我が愛しのミックジャガー

ベランダで見上げると赤い光がいつもより眩しく大きく見えた。最近、上空では火星が出ている。
朝のニュースのとおり、嵐が近づいているようで、風が強くなってきた。雲がものごいスピードで地平線の向こうまで飛んでいる。

下方、横断歩道を渡ろうとしてやめた男女がいるが、大学生だろうか。深夜１１時。男は何か女に向かってしゃべった後、口を開けて笑うのだった。それは強い風の中、印象の良い笑い方だった。
信号機が赤色に変わったあと、すっと表情を変え、そのあと、無表情にぼぉっと、上空の火星を見ていた。風が強く空気が澄んでいる影響だろうか。空気がいつもより綺麗だ。　

西のほうから豪快にバリバリ地球を割ってしまうかのような音が聞こえてくる。僕は急いでベランダから部屋の中に入ると、その瞬間、激しい雨が一気に降り始めた。町はより暗くなり、雨が銃弾のように僕の住むマンションの壁を撃ち始めた。
テレビジョンではいつの日が見た気がする再放送のドラマが青白い光を出して映している。
天井では、あれは部屋の物影だろうか？
虫みたいな黒い影がそわそわ動き、稲妻が落ちるたびに、ダイニングキッチンではミックジャガーが彫刻のように美しく、映し出されていた。
彼は堂々と笑っている。大きな口で、彼は好きなものを好きなだけ食べるのだ。それから僕はただ、いつものように彼に見惚れるばかりだ。