読書メモ 「新装版 花田少年史 4」

「新装版 花田少年史 4」
 一色まこと 著
 講談社 2015年


「キチンと」が信条のゴンパチ。一路のおかげでなんとかキチンと死に支度を整えたわけだが、なぜか成仏ができない。寺にお給金を寄付し「終活」までして思い遺すこともないはずのゴンパチが…。

こうなると、ゴンパチの「キチンと」は「やり遺したこと」を無理矢理にでも忘れようとしてそうなってしまったようにも感じる。キチンと終活したところで、それが表面上のものである限り人は死にきれないのだろう。でも桜の木の下で「あの頃」に戻れて本当によかった。
人は誰しもなんらかのやり残したことがあるものだが、ダンナの「やり遺し」はなんだったろう。あぁ、マンダム…。


—— それにしても、りん子である。
よりによって、りん子と好き合うとは。
けしからぬ。断じて許せぬ。
母ちゃんにも黙って逝こうとして…。

「霊と接触すればするほど… あの世とこの世の境が薄くなってきているために… そうでなくても慎重のシの字もないヤツが… ますます無鉄砲で大胆に… 危険に対してはほとんど無頓着になる一方だ」

越えてはならない一線を超えていこうとする痩せこけた一路(これが最期のダンナと似ているのだ。見事生き返る一路に重ねて『花田少年史の一路にソックリだよ』と言ったら、ダンナはなにか言いたげで言わなかったが)。
ただりん子の生い立ちを知れば、切ない。
りん子を好きになることで、そしてりん子と別れてしまうことで一路は少年から大人になる。一路はりん子であり、りん子は一路なのだ。

総動員で絶体絶命の一路を助ける成仏した霊たち、ピリリと効いた胡椒のような予言をするマンダム(なるほど、浮遊霊か)。そして家族…。みなが一路のもとに集まってくる。

ここには幽霊や死が描かれている。しかし『花田少年史』は一路の成長物語であり、永遠に続く「生の歴史」なのだ。


この記事が参加している募集