「音楽」
再読。あまり三島らしくない小説。
発表の場が女性雑誌ということもあってか、いつもの三島節も大人しく、わかりやすくて読みやすい。複雑な女性心理を、心理・精神分析学の見地から明確に解いていくような内容で、美という概念を重んじた三島にしては異色だ。
精神科医が、「私、音楽が聞こえないんです」と訴えて来た美しい女に対して、カウンセリング他治療を施して解決していく物語。
音楽とはオルガズムのことで、恋人と愛し合っても不感症となって悩んでるのだ。
途中、彼女の美しさと嘘と気まぐれに翻弄されながら、治療は困難を極める。
結局、彼女の不感症は、実の兄との近親相姦が原因で、それで感じた強烈なオルガズムの衝撃から抜け出せなかったのだ。
行方不明となってた兄と会い、「きっといつか兄さんを矮小な赤ん坊に変えて、私の子宮へ押し込んでやるから」と精神的な復讐を遂げて納得することによって、また音楽が聞こえるようになる。
「性の世界では、万人向きの幸福というものはない」はその通りだが、精神医学は、精神を治療するのに、薬以外は、医者も基本、自分の精神を使うのであって、治ったかどうかも、単に程度の問題に過ぎないことが多いから、フロイトなどの分析も、イマイチそのまま信じられない面がある。
脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。