「朽ちていった命」

YouTubeでノンフィクションの動画を見たから、文庫本を入手して読んだ。

日本初の臨界事故で、致死量を何倍も上回る放射線(中性子線)を浴びて、技術者2人が亡くなったのだが、最も被曝した1人の治療の記録。

まさに“朽ちていった命”で、被曝によって染色体をめちゃくちゃに破壊されて“設計図”を失った肉体は、二度と再生することなく、ボロボロと崩れていくのだ。凄まじいノンフィクションだった。

病院に運ばれた時は日焼けしたように赤くなってるだけで、会話も普通にできる状態だったが、身体の内部では、リンパ球や白血球が極端に減って、人間のベースである染色体が、バラバラに破壊されて同定できない状態になっていた。

まず皮膚に貼った医療用テープを剥がすと皮膚までがくっついて取れてしまうようになって、そこから皮膚や筋肉、心臓以外の臓器や組織、機能が日を追うごとに次々と崩れていく…。

なぜ心臓だけが正常だったのかはわからない。そこに生命の神秘があるのかもしれない。

その凄まじい症状の記述には息を呑むほどだ。

懸命に治療を施す医者も看護師も、徐々に、人格のある人間を治療してるというよりも、周りに機械をいっぱい付けたボロボロの肉体をただ維持するためだけに治療という作業を続けているように錯覚してしまう。それほど放射線に蝕まれた人間の肉体は凄まじく酷いことになるのだ。

助からないことがハッキリとわかってる中で、治療行為を行なっていくことに、声には出さないものの、激しい虚無感を感じて、患者に苦痛を与えるだけの治療行為に疑問を持ってしまうことも確かにあるだろうが、医療従事者は、1分でも、1秒でも、患者に長く生きてもらうために力を尽くすものだろうと考える。もちろん家族の同意があってのことだが。

案の定、東海村のJCOが、作業効率化を図った、違法の、バケツを使った手による作業で、臨界に達し核分裂が起こって、作業員は至近距離で大量の中性子線を浴びてしまったのだ。

人間は太陽をも作るまでになったが、実際には使うとなると放射線が人体に多大な影響を及ぼす問題がある。核の廃棄物も影響がなくなるまでに何十年という長い時間を要する。それでも原子力を使おうとするのは、政治・経済的な理由は別にして、原子力というものに、宗教に似たカルト的な未来を見てるからだろうと思う。地球上で原子のエネルギーでさえも支配できるという、引いては“神”さえも操ることができるという全知全能のような優越感だ。

東海村のJCOは、ウチの弟も昔、出向で作業に加わってたことがある。

こういう事故の記録は残して伝えていくべきだろう。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。