見出し画像

休職終了宣言 -最終顛末-

東京から片道7時間かけてついたそこはのどかなのどかな山中にある、人口1,000人にも満たない小さい集落。あるのは山と川。

不必要な情報をシャットダウンし、心静かに過ごすにはこれ以上最適な場所はないかもしれない。ただわたしはその環境を求めているわけではないので、3ヶ月も退屈せずにやれるだろうか。一抹の不安が胸をよぎる。

お試し体験へいく前に担当者とは数回のオンラインセッションをおこなった。下記の利用条件はクリアしていた。

✅  仕事を休んでいる
✅  産業医または主治医よりリワークをすすめられた
✅  都会でリワークするより田舎でリワークしたい

この点について何度か「本当にわたしでも利用していいのか」と担当者に確認した。
たしかに条件はあっている。けれどもわたしの「制度を積極的に利用したい」と先方の「困っているひとをサポートしたい」には根本的なずれがある、という確信があったからだ。

「やっぱ対象外ってことになったりしませんか」
「利用資格はあります。他の方に危害を加えるとかルールを守らない、といったことがない限りお断りすることはありません。体験でたまこさんに必要かどうか確かめてください」

担当者は相手を傷つけたり否定しないよう訓練されている。こんなわたしでも迎え入れる体制であることを繰り返し述べた。

そしてキャリア迷子のわたしのために的確なプラン(都会からの移住者へのインタビュー)を組んでくれた。

一方わたしはその間、
・3ヶ月間の東京の家賃がもったいない
・ちょうどアパートの更新月になる
・もろもろ一回すべてリセットする

などの理由からフライングでアパートの解約手続きをすませた。体験からもどったらすぐに引越し準備だ。

氷柱(つらら)

宿泊型リワークお試し体験

基本の流れ

7時起床→朝ごはん(まかない)→朝の体調確認→軽い運動→リラクゼーション→昼ごはん(自炊。たまに外食)→自主活動(16時頃終了)→自由時間→夜ご飯(まかない)→就寝

体験1日目

利用者は数名。お互いほどよい距離感を保ちつつ、挨拶や施設の紹介をしてくれる落ち着いたメンバーだ。彼らとなら3ヶ月やっていけそう。

なお、休日や自主活動中のアシはない。でかけるなら歩くか、日に1本しかないバスを利用する。

逆にいえば山や川はある。猿も鹿もいる。自分で自転車を持ち込みさえすればサイクリングには最適だ。やり方次第でなんでもできる。つまりすべては自分次第ということだ。

人はほぼいない。宿泊施設も今はコロナ対策で部屋食になるので、ひとり好きにはもってこいだが、コミュニケーションが好きなひとにはしんどい可能性はある。

体験2日目

朝の運動メニューは1km程度の軽い散歩だ(日によってメニューは異なる)。わたしにとっては逆にストレスになるくらい軽すぎる。しかもみんなで散歩というのもあまり好きではない。自分の感度がさがるからだ。

木々が風が揺れる姿を眺め、
歩く自分の衣擦れの音に耳を傾け、
鼻先に感じるひんやりとした空気を感じながら散歩するのがわたしは好きだ。
それがわたしにとってのリラクゼーションなのだ。

午後は自主活動という名のフリータイム。

ふとんに入って休むもよし、語学学習をするのもよし、日記を書くのもよし。すべては自分次第。明確な目標とスケジュールを設定しておかないといくらでも休めてしまうに違いない。
もちろん休んでいいんだけど。

夜、宿泊所の食堂へいくと利用者が声をかけてきてくれた。わたしの様子を伺いながら声をかけるタイミングをずっと見計らっていたのだろう。

「たまこは見た目も中身もかなり元気そうだけど、どうしてここに?」
隠すことはひとつもないので、コトと次第を完結に伝えると彼らは納得し、そして、

「たまこさんはここでは退屈するんじゃないかって心配」
「ひとがいなさすぎて自分でも物足りないくらい」
と、運営者は話さないであろう、ここでの生活の実感や感想をいろいろ語ってくれた。利用者側の意見と情報は有益だ。
そして何よりひそかに気にかけてくれていたのがうれしかった。

樹木を覆う氷のかたまり

体験3日目

昼ごはんは冷蔵庫の食材をつかって利用者同士でご飯をつくる仕組み。
食費は利用者負担のため、まかないさん(近所のお母さん)は我々にコストの負担がかからないよう工夫をこらしてくれる。
だが、それでは運動量の多いわたしの胃袋は満たされない。

「おなかすいた」「ひもじいよう」

初日からそうこぼしているのを聞いていた昼ごはん担当の利用者さんがボリューミーなお昼ご飯をつくってくれた。

この日は午前・午後ともに担当者と村をまわって移住者の話や村にどんな仕事があるのか話をきいた。

村にはおばあちゃんちの電球交換や草刈り、害獣となる猪や鹿の退治など、仕事がいろいろあるが人手は足りていないという。

常々機会があれば四つ足動物を一度は仕留め、捌き、食べ、始末するという一連の流れを体験してみたいと思っていた。
そうだな。3ヶ月滞在するときはハンティングのサポートをして改めて生きる原点について学ぼう。

ここで暮らす人々と話をしているとこれからはじまる3ヶ月間の生活をリアルに実感できる。

ここでは生きていくために、生活するために本当に必要なことをしている。
仕事って本来はそういうものだ。

働くことは生きること。

都会で言うとそれはなんだか別の意味をもったたいそうな理念に聞こえていたし、そう思っていた。でも本当はそんな概念ではなくて、ただの実生活そのものなのだ。

畑を喰い荒らす鹿を撃ってきたじいちゃんの話を聞きながらそんなことを思っていた。

体験4日目

週末のプログラムは寮の掃除。
早朝、ランニングにでかけると土地のひとたちは見知らぬわたしにも気軽に挨拶してくる。車のなかからも頭をさげてくれる。
昔から修行僧が多く通る場所だったそうで、村民の気質が閉鎖的ではないそうだ。移住するならこういう開放的な村がいい。

宿泊しているメンバーともすっかり打ち解けていたので、東京へ帰るのが名残惜しく感じる。ふとんはちょっとくさかったけど。

さて、リワーク体験の結果は。

休職終了活動の最終顛末

氷の紋様

結果:リジェクト
理由:たまこにサポートは不要

体験後半、担当者との個別面談でまさかの「お断り」をされてしまった。

やっぱりかー。
だから言ったじゃん、ほんとにわたしでもいいのか、って。

と、思いはしたものの、しどろもどろの担当者にそんなことはいえない。最大の善意で体験利用させてくれたことには感謝だ。

本来はもっと平穏な時間を必要としているひとや休める場所がないひとたちに提供されるべきなのだ。
ここでなにか成し遂げたいという強い意欲があるひとには向かないのかもしれない。

ということではわたしは
会社への復帰をリジェクトされ、
リワークもリジェクトされた、
ダブルリジェクト状態
で東京へ戻ることとなってしまったのだ。

※写真はこないだ行った秩父の氷柱。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?