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南座三月花形歌舞伎 初日 〜愛と情と艶〜

南座の三月花形歌舞伎、初日観劇してきました。
近松門左衛門没後300年ということで「河庄」「女殺油地獄」の近松作品が2本もあるのは関西人としては嬉しい限り。京都の南座で、東京の役者さんが上方歌舞伎をいずれも初役で演じられるのも楽しみです。

(歌舞伎初心者のキャッキャした目線での感想ですのでトンチキな部分もありましょうがご容赦くださいませ)


河庄 〜愛〜

紙屋治兵衛の右近さん、紀伊國屋小春の壱太郎さん。先月はこのお二人、「曽根崎心中」のお初徳兵衛でした(感想書きました→壱太郎・右近のお初・徳兵衛がものごっつよかった)。

お初徳兵衛が若さゆえに思い詰めて暴走してしまうお話なのに対して、小春治兵衛は大人のお話。
治兵衛は妻も子もあるお店の主人であるにもかかわらず身上潰しかねないほど遊女小春に入れ上げてるという、純粋で真っ直ぐな徳兵衛に比べて、いや比べなくてもふつうに考えてそうとうクズです。
右近さんの治兵衛は、うーん、ちょっとまだ若いかな、と。小春への想いで周囲が見えなくなり自分のことしか考えられずにいるんだけれども、年齢的には立派な大人なのに大人気ないことをやらかしているというギャップ、若いクズよりさらに酷いクズ感がいま一歩足りてないかな。まだ初日なので日を重ねるに連れどんどんこなれていくことに期待しています。

壱太郎さんの小春は、周囲に翻弄されて死ぬことでしか逃げ出せないと思い詰めてしまう。「曽根崎心中」で右近さん徳兵衛に対して感じた痛々しさを、本作では壱太郎さんの小春にひしひしと感じました。

隼人さん演じる治兵衛の兄、粉屋孫右衛門は、弟と違って浮気どころか茶屋遊びもしたことがないという堅物。弟思いであると同時に弟の妻のことも案じていて、小春と治兵衛を別れさせるために侍のなりをして小春に会いにくるのですが、重い役回りなのにどこかコミカル。茶屋の作法にも不案内だし町人が侍のふりをしているので、刀の扱いや言葉遣いがおかしかったり。

そして治兵衛と孫右衛門、善六(千壽さん)と太兵衛(千次郎さん)の掛け合いが面白い。こういうぽんぽんリズミカルな遣り取りがあることで、全体が重くなり過ぎないのだなあ。

テーマは「愛」。小春治兵衛の話だから愛なのかな、と思ってたらむしろ、妻の夫への愛、兄から弟への愛を強く感じるお話でした。

女殺油地獄 〜情〜

とても好きなお話でいつか隼人さんの与兵衛が観てみたいなあとずっと思っていたのですが、まさかこんなに早く願いが叶ってしまうとは。もう死ぬのかな、と一瞬思いましたがいえいえ、歌舞伎座なり南座顔見世なりで拝見するまで死ねません(長生きしよう)。

隼人さんの河内屋与兵衛、まだ硬い部分もあれど初役の初日であれだけの演技は素晴らしかったと思います。ところどころに仁左さまみ。でもやっぱりこれは隼人さんの与兵衛だな、と。どんどん磨いていってほしいです。

あたしは仁左さまのは映像でしか拝見したことないのだけど、与兵衛がお吉を殺してしまおうと思い立った瞬間の表情の変化にゾクっときてしまったのを覚えています。南座の顔見世興行で拝見した愛之助さんのは、クズなんだけどどこかしらチャーミングで、でも憎まれ口をきくときはほんと憎たらしくてなんか腹立つという、不思議に層の厚い与兵衛でした。

隼人さん与兵衛、お吉が借金を断る理由に夫から与兵衛との不義を疑われたことを挙げたのに対して「不義になって貸してくだされ」と言ってお吉に迫るとき、目の色がぱきっと変わるんですね、一瞬でシャッターがおりたように光が消えて温度が変わる。うわぁこれサイコパスの目。その後少し正気に戻ったり、かと思えば目が泳いだり…観てるこっちが息ができなくて、しかもはーちゃんの表情追うのに三階後方席からオペラグラス越しに目こらしてて(ドライアイなのに)、隼人さんも壱太郎さんもお怪我なさらないかしらとリアルな心配もあって、最後のほうちょっとしんどかったです。

与兵衛の両親は息子への情が断ち切れず、お吉は与兵衛に情をかけたことで与兵衛に縋られ殺されてしまう。なんか辛いなあ切ないなあ。

忍夜恋曲者 将門 〜艶〜

十代の頃から繰り返し読んだ森川久美の「宵ひ闇つづれ」という漫画に将門を踊る場面があって「雨も頻りと古御所に解語の花の立ち姿〜」と暗誦できてしまうほどなのですっかり観た気になっているのですが、初見です。

壱太郎さんのあでやかさと舞の見事さについては何も言うまい(言えない)。

隼人さん光圀の松プログラムと右近さん光圀の桜プログラムとでは衣装も演出も違っていて、松のあと桜を拝見して「うわーっそうきたか」。
隼人さんと右近さんの演技上の個性だけでなく、お二人上背がだいぶ違うので、おそらくそれも考慮されてのあの演出なのかな、と思ったりもします。

右近さんはほんとに声がよろしいな。あたしは右近さんの「●●と見せかけてじつは…」みたいなお役が大好きなので、彼の滝夜叉姫も観てみたい気がします。

あと蛙可愛い。


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