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【対談】がん専門の精神科医が語る──誰かに相談したくてもできない人ほどTomopiiaの存在を知ってほしい


Tomopiia(トモピィア)は、がんで不安や悩みを抱える方が看護師と個別対話できるサービスです。不安や孤独を解消する一助になるべく、日々活動を続けています。
今回お越しいただいたのは腫瘍精神科医の清水先生。がん患者とその家族4,000人以上と対話をしてきたご経歴があり、Tomopiiaが「SNS看護」という新たな領域でのチャレンジを進める中で、これまで数多くのアドバイスをくださりました。本記事では、がんを抱える方の悩みと対処法について、看護師の統括を務める十枝内綾乃より清水先生にお話を伺いました。

プロフィール
清水 研(しみず けん)
1971年生まれ。がん研有明病院腫瘍精神科部長・精神科医・医学博士。
金沢大学医学部医学科を卒業後、内科研修、一般精神科研修を経て、2003年、国立がんセンター東病院精神腫瘍科レジデントに就任。以降、一貫してがん領域での臨床に取り組んでおり、対話した患者・家族は4000人を超える。研究テーマはうつ病、心的外傷後成長。2006年より国立がんセンター(現・国立がん研究センター)中央病院精神腫瘍科に勤務。2012年より同病院精神腫瘍科長。2020年4月より現職。日本精神神経学会精神科専門医指導医。日本総合病院精神医学会専門医指導医。日本サイコオンコロジー学会登録精神腫瘍医。『もしも一年後、この世にいないとしたら(文響社)』、『がんで不安なあなたに読んでほしい(ビジネス社)』などの著書がある。

「10年後も20年後も自分は健康」の前提から、突然のがんに

十枝内:清水先生はこれまで4,000人以上のがん患者さんやご家族との対話をしてきた経験がございます。がんに罹患された方は、どのような心理状態になるとお考えでしょうか?

清水:がんに対してどう感じるかは人によってさまざまですが、多くの方に共通するのは次のような点です。平和な世界で、健康に生きてきた方の多くは、来年も再来年も自分は健康だろうという前提で皆さん生きています。もちろん何かあった時の備えとして保険に入っていたりはしますが、それでも自分は10年、20年と健康に働いていけると思っています。

30代以下の方であれば、なおさら自分の健康を疑うことがない。でも、そういった方でもある日突然がんになることがあるんです。すると、こんな人生を送りたいと思っていた想定がガラガラと崩れ、死ぬかもしれないという恐怖を抱くようになる。がんという病気は人の未来を根底から脅かすものだと思っています。

十枝内:がんになると、死んでしまうかもしれない。そう思うのは皆さん共通かもしれませんね……。私も何度もがん患者の皆さんを看てきているので、他人事ではないと頭ではわかっています。でもどこかで、がんになった自分を想像できていないところはあると感じています。

きっと皆さんも同じで、だからこそいざ自分ががんになった時に気持ちの整理ができなかったり、どうしたらいいんだろうと戸惑ってしまうのではと思います。対処方法について、清水先生はどのようにお考えでしょうか?

清水:自分の「今の気持ち」を話すことが大切だと考えています。自分の心の中だけで抱え込んでしまうことはつらいことだと思っていて、誰かに「これが心配」「これが怖い」と話せる相手がいることはとても重要なことです。医療的なアドバイスをもらえるかどうかは関係なく、自分が今どんな気持ちなのかを話せる相手がいるかどうか。
私のところへ来られる患者さんでも「家族に心配をかけられない」と、自分の舞台裏を最後まで自分一人で抱え込んでしまうケースがあります。その時に「私は専門医で守秘義務もあるので何でも話してくださいね」とお伝えすると「話ができる場があってありがたい」と言っていただけるんですね。

がんの宣告を受けた際には、今後どうしていくかを考える前に、まずはその衝撃を自分の心が受け止めなければいけません。その時、誰かに話をして自分の気持ちを吐き出すことができる場があることは、非常に心強いと思います。

「たまたま友達が看護師だった」というスタンスこそが大切な理由

十枝内:Tomopiiaでは、がんと共に生きる皆さんと看護師をつなぐ「SNSを活用した対話サービス」を提供しています。利用してくださる方々の不安や孤独を少しでも解消できたらと考えているのですが、このサービスに対する清水先生の見解を聞かせていただけますか?

清水:看護師というのは病院の中でも患者さんのそばにいることが一番多く、日常生活から排泄の介助、採血や点滴の管理等まで距離感が非常に近いお仕事だと思っています。その中でも、がん医療に携わる看護師は、患者さんを助けてあげたいという愛情がないと勤まらないのではと私自身は感じていまして。
イメージとしては母性的と言いますか、患者さんが悲しんでいる時に一緒に泣いてくれるのが看護師さんなのかなと思うんですね。そういった人の温もりのようなものを、TomopiiaのサービスではSNSを通じて患者さんは感じることができるんじゃないかと思います。

十枝内:お話を伺っていて、看護師はがんの状況と絡めながら想像をしながらお話を聞くことが上手なんだろうなと思いました。気持ちの整理ができるように、絡まった感情をひも解くことが上手なのが看護師の特徴かもしれません。
実際にTomopiiaのサービスを受けられた方の多くは気持ちの整理がまだできていないこともあり、話があっちにこっちにと散らばりやすいんですね。もしこれが看護師でなければ、客観的にお話を受け止めることはできても、自分の事のように親身になることが難しい可能性はあります。

