人から集めた予算で行います。例えば、参加をする場合は1人あたり500円回収するとして、10人が参加する場合は5000円が企画の予算になります。ざっくり決めた予算の中で情報をリサーチし、お金の使い方を整理していきます。そして、最終的には予算とその使い道について参加する人に説明し合意が取れたら予算として可決される仕組みになります。

予算が決まると、具体的な準備の計画に入ります。本番までの計画を立てて、さらに企画に必要なもののリストを作成していきます。

「◯◯◯ができるようになる」ためには、「習うより慣れる」という言葉もありますが、学習者ができるようになるためにスキルやストラテジーを意識的に何度も使う中でできるようになってくる考え方とも出会いました。今回は、お金を適切に使うことができるようになるために、情報を収集、整理して適切な意思決定ができるようになるという理解をつくりあげていけるようにアプローチをしていきます。

今回は「どのようにして学校で金融リテラシーを育むのか?」という問いについてまとめてみました。いつも読んでいただきありがとうございます。

moimoi!

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