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「言語化力」を読んでみた

今回は三浦崇宏氏の「言語化力」という本についてです。少し間隔が空いてしまいましたが、ちょうどこの本が発売されたらから書こうと思っていたので、早速書いていきたいと思います。

ご存知の方も多いかと思いますが、三浦氏はクリエイティブディレクターとして活躍されており、博報堂・TBWA\HAKUHODOを経て2017年独立、約四年前に現在代表を務める「The Breakthrough Company GO」という会社を設立した。広告やPRの領域を超えて、クリエイティブで企業や社会のあらゆる変革と挑戦を支援することを目的に活動し、メディアの露出も積極的に行ない活動の幅を広げている。

本書のテーマである「言語力」は、混沌とした時代を自ら切り拓いていくための武器であるという。憲法で表現の自由が守られているように、そもそも主張や発言は等しく平等な権利である。もちろん、主張や発言は誰でもできるのだが、これまで不特定多数に対して発言できたのは「選ばれた人」であった。例えば、マスタレント、作家、詩人、コピーライターといった一部のプロフェショナルな存在である。
しかしながら、時代は変わった。情報量が増え、SNSが登場したことで、点と点が繋がる社会となった。誰でも不特定多数に発言することができるようになり、むしろ普通の人の言葉が強い時代がやってきた。そして、時として一つの発言が社会に大きな影響を与えることもある。

前置きが長くなってしまったが、本書では三浦氏のこれまでの経験から、いまの変化の多き時代を生き抜くため、人生を切り拓くため、楽しむための「言葉の使い方」を教えてくれる手引書となっている。

序章 すべては言葉で変えられる──仕事も人間関係も人生も
第1章 「言葉にする」方法
第2章 印象に残る言葉、一生残る言葉をつくる
第3章 言葉で人を動かす
第4章 言葉で未来を指し示せ

序章 すべては言葉で変えられる──仕事も人間関係も人生も

この時代に言葉をうまく使って生きていくためには、3つのポイントが重要であるという。

1 誰もが「伝える価値」を持つ時代になった
2 言葉こそが最強の問題解決の手段だ
3「言葉」を駆使すれば、闘わないで勝てる

1 誰もが「伝える価値」を持つ時代になった
冒頭にも記載している通り、かつて不特定多数に対して発言できた「選ばれた人」、いわゆるプロの言葉は、時代の変化とともに世の中に響かなくなってきているという。プロの言葉は完成度が高く、情報伝達には有効ではあるが、時代が変化する中で作られた言葉やフレーズに対する消費者の受け取り方も変わり、関心を示さないようにもなりつつある。こと広告業界においても、消費者と同じ目線に立つインスタグラマー、TikTokerなどが作成したクリエイティブがよく好まれる傾向にあるだろう。
もちろん、プロの言葉もいまだに健在ではあるものの、今の時代は普通の人(=誰でも)が発する作られていない自然体の言葉が人々の共感を産み、人を動かすことができるようになった。

一例として、ご存知の方もいるかと思うが、2016年、あるブログに「保育園落ちた日本死ね!!」から始める投稿がされた。保育園落ちたという事実と社会に対する怒り、個人的な感情がシンプルに表現された言葉だが、これは社会を揺るがすきっかけとなった。普通の人の生活から溢れ出した魂の言葉、事実であり真実だからこそ響いた言葉、私たちが発する言葉の持つエネルギーは我々が考えている以上に大きなもので、何気ない一言が大きな影響を与えてしまうかもしれない、そんな時代なのである。
そして、言葉の価値が高まっているなか、「どう表現して伝達・理解してもらうべきか」が重要になっている。

