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虹色ドリーミング(第16回)

#創作大賞2024
#お仕事小説部門

【ラジオ@最杏チーム】
実を言うとこのイベントには攻略法がある。
去年のマレーシアのJAPAN EXPO出場権争奪イベントでのことだ。
カカシは『プレモニー』のオタクとして、イーグルは『ミストレス』のオタクとして参加したのだが、お互いに「あっちには負けたかもしれない」と思ったそうだ。他のオタクの数は50人程度の中で、二つは100人ずつでいい勝負だったらしい。
ところがフタを開けてみると、優勝したのは『ムカシバナシ』だった。
カカシが調べてわかったのは、こういうことだ。プレモニーのオタクは、もちろん1位にプレモニーと書く。しかし2位にミストレスを書くと負けてしまう可能性があるから、ミストレスを3位以内に書かない。ミストレスのオタクもプレモニーの名前を書かない。そうしてみなが2位に名前を書いたムカシバナシが優勝したわけだ。
これはオレたちだけが知ってる攻略法だ。カカシはアニマル武士道とアルカナアイドルの、イーグルはテロ-リズムとアイロックの、トラウトはキレイの、オレはとりあえず女子の、そしてラビットちゃんは元々ガーデンプリンセスを二推ししていたのでそこの、それぞれのオタクに「2位にニジドリを書いて」もらうようにお願いしてまわった。これでいけるはずだ。
よく『二推しは作るな』というけれど、単推しじゃなくDDしていた方が良いこともあるんだ、と学んだよ。

【アオイ】
『優勝は…………虹色ドリーミングです!』
『やったあああーーー!』
ドリーマーが飛び跳ねている。えっ?なんで?
「アオイ様ぁやったぁ。やったよぉ」
杏花が泣きながら抱きついてきた。えっ?
勝ったのか。あたしたち……掴み取ったんだ。
あたしは目を閉じて綾香に「やったよ」と伝え、その後拳を高く突き上げた。
『では、優勝した虹色ドリーミングにはウイニングランでもう1曲お願いします』
あっ。あー。あー。やっぱり。
「ごめん。あたしもう声出ない」
ミオタンがうなづいて言った。
「虹の彼方へ、でお願いします」
『はい。では……あっ、ちょっと待ってください』
何だろう?音響トラブルかな?
『虹色ドリーミングの運営さんからお話しがあるそうです』
高梨社長だ。
『ニジドリのみんなおめでとう。ドリーマーのみなさん、応援してくれたみなさん、本当にありがとうございます。実は大事なお知らせがあります』
『やめないでーー』
『わははははは』
『虹色ドリーミング、8月6日にTIFに出演することが決まりました』
『おおおおおおお』
嘘?!えっ、本当に?

うだるような暑さ。雲一つない真っ青な空。
たぶん今日は40℃近くまで上がるだろう。
ミオタンが携帯用扇風機を顔に当ててる。
「虹色ドリーミングさんお願いします」
「よーし」
ミオタンが扇風機を置いて立ち上がる。みんなで円陣を組んだ。
「ニジドリ、TIF楽しもう!」
『おーーー!』
今日は1曲目ソウルスクリームのイントロが流れる中、あたしたちは野外ステージへ。
うわっ!人、人、人。見渡す限りの人。ドリーマーはオリジナルTシャツを着てるから一目で分かる。
「おまえら、今日は死ぬ気でかかってこーい!」
綾香、見えるよね。
あたしたちはかつてアイナが立ったステージに立っている。
アイナが見たのと同じ景色を見ている。
SBYグループは今年も全員、って全部で何人いるかよく知らないけど、とにかく全員出る。
そんな大きな大きなステージにあたしたちは今立っている。
来月には日本を代表してフランスのパリのステージに立つ。
綾香。
あたしが連れて行ってあげる。あたしの夢。二人の夢。
≪ソウルスクリーーーーーーーーム≫
あたしは一人じゃない。いつも綾香がいっしょだ。綾香!いくよ!叫ぶよ!
≪ソウルスクリーーーーーーーーーーーーーーーーム≫

「よいしょ、あれ、届かない」
「ユキ、はい」
「あ、カレンありがとう」
「えぇ、わたし窓側がよかったぁ」
「じゃあ私と交換する?」
「ミオタンいいのぉ?」
「ユリポンはそれ何持ってきたの?」
「向こうだと日本食が恋しくなるかもって」
「今は日本食ブームだし、JAPAN EXPOっていうぐらいだからたぶん何でも売ってるよ」
あたしは最初から窓側。黙って窓の外を見てる。
実は……あたし飛行機に乗るの生まれて初めて。
だから窓側は誰にも譲らない。そして、今とても緊張してる。
こんな物が果たして本当に飛ぶのか。落ちたりしないのか。
13時間も乗っていたらエコノミークラス症候群にならないのか。
機内で「ビーフorチキン」って聞かれるというのは本当なのか。
ビールは飲めるのか。まあ他のお酒でもいいけど。
パリでは日本語は通じるのか。ホテルは。タクシーは。食事は。
そもそもライブはフランス語じゃなくていいのか。練習しておかなくていいのか。
ソウルスクリームってフランス語で何て言うんだ。
あっ、動いた。うわっうわっ。
飛行機が加速して背もたれに押し付けられる。
うわっ、浮いた。
あたしたちは今飛行機と一体になって飛び立つ。

これであたしと綾香の話は終わり。
でも、あたしたちの物語はまだまだ続く。

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