【洋画】「GONZO」

2008年の米・ドキュメンタリー映画「GONZO〜ならず者ジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンのすべて〜(Gonzo: The Life and Work of Dr. Hunter S. Thompson)」。

心理描写がお得意のアレックス・ギブニー監督。

ゴンゾー・ジャーナリズムとは、通常の客観的な報道ではなく、記者が自ら取材対象の中に入り込んで、記者の思いや考え、感情までも織り込みつつ、一人称で伝えることだ。キワモノ扱いされることが多いが、アメリカのジャーナリズムの一つのスタイルでもある。

ゴンゾーとは本来、“ならず者”とか“常軌を逸した”などの意味。そのゴンゾー・スタイルの創始者といわれるハンター・S・トンプソンの伝記映画だ。

彼の取材対象者、身内、仕事仲間、周りにいた人間へのインタビューで構成されてる。

60年代後半から70年代にかけてのアメリカの混迷期と、ソレに付随するカウンター&サブ・カルチャーを体現するように、銃、酒、ドラッグ(個人使用の自由を訴えてた)、女と破滅的なスタイルに突っ走っていくハンター。

それでも、ヘルズ・エンジェルス、大統領及び大統領候補、保安官など、上から下まで全く恐れることなく、ズカズカと入り込んで肉薄して、一方的な主観で記事を書いて一刀両断する姿勢はメッチャかっちょええ。

実際に、ニクソン、カーター、マクガバンらの大統領選の行方を左右するほどだったから。ハンターが「アイツは嫌いだ」としてドラッグ使用の噂(あくまで噂)を記事にしたら、有利だった候補の当選が絶望的になったのだから。

まあ、今でもフェイクとかマス“ゴ”ミとか揶揄されるメディアだけど、ハンターはキレイ事を全く言わないからイイのだ。「ゴミの俺が思うから、アイツもゴミだ」と書いちゃうし。

常にラリってて、ハチャメチャなジャーナリズムだけど、ハンターは「書くことで何かを変えられる」と頑なに信じていたのだ。

ハンターの理想とするアメリカン・ドリームは、何から何まで全てが個人的責任の上に自由なアメリカになることだったのだ。

ジャーナリズムは主観こそ面白いと思う。事件を材料に記者の思いを伝えることで前向きな議論の余地も生まれるし、記者の力量も試される。右から左まで混沌としてた方が良い。実は事実なんて重要ではない。皆が同じ方向を見て同じ意見であることが最も危険なのだよ。

ハンターはジャーナリストとしてアメリカでは取材対象者を超えるほどの人気者となったが、もともと刹那的な生き方ゆえに、自分の描く世界と同化し過ぎて、仮面を下ろさずに世間が求める役を演じてしまうことになる。つまりゴンゾー・ジャーナリストという殻にハマってしまう。

遂に何も書けなくなって、タイプライターを銃で撃つ。そして、常に、早く燃え尽きることを望んでたので、2005年に自宅にて趣味だった自分の拳銃で自分の頭を撃つ…。つまらない、もう飽きた、退屈だという遺書を残して。

その後の葬式は、遺言通りに、タワーを作って花火を使った派手なものだったが、全ての資金はジョニー・デップが出したという。

ハンターが書いた小説を映画化した「ラスベガスをやっつけろ」も観たい。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。