「インタビュイーに恋をする」作家・土門蘭と編集者・徳谷柿次郎、それぞれの取材術
2019年8月3日、『経営者の孤独。』(ポプラ社刊)の出版を記念し、著者の土門蘭さんとHuuuu代表・徳谷柿次郎によるトークイベントが銀座 蔦屋書店にて開催されました。
「土門さんと柿次郎が、お互いにインタビューし合う」というコンセプトで開かれた今回のイベント。ふたりのインタビュー術から作家と編集者の関係、紙とWebの違いまで、縦横無尽に語られた当日の様子をレポートします。
「土門さんはいい女である」
ーー『経営者の孤独。』はもともとウェブマガジン『BAMP』の連載でして、この度加筆されて書籍化となりました。本日はそのお披露目イベントということになります。そして連載『経営者の孤独。』の発起人が、こちらの徳谷柿次郎さんです。
柿次郎:はい。徳谷柿次郎です。
ーー隣におりますのが土門蘭さん。
土門:土門蘭です。よろしくお願いします。
ーー今回は柿次郎さんから土門さんにインタビューをしてもらって、それぞれのインタビュー術の違いとか、文体みたいなものについてお話いただきたいと思います。
柿次郎:言いたいことが3つくらいあるんですけど。
ーー聞いてもいいですか。
柿次郎:まずひとつ、「土門さんはいい女である」っていうこと。あと、さっき近くで鰻を食べたんですが……。
ーーさっそく逸れそう!(笑) もう本題に入っちゃいましょう。
司会を担当したのは、株式会社鷗来堂の経営者で、『経営者の孤独。』の編集にも関わった柳下恭平さん
「変なおじさん」に話を聞く方法
柿次郎:僕は仕事柄、日本全国の変なおじさんにインタビューしてるんですよ。「変なおじさん」といっても、志村けんじゃないですよ? もっと変なおじさんが、世の中にいっぱいいるんです。
土門:変なおじさんにインタビューをしたい欲求があるってことですね?
柿次郎:欲求がすごいです。変なおじさんに会いたい。もっと変なおじさんを集めたいという気持ちがあるんですけど。
土門:集めたい。それはどういう風に……?
柿次郎:あっ! もうインタビューされてる!
会場:(笑)
柿次郎:そもそも、地方の変なおじさんは事前情報がないんですよ。ほとんどメディアに出てないような人が多いので。でも、彼らはその土地で50年、60年とずっとやってきて、いろんなものを積み上げてる。そこに僕が入っていって、話を聞くと。
土門:変なおじさんを見つける手段って何なんですか?
柿次郎:やっぱり地元の人からの紹介ですね。「ジモコロでは変なおじさんを取材してます」って日々発信しているので、僕の元へ情報が寄せられるんです。
ただ、最初に出てくる情報ってあんまりで。「もっとやばいおじさんいるでしょ?」ってしつこく聞いて、過去にジモコロで作った記事のサンプルとかを送ると、「そういえばこんな人が……」って。
土門:いるんだ!
柿次郎:いるんです(笑)。ポイントとしては、地元の人があまり理解できていないくらいの人がちょうどよくて。
土門:「この人でいいんでしょうか」みたいな。
柿次郎:そうそう。で、そういう人って癖が強いわけです。インタビューが始まる最初は警戒されるんですけど、そこから今日お話しするインタビュー術が効くんですよ。
土門:教えてほしいです。
柿次郎:ほんとに心の底から面白いと思いながら、めちゃくちゃリアクションするんです。「ええ~~〜〜〜!!!」「マ~~~〜〜〜〜ジっすか!?!?」って。
土門:そんな感じなんですか(笑)。
柿次郎:今言うとめっちゃ嘘くさいんですけど、彼らが積み上げてきた言葉とか価値観って、ほんとに面白いんですよ。
土門:本心からのリアクションなんですね。
柿次郎:実際、岐阜の中津川で飛騨牛を育ててるおじさんに取材した時には、「おれはお前らみたいなのを待っとったんや」と言われたんです。あれは嬉しかった。インタビュー後は深夜2時まで一緒に酒を飲んだり、その人しか手に入れられない地元の珍味を食べさせてもらったり。そういうのが僕の理想のインタビューかもしれません。
「インタビュイーに恋をする」
ーー以前聞いた「インタビューする相手に恋に落ちる」って土門さんの話が面白いと思っていたんですが。
土門:はい。恋に落ちるんですよ。
柿次郎:恋! 実は以前、土門さんにインタビューを受けたんですが、最終的に「精子」っていうキーワードに行き着いた。そしたら心が丸裸になって、3日くらい動けなくなりました(笑)。
柿次郎:土門さんはそれくらいダメージを与える、力のあるインタビューをするなと。恋をするっていうのは、例えばどんな香水をつけていくんですか?
