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19-20 第37節 Premier League Liverpool vsChelsea Match Review

 皆様、お久しぶりです。今回はリバプールのプレミアリーグ優勝セレモニーが印象的だったリバプール対チェルシーのマッチレビューをしていこうと思います。本格的なマッチレビューをするのは今回が初めてなので至らないところもあるかと思いますが、温かい目で見守っていただけると幸いです。

1.両チームのスターティングメンバー

リバプールのスターティングメンバー

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チェルシーのスターティングメンバー

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2.ランパードのリバプール対策①

ランパードがとった1つ目のリバプール対策は2ボランチ+ウイングバック(以下WB)の採用です。リバプールは守備時に4-3-3となり、両ウイングが外側のパスコースを遮断してボールを中央へ誘導し、中央へボールが来たところをインサイドハーフ(以下IH)とアンカーのところでボールを奪取し、ショートカウンターを行うのが特徴のチームです。そこでランパードは2ボランチとWBによってリバプールのハイプレスを回避しようとしました。

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図のようにDFからボランチへパスを出します。当然リバプールのIHはアプローチに来ます。するとIHはボランチに引きつけられWBがフリーとなります。ボランチはWBにダイレクトでパスをすることでWBがフリーでボールを持つことができ、ハイプレスを回避しながら攻撃の起点を作ることができます(アンカーはIHが空けたスペースのカバーリングが守備時の主な役割なのでアンカーがアプローチに行くことはあまりありません)。また、その後IHがWBにアプローチに行った場合、ボランチはWBからリターンパスを貰うことである程度時間とスペースを確保した上でボールを持てます(IHのカバーに入るアンカーのマークを外す必要はありますが…)。

このようにWBがボールを持った際、普通はサイドバック(以下SB)が前に出て対応をするのですが、ランパードはそれをさせないような工夫を施していました。

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現在、DFラインで数的優位を作って守るのがセオリーとなっています。この試合のチェルシーは3トップのため、リバプールは4バックで守ることになります。するとリバプールのSBが前に出れなくなり、WBのドリブルでの前進を許してしまいます。またボールサイドとは逆のサイドのWBも攻撃に参加し、5トップのような形になって攻撃の厚みを出す狙いが見て取れました。

またチェルシーは3バック、GKからWBへのロングパスやWBからWBへの、またはボランチからWBへのサイドチェンジを多用した攻撃が見られました。

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GKからWBへのサイドチェンジの一例

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ボランチからWBへのサイドチェンジの一例

以上のようなWBを起点とし、ピッチの幅を広く使った攻撃がチェルシーには多く見られました。

3.ランパードのリバプール対策②

2つ目のリバプール対策は5-2-3でのハイプレスです。

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ジルーによるカバーシャドーにより、リバプールのサリーダ・デ・バロンのキーマンであるファビーニョへのパスコースを遮断します。またコバチッチがファビーニョのマークについているのでジルーがかわされた場合もファビーニョに時間とスペースを与えないようにしていました。さらにWBを5バックのサイドバックとして組み込むことで、高い位置まで進出するリバプールのSBをマークさせる狙いがありました。

4.ランパードのリバプール対策③

3つ目のリバプール対策は自陣での撤退守備時に5-4-1で守るということです。3トップのウイング2人、すなわちマウントとウィリアンを2列目に下げることで中央のスペースを消そうとしていました。また5バックもほぼペナルティエリア幅の中に収まりきるくらいにコンパクトな陣形を維持して、ハーフスペースを完全に消すという狙いを持っていました。1列目と2列目のいわゆるライン間のスペースもコンパクトな陣形の維持により無くそうとしていることが見て取れました。

5.リバプールのチェルシー攻略法①

チェルシーの幅を使った攻撃に対してはウイングのマネを1列下げて、4-4-2への可変を行なっていました。その際、2列目の選手はスライドしてIHの選手がWBに対してアプローチに行くという方法が採られていました。

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またチェルシーのWBに対してSBが前に出て対応をした場面もありました。

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現在のリバプールのCBはファン・ダイクとジョー・ゴメスでありいずれも足が早く、対人能力の高いCBであるので数的同数でも守りきれるという判断なのでしょう。それに加え、IH、アンカーの守備強度は非常に高いため、そもそもサイドチェンジをされない、させないというのがリバプールの決まりになっているのも要因だと思います。

また1点目のシーンなんかを見れば分かりやすいのですがそもそもリバプールのライン設定がとんでもなく高いです。相手陣地にフィールドプレイヤー全員が入っているなんてことは往々にしてあります。そのためWBが苦し紛れのクリアをせざるを得ないと言う状況も確認できました。当然ボールサイドの人口密度も高いので、容易にボールを回収できてしまう、そしてショートカウンターで仕留めるという形で1点目は決まりました。

