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シン・ユニバースの終わりか始まりか?「シン・仮面ライダー」一見レビュー

鉄は熱いうちに打て、仮面は恥ずかしがる前に被れという訳で見てきました。
庵野秀明監督、最新作「シン・仮面ライダー」

『シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『シン・ウルトラマン』に続く”シン・シリーズ”第4弾にして、日本を代表する”ヒーロー”4作品によるコラボ企画”シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース”プロジェクト最終作。

果たして、本作品は世の期待に応えて、鮮やかな有終の美を飾ることが出来たのか。

…と、仰々しい書き出しにしてしまいましたが、本作に期待している世の中って誰(どこ)?とか、SJHUの目指すその先って何?みたいなのが定義されないと何とも言えないですし、自分がそこにコメントできるほど詳しい訳でもないので、単なる煽りです。

普段このような大げさな書き方はしないのですが、それでもそのような枕にしたのは、庵野監督の背負った複雑な立場を慮って、労いの気持ちで書き出してみた次第です。

こう書くと、本編についても称賛の記事になるように思われるかもしれませんが、あらかじめ言うと、全体としては否の内容になりますので、そうした意見を見たくない方は、この先は読み進めるのをご遠慮いただければと思います(ネタバレ有りでお送りしますので、そちらが嫌な人も同様です)。


1.はじめに

さて、まず(仮面ライダーに思い入れの少ない)自分がこの映画を見た理由についてですが、一番大きかったのはやはり「庵野秀明監督の新作」ということでした。

自分は、世代的には初代ガンダム世代なので、エヴァもそこまでハマっておらず、TV版の最後がヤバいみたいな評判を聞いて、後からビデオで見直してなんじゃこりゃ、ってなった後にハマっていた友達に誘われて劇場版を観に行き、いろいろ解説聞いているうちに自分も…って感じでした。

特に、旧劇場版「Air/まごころを、君に」はご多分に漏れず衝撃を受けたため、新劇場版についても、まだやるんかいなと思いつつも、いわゆる「履修せねばなるまい」と見続けていたような状態です。


2.高まる期待値と一抹の不安

ただ、エヴァQが全体的に話が暗く、いまいちなじめなかったため、シンゴジも様子見だったのですが、こちらは評判が良く鑑賞してみたらメチャメチャ面白かったため、その後に発表された「シン・ウルトラマン」も期待するようになりました。

結果、期待値が上って鑑賞したシンウルは個人的には微妙だったのですが、庵野監督の関わり方が比較的薄かったとの話もあり、その後に発表された予告編とかを見て、こだわりが感じられた「シン・仮面ライダー」には期待していました。

そして、実際に鑑賞した映画ですが、演者は全体的に良く、デザインも最高で、ロケーションも素晴らしく、画面の構図や映像のテンポなど、主に見た目の部分については満足度の高いものになっていました。

3.実際どうだったのか

しかし、ゴジラと違い、シンウル同様、1話完結のTVシリーズを劇場版にすると話の展開がダラダラしたりと盛り上がりに欠ける嫌いがあり(コウモリオーグの下りいる?みたいな)、また「原作オマージュがすごい」とか言われても、見ていない人にとっては無いのと同じなので、その部分での面白味は見いだせませんでした。

シンゴジの蒲田君やシンウルの銀色の巨人「その存在を始めてみた時の衝撃を再現」という意味では確かに驚きに満ちていて良かったのですが、シンウルの回転蹴りや本作の空中戦のCG?なんかは普通にカッコ悪く感じたので、効果的でなかったように思います。

おなじみの小難しい専門用語やアニメっぽいキャラのセリフなどはそれこそ「あらら…」って思いつつも作家性として受け入れられましたが、物語の構造やキャラクターの動機づけといった、視聴者を感情移入させる要素が抜け落ちているため、有体に言うと面白く感じられない作品となっていました。

4.どうしてこうなった?

オリジナルのファンでもない自分はそもそもターゲットではない、という考え方もあるかもしれませんが、最初に述べたプロジェクトの目的を考えると、こうした一見さんを取り込む開かれた作品を作ることが目標ではなかったのかと思います。

また、ファンに向けた各種のオマージュも、一見さんに魅力を伝える切り口になるという想いがあるかもしれませんが、原作漫画や他作品との繋がりなどの小ネタはあくまで知識としての発見の面白さで、先に述べた物語の強度や理解に直接は関係ありません。

では、そうしたことに監督が無自覚だったのかというと、そんなことはないように感じます。

5.熟考の末の苦渋の選択

によるとシン・ゴジラの時点で「一般映画にしないと元が取れない」としており、シンエヴァにしても、1周年記念特番でのファンの監督との一問一答では以下のようなやり取りがありました。

Q:映画のストーリーを作るにあたって1番大切なことはなんですか?

A:観客の理解をなるべく得ようとすれば、基本に忠実。

つまり、本人としては観客へのサービスを放棄しておらず、多くの人に受け入れられるように配慮していたと思われます。

そう考えると、クモオーグがやられるときにその理由をわざわざ言ったり、その後に主人公が出会った博士から自分が改造人間にされた経緯をくどくどと説明されるのは「ダサっ」と思いましたが、あれはあれで視聴者への親切心だったのかなとも思いました。

また、先のQ&Aではもう一つ興味深い以下のような回答がありました。

Q:今回のエヴァンゲリオンを作っていくにあたって 過去のエヴァ作品とあえて同じにした もしくはあえて変えた様なものはありますか?

A:現場でのアドリブ、書き送り方式は面白い作品を作る方法として『新世紀エヴァ』を踏襲したところです。あえて変えたのは自分達の経験等を反映させた物語構造をやめて、フィクションとしての強度を持った物語構造にしたところです。

6.自分が期待していたもの

思えば、自分がTVシリーズや旧劇場版のエヴァで衝撃的だったのは、商業作品であるアニメでここまで個人的な思いをさらけ出す私小説風な作風に惹かれたというものがありました。

本人曰く、自分が当時視聴した作品の作者には戦争や学生運動など、強烈な経験があり、それに基づいて表現された作品の熱に心を動かされたが、自分にはそうした原体験がなく、何をやってもパロディになってしまう。

そんな自分がオリジナルとして何かを表現するには、自身の人生を反映させた物語で見せるしかないみたいなところから、あのような作家性になったそうで、これは自分も身につまされるような話で、よく分かります。

7.この先に期待したいもの

シン・エヴァを見たときに感じたさみしさは、シリーズが終わったことではなく、同じ物語を違う切り口で表現した結果、きれいにまとまって完結した半面、旧作が持っていた勢いや作家性が失われたと感じたことでした。

そう考えると、本作は本人の思い入れのある仮面ライダー(を始めとする石ノ森作品)へのファンサービスと、その中でも一般向けであろうとする配慮のバランスに苦慮していびつな構造になってしまったことと、監督の味わいでもあった自己投影を意図的にそぎ落としたことによる”入り込めなさ”にあるのかなと思いました。

とはいえ、本作も物語に入る前の導入部はメチャメチャ上がる展開で、やはり演出はずば抜けていると思いますので、こうなったら、SJHUの集大成として4大ヒーローがCG、アニメ、着ぐるみとそれぞれの質感のまま同じ画面に同居して一大バトルを繰り広げる超娯楽映画を作って、最初から最後まで頭を空っぽにして楽しめる時間を提供してもらえたらいいなと思いました。

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