清水:まさに、そういうことかもしれませんね。

十枝内:ただ私たちが意識しているのは、看護師がお話を聞くというよりも「たまたま友達が看護師だった」くらいの立ち位置です。なので医療的な相談をするのではなく、その時の気持ちを何でも話してもらえたらと思っています。

友達への相談なので何を話してもいいんです。皆さん最初の頃はものすごくたくさんの文章を書いてくれて、思ったことをどんどんSNSで送ってくれる。仕事のことも家庭のことも。自分が今何を感じていて、何を怖いと思っているのかを気軽にチャットで話してくれる関係性が大切だと考えています。
トーク履歴も後から振り返ることができるため、自分が以前は何を考えていたのかを客観的に見られて、改めて自分の気持ちを整理できたりもします。ぜひそのようにTomopiiaを使ってくれたら嬉しいなと思いました。

誰かに相談することが「ハードル」と感じる人にこそ使ってほしいサービス

十枝内:SNSを使って相談ができるTomopiiaの可能性について、清水先生はどのように捉えているのかを改めて伺ってもよろしいでしょうか?

清水:対面にはない気軽さがあり、そこに可能性を感じます。お金がかかるわけでもなく、時間の制約があるわけでもない。自分が話したい時・質問したい時にチャットでささっとメッセージができるのは非常に便利です。また、心理的な手軽さもTomopiiaにはあると思います。
ここまで私も、がんになったら「人に相談すること」が大切だとお伝えしましたが、そこにまずハードルがあるんですよね。打ち解けるのが怖かったり、ひどいことを言われたりするんじゃないかとトラウマを抱えている人もいると思います。

十枝内:人にはそれぞれタイプがありますよね。声の大きい人は同じような状況にある人たち同士で集まってみんなで乗り越えていくかもしれない。SNSの発信が得意な人であればどんどん投稿をして、自分の気持ちを整理するのかもしれない。
Tomopiiaはその中の選択肢の1つであり、「お互いの顔もわからない匿名の状態で、1対1でやりとりを文章でするだけなら自分の気持ちを打ち明けられるかもしれない」という方に使ってもらえたらと思っています。

特に、夜って不安になると思うんです。真夜中に眠れなくなって、がんの恐怖に怯えてしまう。そういう時もSNSなら時間を気にせずメッセージを送れますよね。世の中には患者会や相談窓口、支援センターなどさまざまなサポートがありますが、そのうちの1つとしてTomopiiaが選択肢に入ってきてくれたら嬉しいなと思っています。

清水:世の中は、コミュニケーションが得意な人や自分から積極的に行動を起こせる人ばかりではありませんよね。Tomopiiaのサービスは、今まで隙間になっていた部分、今までアクセスできなかったがん患者さんが使ってみようと思える、とても貢献性の高いサービスになるのではと期待しています。

「自分らしく がんと向き合う」こととは

十枝内:日々、多くの患者さんとSNSでお話をさせていただく中で難しいなと感じるのが、一人ひとりの「自分らしくがんと向き合う」をどう支援するのか、ということです。
例えば、自分の子どもの前では明るく振る舞うことがプレッシャーになっている場合に、「もうがんばらなくていいよ」と言うことはできると思います。でも、子どもの前では明るく振る舞うことがその人らしさだとしたら、それを奪い取ってしまうのは違うと思うんですね。

人それぞれに異なる価値観を私たちはどう受け止め、どのように言葉で返すのか。そこをよく考えないと対話になりませんし、「この人はわかってくれない」と思われてしまった瞬間にお互い言葉が出なくなってしまうと思っています。

清水:がんを抱える方に対して「自分らしくがんと向き合いましょう」と言うのは、プレッシャーの強い言葉だなと思っているんです。やっぱり疲れちゃうよね、と。
でもどこかのタイミングで向き合わなくてはいけないのであれば、その時に気軽に相談ができる場所、愚痴を言える場所があるというのは心強いと思います。

十枝内:Tomopiiaは文章でのやりとりをして、そこに綴られた文章を読んでいる瞬間だけでも嫌なことを忘れられるような、そんな一瞬を提供したいと思っています。おしゃべりをする中で「楽しい話ができたな」「自分の気持ちを吐き出せたな」と思ってもらえたら良かったな、という感覚です。

がんになった瞬間に今まで見たことがない自分が出てきて、人が妬ましくなったり恨みたくなったりして、これまで築き上げてきた自分自身が崩れていくと感じられる方もいらっしゃいます。その自分を受け入れるというのは簡単ではなく、Tomopiiaのサービスに参加したからと言って、30日間で思いが劇的に変化するわけでもないかもしれません。
だからこそ、とにかく1ヶ月の間はどんな話題でも、どれだけの文章量であっても、お話をうかがって、対話ができる場になればと思っています。

清水:Tomopiiaで相談に乗っている看護師の皆さんは「人の力になりたい」という想いを持っている、とても温かい方たちばかりですよね。私も日々がん患者さんと接する中で、「自分の気持ちを話したいけれど、そのための場がない」という相談をよくいただきます。相談支援センターや患者会、電話相談など、ご希望に沿った窓口をその都度ご紹介するのですが、Tomopiiaもぜひ選択肢の1つとしてお勧めしたいです。
SNSでつながる形は、対面や電話などに比べてさまざまな気軽さがあると思いますので、この記事を読んでくださった読者の方には、ぜひ一度利用してみてくださいとお伝えしたいです。

十枝内:清水先生、本日は貴重なお時間をありがとうございました。

▼SNSカウンセリングの専門家・宮田先生との対談記事はこちら
https://note.com/tomopiia/n/nfe5bd5bef863

(了)


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