土門:香水はつけないようにしてるんですよ。相手が気持ち良く喋れるように服装も目立たないようにして。今まで喋ったことのない部分を言語化してもらえるのがいいインタビューだと思っているので、わたしは黒子に徹します。
柿次郎:へえー!
土門:ただ『経営者の孤独。』では、会社を経営されてきて、たくさんの修羅場をくぐってこられた方が目の前にいる。その時に「相手が上で、自分が下」と思うと、「わたしが何を聞けるだろうか」って気持ちになるんです。
でも、怖気付いてしまうと相手の方がわたしに対して興味を失ってしまうことがあるんですよ。「またこういう若い子が来たな」って、さっさと終わらせてしまう方もいる。
柿次郎:過去にあったんですね。
土門:ありました。なので、自分と話して楽しいと思えてもらえたら、それで満点やなと。そのために、インタビュイーをクラスメイトだと思おうとするんです。
柿次郎:ほおお。
土門:例えば、柿次郎さんに取材をするとします。柿次郎さんはたくさん取材されてきてて、わたしは駆け出しのライター。じゃあわたしが何を聞こうって思った時に、柿次郎さんをクラスメイトの徳谷くんだと思おうと。「なあなあ、徳ちゃん」みたいな。
柿次郎:徳ちゃん!(笑)
土門:で、わたしは徳谷くんのことを陰ながら好きなんですよ。どんな音楽聴いてるんやろ、どんなファッションが好きなんかなあって、事前に下調べをする。インターネットや書籍でインタビュイーが話していることのほぼすべてに目を通していく。その上で、今日はやっとこぎつけたデートだと。
そうすると、「記事のためでも、PVのためでも、読者のためでもなくて、わたしのために教えてほしい」っていう気持ちになるんです。そんな“恋に落ちる2時間”みたいな感じでインタビューしてます。
柿次郎:そんなこと聞いたら、みんな取材されたくなりますね(笑)。
恋に落ちる土門蘭、恋に落ちない柿次郎
ーー対照的に、柿次郎さんのインタビューは恋に落ちないですよね。
柿次郎:落ちないですね。まず下調べをしないです。というのも、さっきも言ったように検索しても情報が出てこない人が多いので。
土門:そういう人を探してターゲットにしてるからですか?
柿次郎:そうですね。ジモコロを始める前は、机にずっと座って、パソコンで調べて情報が出てくる人をもう一回取材することのほうが多かった。
だったら東京の机から離れて、誰も知らない人のところまで実際に行けば、すごい価値が生まれるんじゃないか。そう考えて始めたのがジモコロなんですよ。だから今は取材する人を知らないほうがいいって思ってます。
土門:先入観ゼロで行きたい?
柿次郎:そうそう。調べて知っちゃったら、「あのメディアの2周目みたいな記事になるな」とか思っちゃう。紹介してもらった初めての人と、時間をかけて仲良くなるようなインタビューが好きなんです。ステゴロのタイマンみたいな。
土門:ステゴロのタイマン……。
柿次郎:すいません、言葉が広島っぽくなってしまって……育ちが悪いもので。この会場がある銀座なんて、一番ステゴロのタイマンがない場所だと思うんですけど(笑)。
土門:そうですよ(笑)。
柿次郎:話を戻すと、僕が話を聞きたい人は、取材慣れをしてない方が大半です。その時、土門さんが黒子に徹するように、僕は「なんとなくその土地のその人に興味があるお兄ちゃん」になるんです。相手は「役所のやつに言われて話すけど、お前ら何者だ?」みたいな感じですから。できるだけ警戒心とかを与えないために、気持ち良く大きな声で挨拶して。
土門:大事ですね。
柿次郎:普通、取材の礼儀として「テープ回していいですか」って聞くじゃないですか。でも、それも言わないようにしてるんです。勝手にテープを回して、写真を撮ったほうが、その人の自然体の言葉が出やすいんですよね。
「乱し癖がやばいんです」
土門:そういえば、『経営者の孤独。』で矢代仁(やしろに)という会社の社長さんにインタビューしたんですが、その社長のご長男は編集者なんです。彼も仕事柄、インタビューをするので、取材先に行かれた時に「お、なんだこいつ周りと違うやんか」みたいなインパクトを与えるために、金髪にしているそうで。
ーー息子さんと僕は知り合いなんですが、彼は「最初の40分を省略したい」って言ってましたね。懐に飛び込むための術として、ちょっと変わったやつだと思われて、最初のアイスブレイクを省略したい。それが金髪にした理由だと。
柿次郎:そのインタビュー術わかります。でも、僕は外見だけで「こいつクセがあるな」とはきっと思われない。せいぜい、「格好が普通の会社員じゃないな」くらい。だから、ちょっとだらしなくするとか、相手が思い込んでるものを乱そうとしちゃうんですよね。僕、乱し癖がやばいんですよ。
