文鳥

籠の中の文鳥がチュンチュンチュンと鳴きましたので、私は「どうしたの?」と尋ねました。

しかし、そんな問いかけを意に介さず、文鳥はまたチュンチュンチュンと鳴くのです。

私は文鳥が鳴く訳を考えました。

「お腹が空いたの?」と尋ねましたら、文鳥はチュンと鳴きました。
どうやら違うようです。

「どこか痛いの?」と尋ねましたら、文鳥はチュンと鳴きました。
どうやらこれも、違うようです。

「では、思い切り抱きしめてあげようか」と申しましたら、文鳥はチュンチュンと鳴きました。

ですから私は、籠の扉を開け、文鳥を外に出すと、そっと手のひらで抱きしめました。
小さな命のぬくもりを感じます。

文鳥は鳴くのをやめました。

明くる日。
籠の中の文鳥が、今度はチュンチュンチュンと泣きましたので、私はまた「どうしたの?」と尋ねました。

しかし、そんな問いかけを意に介さず、文鳥はまたチュンチュンチュンと泣くのです。

私は文鳥が泣く訳を考えました。

「ひとりぼっちが寂しいの?」と尋ねましたら、文鳥はチュンと泣きました。
どうやら少し違うようです。

「誰かに会いたいの?」と尋ねましたら、文鳥はチュンと泣きました。
どうやらこれも、少し違うようです。

「では、思い切り抱きしめてあげようか」と申しましたら、文鳥はチュンチュンと泣きました。

ですから私は、籠の扉を開け、文鳥を外に出すと、そっと手のひらで抱きしめました。
小さな命のぬくもりを感じます。

けれども文鳥はまだ泣いています。

私は急に不安になって、部屋の窓を大きく開け放ちました。
そうして手のひらをそっと開き、文鳥に申したのです。

「御覧。空はとても広いでしょう。あそこへ飛び立つことも出来るのよ」

文鳥は相も変わらず泣いています。
空を一瞥しましたが、飛び立つ様子も見せず、私の手のひらに頬を寄せるのです。

私はその小さな文鳥が愛おしくなって、再び優しく抱きしめました。

文鳥はチュンチュンチュンと泣いています。
昨日は聞こえなかった文鳥の声が、今日の私には聞こえます。
チュンチュンチュンと泣くたびに、ぎゅっと抱きしめてやりました。

そのぬくもりに安心したのか、文鳥はまぶたを閉じて眠り始めました。
私は文鳥の小さな体をずっと優しく撫で続けます。
この文鳥の望むことは、全てしてやろうと思いました。

文鳥は穏やかに眠りについています。
私が一撫でするたびに、優しい顔になっていくのです。
その様子が、なぜか私の心をざわつかせました。

ふと、手のひらで眠る文鳥の、小さな爪が、チクッと私を刺しました。
そうして私は気付いたのです。
チュンチュンチュンと泣く文鳥は、あの日の私でありました。

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