セント・カローナの祈り

山沿いの小さな町に、セント・カローナという教会がありました。
小さいけれど美しい、町に寄り添った優しい教会です。

教会は、隅々まで手入れされていて、ほこり一つありません。
庭には、庭師のエラルドじいさんが手入れをする色とりどりの季節の花がいつも咲いています。
人々は、美しい庭を見るだけで、心穏やかになりました。
けれども庭師のエラルドじいさんは、庭づくりに夢中で一度も教会でお祈りをしたことがありませんでした。

そんなセント・カローナ教会に、足しげく通う一人の少女がおりました。
両親に連れられ初めて来たその日から、少女は毎朝欠かさず教会へやって来ては一人で熱心にお祈りをしています。

始めは「ずいぶん信心深い少女だな」と半ば馬鹿にしていたエラルドじいさんも、少女のあまりの熱心さに、日が経つ毎、何をお祈りしているのか気になってきました。けれど、なかなか少女に話しかける勇気が出ませんでした。
少女の祈っている姿があまりにも温かくて優しくて、どうにも気が引けてしまったのです。

ある日、とうとう我慢できなくなったエラルドじいさんは、少女に聞きました。
「ああ、君、一体何をそんなに熱心に祈っているんだい?」

少女はニコッと微笑むと、優しく言いました。
「お隣の坊やが熱を出してしまったの。早く良くなるようお祈りしましたわ」

なるほど、とエラルドじいさんは微笑みました。教会に来られない坊やのため、熱心に祈るその少女は、それはそれは愛らしいものでした。

また別の日。
さすがに坊やの熱も下がったであろう頃、エラルドじいさんは再び少女に聞きました。
「やあ、君、また一体何をそんなに熱心に祈っているんだい?」

少女はニコッと微笑むと、優しく言いました。
「肉屋のおかみさんがご主人と喧嘩してしまったの。早く仲直りできるようお祈りしましたわ」

なるほど、とエラルドじいさんはうなずきました。今度は意固地になっているおかみさんのため、祈っていたのか。エラルドじいさんは感心しました。

またまた別の日。
仲良さそうに歩くおかみさんとご主人を見かけたエラルドじいさんは、少女に聞きました。
「ねえ、今度は何をそんなに熱心に祈っているんだい?」

少女はニコッと微笑むと、優しく言いました。
「石畳に咲く一輪の花を見つけましたの。ちゃんと育ってくれるようお祈りしましたわ」

なるほど、とエラルドじいさんは驚きました。儚く咲く小さな花のためにまで祈るなんて思いもしなかったのです。

そんなある日。陽が高く上り、また沈み始めるころになっても、少女はやってきませんでした。噂では、少女が風邪をこじらせたというのです。
それを聞いたエラルドじいさんは、少女が早く良くなるよう、熱心に祈りを捧げました。
坊やのため、おかみさんのため、小さな花のため、と熱心に祈る少女を想い、エラルドじいさんも初めて熱心に祈ったのです。

そして翌朝、またいつもの時間に少女がやってきました。
熱心に祈るその少女の姿を見て、エラルドじいさんはほっと胸を撫で下ろしました。
誰かのために祈るとは、なんと素晴らしいことなんだろうと実感したエラルドじいさんは、今日も優しく少女を見守っています。

おしまい

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春の毎日朗読会 開催中!
◆日時◆
4月中毎日22:45頃
◆場所◆
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◆内容◆
本noteに投稿された短編を、その日の夜に朗読いたします。一読だけでどこまで表現できるかの挑戦です。よろしければぜひご覧ください!

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【脚本】たかはしともこ(@tomocolonpost)
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【出演】鳥谷部城(@masakimi_castle)
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