ソクラテス、プラトン、アリストテレスの違い:村田沙耶香「消滅世界」を通して簡単に!


ソクラテスは自分を観ろ、
プラトンは空(上)を観ろ。
アリストテレスは地を観ろと言う。

ソクラテスは誠実に内面に向き合え、対話を重んじる人、
プラトンは天を仰ぐ厳格な理想主義者。
アリストテレスは地に足ついた外界のリアリスト。兼、行動、実践の人

 ソクラテス、プラトン、アリストテレス、この三人のうち、誰を愛し、誰を師としたいかと聞かれれば、ソクラテスを父に、アリストテレスを師にしたいと述べる。彼等の違いを1ページで述べ、我が答えの答えとしよう。

 ソクラテスはできる子も、できない子も、みんな「できる」が「できない」。みんな平等に、無知の知、人知の「有限」性を教えてくれるから好き。プラトンはできる子だけを選抜、優遇し、できない子は排除するから嫌。

 プラトンのような理想と優越を重んじるイデアリストを父に持つと病むだろうし、地に足つけてない感じが父としても師としても後ろを追い難い。外見に騙されず、唯一究極の数学的 絶対知=イデアに行き着けと理想の彼方まで尻を叩くプラトンにはなにか具体性に欠けると子どもであったら思ってしまうかもしれない。何よりも、エリート養成のためには結婚の過程の最初=性交渉から干渉され、乳幼児誕生後には「数学が分かる」優秀な幼児だけが選別されるなんて私には耐え難い。親ガチャの影響をミニマムに抑えるために、優秀な子は社会が育てるべく選別されるのだ。プラトン「国家」はだから読むには面白いが、プラトンは父や師となると厳しいかもしれない。

 その点、アリストテレスは私たちを海に連れて行き、貝殻を手に取り観察し,貝の「多様性」と「複雑性」について現実を実地に教えてくれるから楽しそう。

 だから「分類学」「類型学」の父アリストテレスは、師、プラトンが都会に創設した学校「アカデミア」に反抗し、森の中に「リュケイオン」を造り、「生」の多様性と偶発性を「生(なま)」で教え、生徒たちを感動させた。

 アレキサンダー大王も彼の生徒の一人だ。だから、アレキサンダー大王は馬が狂ったように暴れた時、馬が自身の影に追っかけられ怯えているのが「見えた」。そんなアリストテレスの書いた倫理書が「ニコマコス倫理学」。それはプラトン的「必然」を学び、究極の善=イデアに近づくような教育ではなく、生命の「偶然」を愛し「中庸」に生き、対応することを教えた書。分かりやすいので読んでみて頂きたい。

皆さんはこの3人の中で、誰を愛し、誰を師としたいと思われただろうか。

とても素直に人間の無知を愛し対話を重んじたソクラテス、

感覚を否定し、確実とも言える絶対知=神の知とまで言えるような「必然」を、主に数学を通し探求し、後継=エリート養成に奮闘した厳格なイデアリスト、プラトン。

経験を重んじ、偶然の多様性や複雑性を観察させ、類型を学ぶことにより判断力を養うことを第一義としたアリストテレス。

村田紗耶香による「消滅世界」で消滅したのはソクラテス的「知」とアリストテレスの愛した「生」の「生(なま)」性。反対に、まさにプラトンが「国家」で描いた理想世界がここに描かれている。

 フロイトに「性」ほど複雑で人の数だけ多様なものはないと言わしめた「性」が社会の管理のもと、科学的交尾=人工授精のみによる出産へと画一化される。なまの交尾を通して出産した者は「妻」と「近親相姦」した野蛮な「動物」として摘発されるような世界では、出産後に子どもは社会に預けられ完璧な幼少期が期待できる。そして、みんなが「子供ちゃん」のお父ちゃんとお母ちゃんとなり「愛玩動物」を可愛がるように平等に社会の「子供ちゃん」を愛する世界。遂には、男性も人工子宮を持てるようになり「結婚」の必要もなくなり、そして「家族」という概念も失われそうだ。そんな異常が正常となった世界では正常ほど「狂っているのに、こんなにも正しい」とされるので、誰の耳にももう、ソクラテスの箴言など耳に届かない。そして

「おかあさあん」 私を呼ぶ声

の後を追い、我が子を新生児室で探そうとする「おかあさん」は社会の子どもを窃盗する犯罪者となる。

「おかあさあん」戦地で兵士が吐く最後、且つ最多の言葉だそうだ。「おかあさあん」という語がなくなれば、知らないことは知らない。つまり、「繋がり」も「寂しい」なんて「心」も「孤独」も消える。忘れたことも忘れ、なくした記憶もなくすのだから何も喪失していない。「孤独」でないと確信をもって自分は「知ってる」のだ。筒井康隆「残像に口紅を」、川村元気「世界から猫が消えたなら」もそんな喪失の喪失を喪失しないためのお薦めの本だ。

最後に、
ソクラテスのようなお父さん、アリストテレスのような師がいたなら、絶対に、プラトン国家のような村田紗耶香「消滅世界」は生まれないだろうと言いたいところだが、ソクラテスはプラトンの師、そしてアリストテレスの師がプラトンなのだから「偶然」が何を生むかは彼等とて分からなかったはずだ。「男と女」も家族「愛」も、「エッチ」も、「親ガチャ」も「孤独」も無くなる人工「性」による理想社会=プラトンが愛し、アリストテレスが背を向けた「生(なま)」の「消滅世界」をご堪能下さい。そしてこの世界では、やはりソクラテス的人物は確実に死刑となりそうだ。「世界で一番恐ろしい発狂は、正常だわ」「ちゃんと異常でいたいのに」…この本を薦めてくれた「異常」な我が旦那様に感謝。

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