【古典邦画】「狂つた一頁」

「地獄門」の監督、衣笠貞之助が撮った「狂つた一頁」(1926・大正15年)。YouTubeにて。

完全なサイレント作品なのだが、まさか我が国の大正時代に、こんな前衛フィルムが作られていたとは!寺山修司よりも50年以上も前だぜ。

ブニュエルとダリの「アンダルシアの犬」か、独表現主義映画の「カリガリ博士」「ノスフェラトゥ」、スウェーデン・ブラメタ、Nattramn率いるSilencerのフィルムみたいぢゃないか!

スゲ〜、さすがアナキストが活躍した大正時代だな。衣笠監督っていったい何者?当時の観客にウケたのかなぁ?ウケないだろうな。脚本には川端康成も関わってるし。

舞台は精神病院(松沢病院がモデルらしい)。
後天的統合失調症(多分)で入院した妻を見守るために、病院で小間使いとして働く夫。
そこで、激しい雨が降る晩に、踊りまくる狂女や鉄格子から不気味に覗く狂人が出て来る。
患者である妻は、狂気ゆえに夫を認識できない。
翌日、夫妻の娘が訪ねて来るが、自分の娘のこともわからない母に失望して病院を去る。
朝の診察でも、妻の病状は良くはないらしい。
一方、一度は去った娘だが、戻って来て、病院の門番の少年に両親のことを訊ねる。
院内をフラフラと散歩する妻を見つめる父と娘。
突然、患者の男が娘に襲いかかる。
娘は、走って病院を抜け出す。
病院では、狂女が再び踊り始め、他の患者たちも興奮して騒ぎ出す。
騒いだ患者のひとりが妻を殴り、怒った夫はその患者とケンカになる。
その後、うたた寝をしていた夫は、町の福引きが当たる夢を見る。
夜に、夫は、妻を病院から脱出させようとするが、妻は戻ってしまう。
その際に病室のカギを落としてしまう。
そして、夫はまた、妻を連れ出す夢を見る。
その夢は、夫が医者や他の患者を殺して、そこに花嫁となった娘と、狂人の花婿が現れ、殺したはずの医者たちが乗る霊柩車がやって来る。
夫は妻や患者の顔に能面を被せて、自分も能面を付ける、というもの。
翌日、妻は安らかに眠っている…。

もうなんかわけわからん、まさにアヴァンギャルドでハチャメチャな展開だけど、妻を精神病院に入院させた夫の深い苦悩はわかる。

その苦悩が、現実と夢・幻想、狂気と正気の間で交錯しているのではないだろうか。

光と影を印象的に使った、二重写しやフラッシュバック、短いシーンをリズミカルに繋ぐ手法、クローズアップ、歪みなど、映画の技法も駆使してる。

イヤ〜、大正時代の前衛的な映画監督のラジカルなパワーを感じて圧倒された。

サイレント映画って、観る者の想像力が試されている感じがするね。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。