土門:乱し癖。
柿次郎:僕は朝起きるのが弱いので、打ち合わせの日もギリギリに起きて、5分くらい遅刻しちゃうんですよね。で、打ち合わせの直前にコンビニに寄って買い物するんです。で、打ち合わせの場に行ったら「すいません遅れて。あの、お腹減っちゃって…」とか言って、待たせた人の前でおにぎりとか食べるんです。「飯ブレイク」って呼んでるんですけど。
会場:(笑)
柿次郎:飯ブレイクをすると、みんなの目が「この人しょーがねえなあ」って感じになるんです。ちょっと堅くなりそうな場で飯ブレイクを入れると、和やかな空気になる……っていうのが僕の乱し癖です。もちろん、時と場合は選びますよ! 相手が知り合いの時とか……。
土門:ちょっと金髪と似てますよね、カテゴリーとしては。
柿次郎:かもしれない。無理やりインタビュー術に繋げると、おじさんってめちゃめちゃ話が長いんですよ。ずっとその土地にいるから時間はあるし、僕がもうめちゃめちゃ面白がるんで、「おれの話をもっと聞いてくれ!」って話し続ける。そんな時は、話の腰をどう折るかを意識しちゃうんです。
土門:へー! 難しいですよね? 話の腰を折るって。
柿次郎:難しいです。変なおじさんって頭がいいので、なかなか話の隙間がないんですよね。だから、そういう時は「え〜〜〜〜〜!」って長めにリアクションをする。
土門:長めのリアクション。
柿次郎:おじさんは僕が「え〜〜〜〜〜!」って言ってる間に呼吸を変えるんですよ。で、話の腰を折りたい時は、ずっと「え~~~!」って長めに言ってからすかさず「え、どんな女性好きなんですか」って聞く。すると、おじさんは呼吸を変えるとこだったので、「おー……」ってちゃんと考えてくれるんです。これは使えますよ。
結局、おじさんって“手癖の筋肉”で喋ってるんですよ。いろんな人に同じエピソードを話してきてるから、落語みたいになっている。でも、全然関係ない話題でその人の手癖の脳の思考回路をぶった切っちゃう。そんな風に乱した話が、意外と良かったりするんです。
「男性がソリッド系、女性はリキッド系」
ーーお二人の話を聞いていて、インタビュー術のなかにジェンダー論があるような気がしました。土門さんも柿次郎さんも、インタビュイーが男性のほうが得意だったりします?
土門:そうですね。女性にインタビューするの難しくないですか?
柿次郎:めっちゃ苦手ですね。おじさんに逃げてます。
会場:(笑)
土門:わたしは、女性にインタビューがしにくいのは同性だからなのかなと思っていて。男性とお話をすると、やっぱり自分と違うところが多いのでインタビューしやすいんですよ。
でも女性の場合、相手の喋ってることがきっちり言語化する前になんとなく分かっちゃうんですよね。というか、「分かっちゃってるんだけど、本当に分かってるのかな」って思いながらインタビューしてます。
柿次郎:相手の話を先回りして理解できちゃうけど、本当にそうなのか疑うと。
土門:そうですね。物質で例えるなら、男性がソリッド系だとすると、女性はリキッド系な感じがしていて。わたしが男性にインタビューをする時は、相手という石があって、わたしというリキッドが流れを変える。その変化を、言葉として書くイメージなんです。
柿次郎:相手に合わせて、自分が変容する感じ。
土門:そうです。わたしというリキッドの中に柿次郎さんって石が入ってきて、どういう泡が立って、どういう波が起こったのかを書いている。でも女性が相手だと、わたしというリキッドと彼女というリキッドが混ざり合ってしまう。相手と一体化してしまうような気がするんですね。
柿次郎:なるほど〜。
土門:以前、ずっと私の文章を担当してくれている編集者に「きみは女の子に優しすぎる」と言われたことがあるんです。
『経営者の孤独。』で、ある女性にインタビューした時に、彼女のある一言を原稿に書けなかったんですよ。「わたしが彼女だったら、この言葉は絶対書いてほしくない」って一体化しちゃって。編集者には「なんで書かないんだ」って言われたんですけど、書けない理由が言えなかったんです。
柿次郎:相手が男性のほうが、自分と距離を保ちやすいってことですか。
土門:そうですね。女性はこんな風にわたしが書いたら傷つくんじゃないだろうかって考えてしまって、書きにくいのかな。
柿次郎:興味深いっすね。僕も自己分析してみよう……。
作家はアクセルで、編集者はブレーキ