6.リバプールのチェルシー攻略法②

2つ目のチェルシー攻略法はチェルシーのハイプレスの回避パターンです。簡単に攻略法を述べると前に引き出して、空いたスペースに素早くボールを送り込むです。チェルシーはハイプレスに行く際に「5」と「2-3」の間が空いてしまうという弱点がありました。リバプールはその隙をついたサリーダ・デ・バロンを状況に応じて行えていました。いくつかパターンがあるのでそれを紹介します。

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まずはファビーニョが囮になる型です。ファン・ダイクがボールを持った際にあえて中央に絞るような動きをします。ジルーは当然ファビーニョへのパスコースを消しながらファン・ダイクへアプローチに行きます。しかしファビーニョをマークしてる選手(ここではボランチ)もファビーニョについて行ってしまうので、結果的にボランチの裏のスペースをIHに使われてしまい、ハイプレスをかわされてしまいます。

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次のパターンはバックパスにより相手を前に引き出して、「5」バックと「2-3」のユニットの間のスペースを突くというものです。このシーンではアレクサンダー・アーノルドのバックパスからアリソン、ファン・ダイク、ロバートソンとサイドチェンジをしていき、最終的に偽9番で下がってきたフィルミーノに縦パスを入れて一気にプレスを剥がすことに成功しています。この後ボールはマネに渡り、マネのドリブルでの仕掛けからファールを獲得し、フリーキックをアレクサンダー・アーノルドが直接決め、2点目をゲットしました。

バックパスで裏を取るパターンはマネがよくやるパターンでもあります。彼は自身の前にスペースがないとDFまたはGKまで大きくバックパスを出します。これに相手が食いつけば、その相手の後ろにはスペースができるので、マネのバックパスを受けたDFまたはGKはそのスペースへボールを展開してチャンスを作るというシーンは多く見られます。

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マネのバックパスからCB、GKによるサイドチェンジで相手の裏を取れた2つのシーン。特に下の図は4点目のシーンであるのだが、マネ、ファビーニョ、ロバートソンで細かくパスを繋ぎ、チェルシーの中盤を左サイドに集結させて、右サイドでアーノルドのアイソレーションを作り出している。その後マネのバックパスからゴメスのサイドチェンジでアーノルドにボールが渡ると、チェルシーの中盤はスライドが間に合わず、右サイドで3vs2の数的優位を作り出すことに成功している。


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また先ほど出てきたフィルミーノの偽9番によってできたスペースを活用する場面もありました。偽9番のフィルミーノにリュディガーが前に出た結果、WBとDFは絞らざるを得ません。その後リバプールは細かくパスを繋いで、最終的に右サイドのWBが絞ったためできたスペースにロングパスを送り、アレクサンダー・アーノルドのクロスを上げさせることに成功しています。ちなみにこのクロスをチェルシーがクリアしたことにより得たコーナーキックから3点目が生まれています。

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またサラーが下がってリュディガーを引きつけるパターンもあります。このシーンではまずCB間のパス交換でジルーのアプローチを剥がし、ゴメスがサラーへ縦パスを出します(この時ワイナルドゥムはアウトサイドレーンに流れてサラーへのパスコースを作っています)。そしてサラーの対応をするためにリュディガーは前に出てきます。最後にサラーはフィルミーノとのワンツーでリュディガーが空けた裏のスペースへ侵入し、決定機を作りました。

7.総評

ランパードが仕掛けたリバプール対策は概ね良かったと思います。WBを起点とした幅を使った攻撃は成功しているシーンもありましたし(チェルシー1点目のシーンなど)、5-4-1のブロックを形成してロバートソンのハーフスペース侵入を防ぐなど効果はありました。しかしハイプレス時にできるライン間のスペースを突く手段を多く持っていた(チェルシーの選手を前に引き出して裏を取る手段を豊富に持っていた)リバプールの前に5失点を喫し敗北しました。他にも電光石火のショートカウンター、ロングカウンターからもそれぞれ1失点するなどリバプールの強さをまざまざと見せつけられたという印象です。その中でも途中交代で入ったプリシッチの1G1Aの大活躍は大きな収穫です。彼の卓越したドリブルスキルは来シーズンでも遺憾無く発揮されるでしょう。敗戦の中でも希望はあったと思います。以上のような戦術的駆け引きや圧倒的な個の力が随所に見られ、非常に面白いゲームでした。

今回は長い文章になってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございます。



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