【邦画】「サンダカン八番娼館 望郷」

とても哀しい作品だった。社会派映画の巨匠、熊井啓監督の、1974(昭和49)年の作品「サンダカン八番娼館 望郷」。

「からゆきさん」(海外渡航売春婦)の悲劇をテーマにした作品で、原作はノンフィクション作家の山崎朋子の同書籍。

女性史研究家である作家の三谷(栗原小巻)は、取材旅行中の天草で偶然、おサキ(田中絹代)という老婆と出会う。彼女がボルネオで働いていた元“からゆきさん”であることを知った三谷は、おサキの家に滞在して、その半生を聞く、という流れで進む。

田中絹代の、年季の入った、ボロボロの家に住む、堂に入った極貧の老婆の演技が素晴らしい。彼女の遺作でもある。

「男というもんは悪かもんぞ。どぎゃん良か男でも本気で惚れるもんじゃなか。本気で惚れると身ば誤るけんな。男は皆おんなじばい。わしゃ骨身に染みるごつわかっとる。わしゃあ、アレをやっとっても、良かと思ったことはいっぺんもなか」

…という台詞でわかるように、家が貧しいが故に、幼い頃に女衒に売られて、密航でボルネオに渡航した北川サキ(田中絹代& 高橋洋子)は、娼婦として客を取らされて、女衒や娼館の旦那に散々、搾取される。

そして、やっとの思いで帰国すれば、“からゆきさん”だったということで、近所から、家族からも、実の子からも蔑まれることに。

貧乏な家に生まれた女の子だったということで、一生、裏の道を歩かなければならなくなった、とんでもない悲劇だ。

それでも、取材に来た突然の訪問者に、優しく接して、自分の経験を聞かせる…。おサキは、寂しくて仕方がなかったのだ。誰でもいいから、一緒にいてくれる人が欲しかったのだ。

コレは創作物語ではなく、実際にあったことをベースにしてるのだ。目をつぶった当時の日本政府、利用した搾取企業と経営者、軍隊…つまりは男社会の犠牲になった訳で、男であることに負い目を感じざるを得ないような、やるせない哀しい作品であった。

からゆきさん(唐行きさん)とは、江戸末期から明治にかけて、家が貧困のために海外に出稼ぎに出された女性たちのこと。売春だけではないが、ほとんどが女衒を通して、本人の了承なく売られた。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。