ーーここで「作家性と編集性」ってテーマについて聞いてもいいですか。実は、作家である土門さんが編集者的なインタビューを、編集者である柿次郎くんが作家的なインタビューをしてるんじゃないか、と僕は思っていて。
柿次郎:なるほど。
土門:作家がアクセルだとすると、編集者はブレーキの人だと思うんです。でも、ブレーキっていうのはアクセルの勢いを殺すんじゃなくて、いい方向に持っていくため。作家がアクセルを踏まなかったら誰も踏めないですし。
『経営者の孤独。』で、ある取材者の方に原稿のチェックをお願いしたら、「インタビューではあんな風に喋ったけど、この言葉は使わないでほしい」と言われたんです。わたしは原稿を書いている段階から、「ご本人としてはあんまり出したくない言葉かもしれない」と思ってはいた。でも、初稿でアクセルを踏まなかったらそれ以上のことが書けないから、アクセルはベタ踏みで書かないといけないんです。
で、その時は編集者が「この言葉を出すことにどんな意味があるか」をインタビュイーに話して、交渉してくれて。結果として、初稿の言葉のまま出すことができました。
柿次郎:原稿を見たインタビュイーが「やっぱりやめてほしい」って言った時に、編集者はどうやったらこのすごく尖った言葉たちを世に出せるか、書き手の代わりに交渉する役割がある。
土門:はい。「誰がどう感じるか」じゃなく「この文章が作品としていいか」って視点は、書き手だけでは持てません。「客観性のある編集者が言うんだから、そうかもしれない」と、インタビュイーも安心してくれるところがあるんです。だから、作家であるわたしはアクセルを踏む人で、編集者はいい意味で流れを殺さない人なんだなって感じてます。
柿次郎:面白いですね。『経営者の孤独。』が最初に掲載されたのはWeb媒体のBAMPでしたけど、紙とWebの違いを感じることはありました?
土門:わたしが一番面白いなと思ったのが「文字数問題」だったんですよね。
柿次郎:あ〜。
土門:紙とWebの大きな違いは、文字数に限りがあるかないかだと思ってるんです。「Webならいくらでも書けるじゃん」と思っていたのに、いざ書き始めると、Webには読了率という指標があって。最後まで読んでシェアをしてもらうために、読みやすさを重視する流れもあるんですね。
だから『経営者の孤独。』が始まった当初も、BAMPの編集担当だった友光だんごさんから「文字数が多すぎないですか?」と言われていて。でも、連載が進むにつれて、だんごさんが文字数のことを言わなくなっていったんですよ。
柿次郎:「文字数しか知らん若手編集者が、あんだけ言ってたのに」って(笑)?
土門:ちがうちがう(笑)。だんごさんが読者を代表して、「土門さん、これだったら最後まで読んでもらえます」と思ってくれたんやなと。だから、途中からは2万字近くとかになってしまったんですけど……。
柿次郎:『経営者の孤独。』は読めちゃうんです。長くても、面白ければ読まれる。Webメディアで1万〜2万字のインタビュー記事を出して、反応が良くて本になったっていうのは、めちゃめちゃすごいことです。だから本当にみなさん、4、5冊くらい買って帰ってほしいですね。
会場:(笑)
『経営者の孤独。』は重石だった
柿次郎:土門さんはこれからも小説をずっと書き続けるんですか?
土門:そうですね。実は柿次郎さんが「経営者の孤独をBAMPで取り上げたい」ってツイートされて、わたしが反応したのって、まさに小説を書いてるときだったんです。当時は、このままじゃやばいなと思っていて。
柿次郎:やばい、とは?
土門:「小説に呑まれてしまう」と感じてたんです。あまりにも小説に引っ張られて、このままじゃ生きていけないんじゃないかって。それくらい呑まれそうになっていた中で、現世に繋ぎ止めてくれるほどの強度のある企画を欲していました。それが『経営者の孤独。』だった。
柿次郎:自分の海に落ちないように。
土門:そう、重石が必要だったんです。
柿次郎:経営者って強い人たちの悩みや葛藤を重石にして、自分の小説を書くぞと。
土門:それがあれば、何かがぶつっと切れて帰ってこられないってことにはならないんじゃないかなって。
経営者は「社会の中で、自分がどうやったら必要だと思われるか」を開拓してる人たちな気がしていて。すごく「生きる」ってことに近い人たちだと思ってるんです。それに対して小説は、社会とかよりも自分の中に潜っていく作業。だから、その2つの間でバランスを取ってたんだろうなと。
「『これで食べていける』といつ思いましたか?」
ーーさて、そろそろ残念ながらお時間です。何か質問があれば……あ!どうぞ!