2 言葉こそが最強の問題解決の手段だ
三浦氏の人生の指針の一つは「Life is contents」だという。裕福だった暮らしが一転して貧しい生活となった経験を、小学生ながら面白おかしく話をしたことで、ネガティブな出来事も言葉の力でポジティブなものに変えることができる言葉の力を初めて感じた瞬間だったそうだ。
それからは、人生で起きる出来事は、どんなことだってコンテンツである。人生に起きる全てのことを言葉で語ってコンテンツにしてしまえば、きっと前向きに捉えられるようになるし、武器となり財産になるだろう。そして、どんな問題であったとしても解決できる手段であると考えている。

3「言葉」を駆使すれば、闘わないで勝てる
三浦氏は常に戦いに勝つ努力ではなく、努力しないで勝つために努力することを行なっているという。そして、この考え方のベースにはやはり「言葉」があるという。自分自分でできることを明確に言葉で定義する。自分にとっての本当の勝利とは何かをしっかりと言葉で定義する。これこそが、全ての努力・戦略・勝利のスタートは言葉である。

第1章 「言葉にする」方法

ここでは、三浦氏が脳内でいつも行なっている「言語化」の方法を紹介しているのだが、ある問題や事象について何かを語る時、思考の言語化するには、以下のプロセスが必要であるという。

0 スタンスを決める
1 本質を掴む
2 感情を見つける
3 言葉を整える

0 スタンスを決める
まず、自分の社会における立ち位置と、世の中の動きに対する自分自身の好き嫌いを明確にしておくということである。自分のスタンスが明確になれば、何かを聞かれてもそのスタンスからの意見を言えばいいのである。正直、どこまでに突き詰めても選択が正しいかは分からない。だからこそ、「目の前に現れる無限の思考の分岐点で自分のスタンスを貫き続ける」ことが重要となる。

1 本質を掴む
自分のスタンスを明確にできれば、次は問題や議論の本質を掴む作業が必要となる。そのために、「固有名詞を省いて、時系列も無視して、行為と現象と関係性だけを出して考えてみる」ことを行う。慣れれば頭の中だけでまとめられるが、初めは書き出しながら整理することがいいだろう。会社であれば、経緯報告書や議事録なども有効活用するといいかもしれない。

2 感情を見つける
本質を掴むことは、物事を客観的に捉える必要があるが、ここでは「自分自分に目を向ける。」物事の本質と自分のスタンスを照らし合わせたうえで、そのことに対して自分がどんな感情を持ったのかをすくい上げてみる。そこからさらに、その感情を抱いた理由を考え、深掘りしていくことで自分の感情を他人に説明できるようになるまで考える作業を行う。

3 言葉を整える
最後はアウトプットする際に、誰に話すのか、時間はどれくらいなのか、表現は正しいかといった状況に応じて言葉を整える作業である。しかし、あくまで0〜2が重要要素となるので、余裕があればで問題ない。あくまでスタンスを決めて本質を掴み、自分の感情に向き合った自分の意見を言葉にすることが重要なのだ。

また、これとは別に言葉のセンス、チョイスなども+@要素としてあり、クリエイティブ同様に先天的なものと思われがちだが、人と出会って話を聞いたり、ジャンル問わず様々な本を読むなどのインプットによって養うことができるだろう。

「言葉の因数分解」で自分を見つめ直す
言語化の方法は上述の通りだが、うまく言語化できる人は頭の中で「言葉の因数分解」を行なっている。例えば、「頑張ります、よかったです、楽しいです、うまくいない」といったシンプルな言葉は、その人が感じたリアルであるが、それゆえに抽象的で具体性にかける表現でもある。そのため、レイヤーを細かく分けて具体的に分解していくことも非常に重要なことなのだ。そうでなければ、シンプルな言葉は本質的で楽な反面、思考を止めてしまうこともあるからだ。

ここに記載していないことは本書で見て頂きたいが、言葉にするためのプロセスはありつつも、やはりとにかくどんどん言葉にしていくことが重要だという。質は量から生まれる通り、正しい、正しくないは、一旦置いておいて「言葉にすることを習慣化させる」訓練があってもいいだろう。
時には自分の言葉でなくて、誰かの受け売りや偉人・著名人の言葉なんかでもいいかもしれない、とにかく発言することを意識してみてほしい。

