パラレル to Loveる・第2章〜Everything Everyone All At Once〜①
生徒会主催にして放送・新聞部も協力するクリスマス・パーティーが無事に終了したあと、オレは、目が回るほどのハードスケジュールをこなすことになった。
『ルートC』のセカイで、桃と一緒に、パーティーの司会進行を務め、桜花先輩を送り出す部内のささやかな打ち上げに顔を出したあと、『ルートA』のセカイに飛び、夜からは三葉とのクリスマス・デートを楽しみ、帰宅してからは、『ルートB』のセカイで、クラス委員の河野雅美とのメッセージアプリLANEでのメッセージ交換を楽しんでいた。
大晦日から新年にかけては、桃と一緒にゲームをしながら年明けの瞬間を迎え、夜が明ける直前に友人の冬馬と合流して近所の海岸で初日の出を眺めたあと、午前中から昼にかけて三葉と市内三か所の神社を巡る三社参りを行い、夕方には、近隣の神社で河野とともに生徒会選挙の当選を祈願するという一日を過ごした。
後頭部をなでたあとに映し出される惑星を眺めながら、文字どおり、セカイを股にかけた活動を行っていたわけだが、これだけのイベントをこなしながらも、この間は、疲れを覚えるよりも、いままで考えられなかったほど満ち足りた気持ちになる高揚感の方が大きかった。
「雄司、最近、付き合いが悪くない?」
オレの元いたセカイの冬馬に苦言を述べられ、親友に申し訳ないと感じる気持ちになったりもしたが、それでも、この充実した日々を手放す気持ちにはなれなかった。
三学期が始まってからは、交際中の幼なじみに部屋まで起こしに来てもらったり、ごくごくたまに、オレ以上に寝起きの悪い同居人である下級生を起こしに行ったりする日々を楽しみながら、クラス委員のパートナーが待っているセカイで生徒会選挙が行われる日を心待ちにしていた。
その結果は――――――。
得票率にして75パーセントに迫る投票を得た河野雅美は、独裁政権がカタチばかりの民主化をアピールするために行う国政選挙のごとく、少しでも心配することがバカバカしくなるほどの圧勝を収め、見事に次年度の生徒会長に選出された。
応援演説に立った先代の生徒会長である琴吹先輩や友人であるクラスメートの山竹碧と喜びを分かち合った河野は、その日の放課後、オレを生徒会室に呼び出した。
表向きは、次期生徒会役員への勧誘という名目があるのだろうが――――――。
琴吹前会長が気を利かせたのか、生徒会室に自分たちの他には誰も居ないことを確認したオレには、なんとなく、このあとに起こる展開は予想ができた。
「玄野くん……今日は、ふたつの返事を聞かせてもらうために、来てもらったんだ……」
「ひとつ目は、もちろん、生徒会役員のオファーだよな? それなら、もちろん、OKだ」
なるべく、さわやかに感じてもらえるよう努めて答え、笑顔をつくる。
オレの回答に、一瞬、安堵したような表情を見せた河野は、すぐに、緊張した面持ちに変わって、
「あの……もうひとつ聞きたいのは……」
「二学期に河野が話してくれたあと、桜木先生が教室に来て、ウヤムヤになったことだよな?」
わざと、遠回しな表現を使って確認すると、新しい生徒会長は、コクン――――――と、小さくうなずいて、うつむいてしまった。
その、健気で、思わず守りたくなるような仕草にドキリとし、喉がカラカラに乾くのを感じながら答える。
「あの……オレで良ければ……よろしくお願いします」
緊張で声が上ずるを抑えたため、小さな声になってしまったが、こちらの意志は、キッチリと彼女に伝わったようだ。
少しぎこちなくなってしまったオレの返答に、今度は心から嬉しそうな笑みを浮かべて、河野はつぶやく。
「嬉しい……ありがとう……」
目尻に伝う涙を軽くぬぐう彼女の仕草を目にしながら、オレは、この状況をお膳立てしてくれた先代の生徒会長に感謝していた。
河野雅美に興味を持って、彼女との仲を深める方法を探ろうと考えていたオレに、色々なアドバイスをくれたのは、この『ルートB』本線のセカイとは少し異なるセカイのコトブキ(今回も便宜上、高表現しておく)先輩だ。
そして、こちらの認識とは大幅に異なり、オレとの交際を申し込んできた河野に、様々なアドバイスをしたのは、この『ルートB』本線のセカイの琴吹先輩のようである。
結果的に想いを伝えたのは、河野雅美ということになったが、彼女と親しくなるための秘訣を授けてくれた『ルートB』支線のコトブキ先輩のアドバイスがなければ、オレは、彼女の申し出に混乱して、すぐに答えを出せず、もっと悩んでいたかも知れない。
ふたつの異なるセカイの先代生徒会長の合わせ技が、今日の結果につながったことを考えると、このセカイでは、琴吹先輩には頭が上がらないな、と感じてしまう。
そして、セカイを股にかけて、ふたりのクラスメートと交際することになったオレは、
(三葉にも、河野にもバレることはないし、ふたりを傷つけることにはならないんだから、これは浮気じゃないよな……)
と、自分を正当化することにした。
しかし、そんな安易で誠意に欠ける想いを持ってしまったからだろうか?
その日、ベッドで眠ろうとまどろんでいたオレは、まるで、天罰が下るように、突如として、激しい頭痛に襲われた。
痛みをこらえながら、なんとか眠りについたものの、夢の中では、海が真っ赤な色に染まった惑星が目の前にあらわれ、その不気味な雰囲気から、オレは、思わず目を背けてしまった。
そして、翌朝、目が覚めると……。
セカイは、決定的に、そのカタチを変えてしまっていた――――――。
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