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ハイデガー「言語は存在の家」vsラカン「言語は非存在の家」

 ないものねだり。他人のものばかり欲しがる人。例えば、決して自分のものにはならない非存在(所謂 不倫や浮気) だが、その男(女)が他の女(男)のものになることは許せない。それをぶっ潰し、関心を自分に向けようとする。母=グレイトマザーの恐ろしさ。

 愛してはいけない、欲してはいけない人(例えば、母や父)を愛し、愛されすぎた者はこの運命に翻弄され、決して自分のものにはしてくれない、手に入れさせてくれないくせに、他の女/男を手に入れることは許さない。幸せになれそうな女(男)からは次々に引き裂かれ、不倫や浮気、つまり手に入れられない人にしかエロスを感じられない、そして追っ手から逃れる最終手段としては同性愛しかない。(フロイト)

 決して自分のものとならない他者のもの=非存在であるが、自分が最も愛し、また愛してくれた憧憬的存在。「母」的存在=憧憬=非存在に手をつけてはいけない。エロス=嫉妬や羨望、その抑制が「法」を作り、その法を共有する人々の村→「国家」となった。これが「法」や「国家」の起源であることは古事記やマルクス、特にエンゲルスやフロイト、日本においても吉本隆明の分析より明らかである。(嘘だと思う人は古事記、エンゲルス「家族・私有財産・国家の起源」フロイト「トーテムとタブー」etcご一読を)

イザナミ
「私の身体には欠けているところが一カ所ある」
イザナギ
「私の身体には一カ所余計なところがある」

 古事記はエロいが欠如=エロス充足が日本という国家の起源だと慎み深く描いている。

ラカンは言う。このアイディアはプラトンに依拠するものであると。「エロスを妊娠させることができる」のは「貧困」のみである(セミナールvol8) エロスとは非所有 持っていないもの対象にしか生まれない。その対象は手に入れた途端、新たな対象を求めるようになる。ソクラテスもエロスとは欠如への愛(饗宴)だと言っている。

非存在の追求が
愛であり、
法であり国家を生み
そして
経済を発展させる
「欲しい」「欲しい」「欲しい」……

 私はあなたが私の贈るものを拒絶してくれるよう頼む。なぜならそれではないのだから」(ラカン セミナール 1992/2/9)

 満たされない欲望、欲望の消滅を可能な限り延期したい=ハングリーでいたいという無意識。頼まれるものを与えると、頼みものを与えられると愛は終わってしまう。「私にキャビアを下さらないように」(肉屋の妻の夢) 手に入れると調子に乗ってしまう。次も??あれも?これも?

 エロスの継続のためには、欲望の主体が欠如しているものを求め続けていたいのだ。憧憬にハイデガーが着目したのもこの点だ。自分のものとなると、もはや憧憬する対象ではなくなるからだ。つまり完全に得てはならない。「取らないという条件でそれを欲しがる」べきなのだ。(セミナール vol22 1974-5)

 言語も同じである。人間とは欠如を埋めるために、シンボルを操る生き物である。(カッシーラー) 人間は言語を通して「認めたくない自分」を否定し「存在を非存在」に,「なりたい」者になるために「非存在を存在」とする。カミングアウトできない秘密を隠蔽し「自分はやってない」「自分は・・ではない」etc.非存在を追求する自己分裂の世界に生きている。こうして人間は物理的事実から逸脱し、象徴界(言語)のなかで非存在を追求する。ハイデガーは「言語は存在の家」と言うがラカンの定義「言語は非存在の家」の方が適切ではなかろうか。

 つまり 人間と言語の関係も非存在と存在の関係=欠如=エロスに関係し、言語=シンボルを通して「存在とその否定がまったく同一」となる。ラカンはソクラテスを継承、修正するプラトン「饗宴」や「パルメニデス」読解を通して新プラトン的な意味で「存在と非存在がまったく同一」となるエロスの役割に着目したのだ。

ラカンが再発見したとも言われるフロイトは気づいていた。性(エロス)は全てを反対にすると。(本能とその運命)

 エロスに忠実、つまり本能に忠実に生きる者の運命。ドゥルーズ•ガタリ的、分裂症(スキゾ)的「愛」。手に入らない人(もの)を求め続ける。そして、手に入れば次。決して「与えられない」影の存在=非存在としての精神分裂的 嘘を吐き続ける人生。したがって

手に入らないエロス=欠如が 上記、
・法、国家の起源であり、
・言語の存在理由

欠如を満たす金が
・経済を回すも
・決して満たされることなき心

 エロスとは破滅の死の欲動(フロイト)
フロイトそしてケインズが指摘した通り、エロス=欠如が資本主義の原動力でもあるが、これはマルクスが求めた経済構造の変革でどうにかなるものではなかったのだ。人間の嫉妬、羨望、手に入らないひとのものを欲しがる欲望の三角形(ルネ・ジラール)=欠如=エロス ここに答えがあった。




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