「樋口一葉赤貧日記」

「たけくらべ」や「にごりえ」で知られる明治の小説家、樋口一葉女史だが、「昨日より、家のうちに金といふもの一銭もなし」と日記に書くほど赤貧だったとは。

たった24歳で夭折するまで、全く金に縁がなかった彼女が、五千円札の顔になったのは皮肉だろうか。

父親が早くに死んで、20歳を過ぎた頃から、一家の主人となった一葉だが、幼い頃から裕福な環境にあったため、金を稼ぐという術に長けてなかったらしく、最大の収入源は借金のみ。

親類縁者、友人知人、小説の師匠から借りまくり(返す宛はない)、質屋も通い詰めて、ついには、見ず知らずの人間をいきなり訪ねて借金を頼む始末。

隠れて読書をするのが楽しみだったけど(当時は女性が本を読むのは良く思われてなかった)、小説執筆の動機は、小説家は儲かったらしいから、ただ金を得られるためであった。

それでも書いた小説がちょっと話題になると、書くことにプライドを持つようになって、彼女を弟子として世話した小説の師匠・半井桃水の恩情に頼りつつも(どうやらただならぬ関係になってたらしい)、師匠を踏み台として、いろんな媒体へと活動の場を広げていく。

一葉は、生きるために書くのではなく、書くために生きるようになったのだ。

最後まで金銭的なゆとりを持つことはなかったが、赤貧の中で生きることで、彼女の文学は実を結んだのだ。貧困なくして一葉の文学は生まれなかったのである。

「今さら、世間の評判がなにほどのことがあろうか」と日記に記した一葉は、金の工面で過剰なストレスを溜めたためか、肺結核を患い、満24歳半でこの世を去る。

また皮肉なことに、森鴎外をはじめ、名だたる文豪も出した彼女への香典で、現在の価値で200万円もの大金を稼いでいることになった。

4年間の内に、一葉が書いた小説による総収入は約666万円。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。