会場の女性:お三方とも「自分はこういうことができる」がはっきりされてるなと思うんですけど、「これで食べていける」って確信を持てたのっていつからですか? 何かの出来事があって、確信に変わったのか。それとも、やっていくうちにじわじわと変わっていったのか。私の周りはフリーランスで働いている人が多いんですけど、バタバタと倒れていってて……(笑)。
土門・柿次郎:(笑)
ーー切実ですね。僭越ながら、僕から話させていただきます。僕自身はなにも技術を持ってない人間なんですけど、「やると決めたらニコニコやる」ってことだけ決めてるんです。ニコニコやるだけで、10点のものを返しても12点くれたりするんですよね。それはフリーランスでも会社員でも変わらない。
あとは友達や睡眠時間があれば幸せなのかな、とは思いますね。僕は若いころ、年収30万とかの時代がずいぶんあったので(笑)。それに比べたら現世のほうが食えてます。
土門:現世(笑)。当時よりはってことですよね。
柿次郎:僕はジモコロ初期の頃に、タケノコを売ってる静岡の変なおじさんとたまたま出会ったんです。その場で取材した記事がすごく評価されて、気持ちよかったんですよね。
「代表作」をそのタイミングで作ることができた結果、同じようなことを4、5年ずっとやってる。それゆえ、ローカルの変なおじさんにずっと囚われてる……。
土門:囚われてる(笑)。
柿次郎:でも、ローカルと変なおじさんは減らないんです。ずっと増えるので!
土門:(笑)
柿次郎:あんまり今の仕事には執着してないんですけど。なくなったらなくなったでいい。だから「飯ブレイク」っておにぎり食ったりしてるだけ(笑)。
柿次郎:「これがあるからどうなってもいいや」って軸を持って、ちょっとだけ狂いながら、やる。狂うくらいやって作ったものを他人が面白がってくれる経験の連続で、いまの自分の自信が成り立ってるかもしれないです。
土門:なるほど。ちなみにご質問してくれた方はおいくつなんですか? ……えっ!? 20歳!?
柿次郎:めっちゃいいリアクションしますね(笑)。
土門: わたしは30になった時に「これからもずっと何かを書きつづけるんだな」ってわかったんです。それを記念して、『スタンド30代』っていう連載をWebで始めたんですね。『スタンド30代』っていうのは孔子の『論語』から来ています。「三十而立」って言葉がありまして、「30歳は『自分はこの道を行くんだ』とわかる年齢なんだ」と孔子は言ってるんです。
土門:私自身も、20代のころは悩んでいて。「文章を書いて食っていきたい」と思いながら、出版社で営業をやってたこともありますし、Web制作会社でディレクターをやってたこともあります。色々考えてるうちに子どもが生まれて、思い切り仕事に時間をかけることもできなくなった。それで、ずっとどうしようか悩んでたんですね。
そしたら、30歳くらいの時に「もう人がどう言おうと、自分がやりたいことを一生やってけばいいか」って開き直れた瞬間があったんですよ。
柿次郎:うんうん。
土門:「書くことで人に認められなくても、ちやほやされなくても、お金を稼げなくてもまあいいや。書くことを続けていけさえすればそれでいいや」って。だから、こういう風に本が出せる日が来るなんて思ってもなかった。20代の頃はあがきまくる時期かなと思います。そのうち疲れてバタって倒れた時に、見えるものもあると思いますよ。
柿次郎:そうですね。まだ20歳なんで。アフリカとか行って、ダイヤモンド探してもいい年齢じゃないですかね。
土門:行ける行ける!(笑)
ーーじゃあそろそろお時間なので……ありがとうございました!
土門・柿次郎:ありがとうございました!
会場:(拍手)
イベント終了後にはサイン会も行われました
構成:渡良瀬ニュータウン(Twitter)
撮影・編集:友光だんご
【お知らせ】
『経営者の孤独。』(ポプラ社)刊行記念イベントが8/31にも開催! 『「未来のチーム」の作り方』(扶桑社)の著書である「サイボウズ式」編集長・藤村能光さんと土門さん、柿次郎さんが登壇します。
イベントの詳細やお申し込みは上記ページから!
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