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髪結いの亭主


「好きな映画を1つ決めてあげてください」と言われたら、私は迷わずこの映画を選びます。

この映画は、大学生の頃、フランス語の授業で見ました。生徒が何人いたか覚えていないけど30人くらいはいたと思います。これを30人で授業中に見たかと思うと、なんだかちょっと面白い光景です。大学生とはいえ、授業で生徒たちに見せるには、教授のチョイスもなかなかのもんだなと思います。

フランス語の授業中ということはそっちのけで、私は何とも言えないものを胸に感じました。”何か”に感動したのですが、”これ”というのを言葉で表現することはその時難しかったのを覚えています。けれど、改めてその後一人で何度も見て(当時はまだビデオで、ビデオを購入しました)、「世界観が丸ごと美しい」ということと、「髪結いの亭主」のこの主人の幼い頃からの”夢”も、求婚する様も、そして何より「亭主とマチルダ、二人でいることがすべて」ということで表現されているものがどこか”奇妙”なのに、”奇妙”ではなく”美しい”と感じ、共感を根底に持ててしまう。私にとっては、そのように感じられた作品でした。

パトリス・ルコント監督の作品ですが、「原作を読み込んだら二度と本を開かない」と映画学校時代に学んだルコントは「大切なのは心に残ったものは何か、ということ。それを理解し、自分のものにしたうえで表現することが大事と学んだ。とても良い方法を教わったと思っている」とコメントしているそうで、これほど、どこの表現、どこのセリフをとっても、一つの美しい世界観の中で自然に流れているように感じるのは、それでなのかなと思いました。

生死についての感覚も、私の中でこの作品に出会っていたことで、”生きること”も ”死ぬこと”も、根っこのところで判断をしないでおれるような、「生も死も生きることの表現としてある」ということを感じさせてくれたのではないかと思います。

音楽は マイケル・ナイマン - Wikipedia 。映画を見て、音楽だけで聴いても、この映画の世界に浸れるほどに、音楽もまたこの映画を表現しています。


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