「技術の継承」という分かち合い
もうここ5年くらい、ずっと追いかけている、とある動物園の飼育員さんがいます。愛媛県立とべ動物園に務める、松浦友貴さんという飼育員さんです。
意図せず参加することになった講演会で、初めて松浦さんが体験された話を聞いて、
こ、これは、本に、し、なければァああーーー!
と一人でなぜか焦って企画を起こし、執筆している案件です。
とべ動物園といえば、しろくまピースや、アフリカゾウの家族が人気です。
やっと、「書ける」、と思えた。
noteでこれを書いているということは、もうだいぶヤマは通り過ぎたということで、あとは、丁寧にまとめるだけです。
そう、私は今日、それを確信するシーンに出会いました。
思い立って、急にお願いした取材で、見せていただけることになったのは、アフリカゾウの10分ほどのトレーニングです。
私は、その様子をガラス越しに外から見学させてもらったのですが、PCウォールという、飼育員とゾウを隔てる壁の向こうにアフリカゾウ、そして手間には担当の飼育員さんたちおよそ6名がいました。
私は、ちょうど飼育員さんの背中から、その様子をジーーーと見つめることになったのですが
ただ見て、メモとっているだけだったのに、なぜか、目頭が暑くなっていく。うる、ウルウルする。
その時、ああ、これでやっと書けるんだな、と思いました。
とべ入り口ゲート。晴れてよかった!
飼育技術を伝えるってどういうこと
追いかけているその人は、十八歳から飼育員一筋で、新人だった頃から24年に渡り、アジアゾウを担当し、その最後を看取った人です。
詳しくはこれからまとめる本を読んでいただきたいけれど(ものすごくゾウについては詳しくなったよ✌️)、
この数年の取材で、とにかく身にしみて感じたことは
飼育員さんというのは、想像以上に命を削って現場に当たっているということでした。
加えて、言葉では分かり合えないという世界で、動物たちにとっての最善を判断し、選び、責任をとって行かなくてはいけない。
なんだかもうギャンブルみたいな仕事だな、、、などと、私のような若輩者は思ったりしましたが、
飼育経験が長くなるほどに、そういう一か八かみたいな判断が必ずやってくる緊張の連続のお仕事であるということを、私は、なんだか途方にくれるような気持ちでずっと、見てきました。
松浦さんが、これまでの経験で感じてきた葛藤、悩み、喜び、動物との関わり方。私は、取材を通して、十八歳からの飼育員松浦さんを追体験してきたんだなと思います。
今日、目の前にいたのは「もうゾウは見たくない」と数年前、号泣しながら話してくれた松浦さんではなくて、
若い世代の飼育員さんたちに、自分が経験してきたもの、ヒントにしてきたもの、動物との接し方、実践してきたことを、言葉ではなく、背中で伝えようとしている姿でした。
ああしろ、こうしろなんて、言いたくない。自分で判断して、失敗もして、身につけていくのがいいんじゃないかなあ
と、松浦さんはいつものようにやさしい口調で言いました。
アジアゾウ搬送に使われたおり。スロープの名所にもなってるね。
技術の継承という分かち合い
動物園というのは、考えてみればとても不思議な場所です。
ワシントン条約によって野生動物の輸入が禁止されるようになってから、繁殖に向けた調査・研究も動物園の大切な役割と認識されるようになり、
その結果、今動物園に暮らす動物たちの8割が動物園生まれだという事実(知ってました?!)は、結構私たちにリアルな未来を突きつけてきます。
子どもたちが大人になる頃、動物園は存続しているだろうか?
そんなことも、考えさせられます。
どこまできちんと描けるか、できるだけのことしようと決意していますが、今日私が見せてもらったものは、そのような専門的な話はさておき、
紛れもなく「技術の継承」のワンシーンでした。
現場の誰もそう思っていなかったとしても、あれは、もうすっかりベテランになった松浦さんからの、若い世代への、分かち合いなのだと思った。
飼育に「正解」ってあるでしょうか。子育てに「正解」がないのと同じように、きっと動物たちも人も、言葉を超えたところで共鳴しあい、反発し合い、どこかでしっかり結ばれて、関係が築かれていく物じゃないでしょうか。
飼育が、命を削りながらする葛藤と悩みと喜びの積み重ねなものだとしたら、技術の継承に言葉なんかは邪魔なのかもしれない。
なんだか本当に美しいシーンを見たような気がして、専門的なことはよくわからないのに一人で高揚して、
もう絶対に書ける予感しか残らなかったことを、ここにご報告させていただきます。
どうか、きちんとまとまった暁には、ここでまたご報告させてください!
よろしくお願いします。
とべ動物園といえば、新居浜出身のアーティスト石村嘉成さん!春ごろ、ここで特別な展示がまた行われるそうです。楽しみだね!
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