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【エッセイ】あの世の同窓会で、会いましょう

天国や地獄、死の後は無になる、お星様になる。
死生観とは人の数ほどあるが、私が考える死生観はこちら。
「あの世、同窓会説」

※今回のエッセイはこちらの「彼願」という映像作品を制作するために書いたエッセイを加筆したものです。

日々、たくさんの選択の中で生きている。
私たちは1日に最大で3万5000回の選択をしているそうだ。
今日の朝ごはんにはコーヒーか、オレンジジュースか。ズボンから履くか、シャツから着るか。先に寝癖を直すか、あとで直すか。
もし、オレンジジュースを選び、シャツから着て寝癖を直した場合。あなたは快適な朝を過ごすだろう。
だがもし、先に寝癖を直しコーヒーを選び、先にズボンから履いた場合、あなたは寝癖を直した時に片付け忘れたドライヤーのコードに引っかかり、上半身をコーヒーまみれにし雄鶏のように叫び、近所に朝をお知らせするだろう。

朝の選択だけでも「快適に家を出た世界」と「上半身を火傷する世界」が存在する。
これを1日、何ヶ月、何年という単位で考えた時、最も遠くの選択をした自分はどんな自分なんだろうか。

私が高校時代に演劇部に所属した理由は、女の子にフラれたからである。それではもし、フラれなかった世界があるとするなら、舞台の上で表現活動をしようという私はそこには居ないかもしれない。
もっと前に遡った場合、私が表現活動を志す理由は父親の死だった。それではもし、父親がまだ生きていた世界があった場合。私は芸術系の高校には行かず、当時ぼんやりと考えていた建築の道に進んでいたかもしれない。
隣の世界の私は花屋だったかもしれない。
隣の隣はサラリーマン。隣の隣の隣は絵本作家かもしれない。
現世には数えきれないほどの私がいるかもしれないのだ。

たくさんの私たちが存在する中、今この世界を生きていられる私は、かなり奇跡的な存在なのかもしれない。たくさんの選択の中、奇跡的な選択を繰り返し、私はやっと生きられているのかもしれない。
もし、右の道を行くはずの場所を左に行っていた場合、私は車に轢かれていたかもしれない。
「水をまだ飲まなくていいや」と考えたあの時の私は、熱中症で倒れていたかもしれない。
本屋でたまたま手を取った小説で救われた私は、鬱屈とした思いのまま、この世に居られないと思っていたかもしれない。
20年生きれた私は、一体何人いるのだろうか。
30年生きていられた私は、何人居て、その中に私はいるのだろうか。

そのたくさんの私たちは、もちろん会えることはできない。各々の人生があり、干渉している場合ではない。
ただ私は、めっちゃめちゃ会いたい。たくさんの人生を自分自身の口から聞けたら最高だ。辛かったことも、幸せだったことも全部聞き出したい。
普段の生活では自分から人に話しかけることにとても体力のいる私だが、自分自身であれば気兼ねなく話すことができると思うし、なんなら自分から話しかけるのが得意な私もいるかもしれない。
そんな私たちと同窓会を開きたい私である。

もう一つ希望するシステムがある。
「OBの死者たちは、生を未だ持つ自分達を窓から覗ける」というものである。
先に逝かれてしまったOBの私たちは、待ちに待った自分達との話に花を咲かせるだろう。だがしかし時間が経つとOBの皆様は、今を生きている私たちの様子を観たくなるのではないだろうか。
そこで「窓」のシステムの登場である。
その窓は、無限に存在する私たちの生きている様子を観ることができる。そこには自分では叶えることのできなかった夢を叶えた自分を観ることができたり、這いつくばって頑張る自分を応援することもできる。
部活のOBが現部員の大会を観に行く様子に近い。

基本的に私は自分に自信がない。時々とんでもない無力感に襲われてどうしよもくなってしまう。そんな時に応援してくれたり、辛い自分を見てくれてたりしてくれる人がいたら良いなと思う。
でも毎度毎度、そんな都合の良い人がいるわけじゃない。
だから他の自分が見てくれてると想像したら少し気が楽になる気がする。
しかし、そんなたくさんの私に見守られながら生きていくのは、正直プレッシャーを感じる。少し遠くから指定校推薦パイセンがこちらを見ている様子に近い。

彼らの願いは「素晴らしい生き様」ではなく、「ただ生きていること」を希望する。期待なんかされたらもっと生きづらくなる気がするから。

たくさんの選択があっても、生き様自体に意味なんかは無い。
現在を生きられていることに感謝し、同窓会の最終受付者になれるように、永く見守られながら、今日も選択をしていく。

3週に渡る「死についてのいくつかの考察」楽しんでいただけましたでしょうか。
良いと思っていただけたら、スキとフォローを是非よろしくお願いします。
来週は「かわいい」についてのエッセイをお届けします。

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