しかし、私個人の意見としては、なんでも発言してよいと言われても、意外と難しいのではと感じるところもある。よって、言葉にするために自分の内なる言葉をまずは一人でいいから独り言のように口に出したり、紙に書いたりして、そのあとは少数人で抽象的な話でいいからとにかく自分の意見を発言する訓練をすることから始めてもいいかもしれない。

第2章 印象に残る言葉、一生残る言葉をつくる

三浦氏はインパクトのある強い言葉を生み出すことを得意としており、ラップの世界でよく使われる「パンチライン(=感情を動かす強い決めの言葉)」という言葉をよく使うという。もちろんラップのように韻を踏んだり、相手を貶す言葉をいう必要はないが、たった1行の強い言葉で相手に対して強い印象を残し、状況を一変させる言葉を手に入れることができたら、仕事や人間関係がとてもうまくいくことは間違いないだろう。

そのため、三浦氏は最低限、「短くシンプル」、「意外性」、「学び」、「すぐにやれるか」の大きく4つを気にしており、さらにそこから本質的なポイントを4つほど意識されている。

・「視点を上げる」
・「領域を広げて、一般化して考えてみる」
・「逆張りをする」
・「ゴールから逆算する」

「視点を上げる」
例えば、自分が一般社員の立場で「会社に行きたくない」と思っていたとする。これは一個人の話に留まってしまうため不特定多数に関心を持ってもらいにくい。そこで視点を上げて考えることで、「我が社の問題は、社員が会社に行くことを楽しくないと思っていることだ」となり、「この会社は行きたいと思われる場所になっていない」といった会社や社会範囲での大きな話になることで興味を持ってもらえるになる。

「領域を広げて、一般化して考えてみる」
例えば、今勤めているブラック企業を辞めたいと相談を受けたとして、「〜で働くのは大変だよね、でも全力で働いてみないと企業風土の問題か、向いていなかったのか判断できず、次の転職先でも同じ失敗を繰り返す可能性がないか?」とアドバイスしたとする。これを一般化してみると、「全力でやった時だけ、失敗は前進である」というパンチラインに集約される。

「逆張りをする」
徹底的にマイノリティの立場に立ち、あえて逆のことを言うという。例えば、「SNSで世界が広がっている」という意見に対して、「SNSは正解を狭くしている」と逆仮説を唱えてみる。すると、人は興味を持ち、記憶に残るのではないだろうか。もちろん、全てを逆張りすれば言い訳ではない、そこにはSNSは誰とでも繋がることができるシステムだが、実際には知り合いや興味のある人とだけ繋がってしまい、結果的に世界を狭くしてしまっているという本当の複雑な意味が込められていることが重要なのだ。

「ゴールから逆算する」
本質的に考えるためのポイントは、ゴールから逆算することである。何かをしてほしい、どうなりたいなどのゴールから逆算して考えることで、物事の本質を見つけることができる。例えば、お酒は飲めないが広告業界で働きたい場合を考えてみる。確かに広告代理店はお酒を飲めないと出世できないような印象はあり、飲める方が周囲からの印象もよく、飲まない人間はつまらないと思われがちなところもある。そこで、ゴール考えてみると、「お酒を飲んでほしい」と言う人々の欲求は、お酒を飲んでほしいではなく、「無理をしてほしい」ということで、なぜ?という視点で逆算する思考を養うといいだろう。

第3章 言葉で人を動かす

三浦氏曰く、「いい言葉」の定義は、「変化を起こせる言葉かどうか」だという。どれだけ良い商品を生み出しても消費者が最終的に購入してくれなければ意味がなく、何かが動いたり、何かが変わったりするきっかけとなる言葉にこそ、本当の価値があると言う。本章では人を動かすための3つのポイントについて紹介している。

・目的を明確にすること
・目的に向かうプロセスを明確にすること
・主語を複数にすること

目的を明確にすること
簡単には、ただ「動け」と言うよりも、「鬼を退治しに行こう」と動くための目的を明確にすることで人は動きやすくなる。動機の言語化とも言えるかもしれない。

目的に向かうプロセスを明確にすること
目的に到達するための条件、プロセスを明確に定義づけできるから、努力のゴールイメージ明確になる。マラソンでも何キロ走るか分からない状態は精神的にも苦しい、大抵の人々は諦めてしまうだろう。先ほど、「鬼を退治しに行こう」と目的は明確にしたが、そこから「この海に先に鬼が島がある、そこに鬼がいて、5人で立ち向かえば勝てるはずだ」と努力量の目安が分かる、成果に対するプロセスを明確化することで、結果的に人の本気さをより引き出すことができるのだ。

主語を複数にすること
視点を「I」→「WE」に変えることが有効である。
「I」:「鬼を退治してこい」
「WE」:「一緒に鬼を退治しにいこう」である。
このように主語を複数にするだけで、一層言葉の強さは引き立つのである。

数字の経営より、言葉の経営
言葉で人を動かす際にもう一つ重要なやり方は、「目標を立てる」ということある。その際に気をつけなければいけないのは、数字を上げるためではなく、変化を作るためにのみ人は本気になれることを理解すること。ビジョン(理想)を言葉で表現し、数字目標はあくまでビジョンを実現するための指標である前提としてイメージすること。

言葉は人に変化をもたらすポテンシャルを持ち、相手との関係性を変えることもできるし、選択する言葉によってその人の印象自体も変わることもあるだろう。そのための考え方や状況に応じた適切な言葉を選んでほしい。

第4章 言葉で未来を指し示せ

いまの日本はそこまで仕事を頑張らなくても、なんとか生活ができてしまう国であり、まあそんな時代ではないだろうか。だからこそ、自分にとっての幸せを言葉で定義できるようにならなければ、仕事を頑張る理由も見失ってしまう。

言葉を使って思い込む、未来を定める、自分を拡張する。言葉によって、「姿勢」も変わるだろう。そこから人生そのものも変わってくるかもしれない。未来を言葉にすると、同時に自分の「現在」の意味を言葉で補う(=自分を強くする)ことができる。そして、言葉は何より「過去」の意味をも変えうる。失敗・後悔・挫折した過去を悔やむのではなく、人生における「学び」と捉え言葉にすれば、それだけで生き方が変わってくるものだ。

また、未来を考える上で、「人生の目的を言葉にする」ことは、非常に重要だという。ちなみに三浦氏の人生の目的は、「人類にとって、最も大きな問いを解く人間になりたい」とのことだ。一度考えてみてもらいたい。果たして今の自分の人生の目的はあるだろうか。言葉にできる状態だろうか。
今の時代の生活環境は、ますます豊かになり、かつ便利になっているが、その分、誘惑や嘘も多く、不透明な要素も多分にあるだろう。だからこそ、自分の人生の目的を明確にしている人は強く、どんなことがあっても迷わずに生きていけるだろう。ぜひ、皆さんにもそうなってほしい。

この変化し続ける時代の中で、唯一と言っていい普遍な価値を持つ「言葉」、これは本当に最強の武器だ。そしてこれは、生きている間、死後もその価値は変わらないだろう。

                                

☟著者プロフィール
三浦 崇宏氏
The Breakthrough Company GO代表・PR/クリエイティブディレクター。博報堂・TBWA/HAKUHODOを経て2017年独立。博報堂では、マーケティング、PR、クリエイティブ部門を歴任。PR戦略を組み込んだクリエイティブを数多く手がける。現在は、様々な業種のプロフェッショナルを集め、新規事業開発から広告まで幅広く問題解決を手がけるThe Breakthrough Company GOを設立。カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで金賞、ACC総務大臣賞ほか受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)




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